プロローグ-1
照明の明かりが1つも点いていない、ただただ装飾の光だけが目立つような薄暗い空間の中。
その空間には多くの大衆が座席に敷き詰められていた、まるで何処かの武道館のライブのように。上質な色とりどりのスーツを着込んだ人々が多く、また中には民族衣装を着た何処か異国の者がいたり、名の知れている者の政治関係に携わる人間もいたりした。そんな人々が何かを待ちわびているかのように皆、中央の暗い壇上を見つめていた。
そして開幕の合図と共に、先ほどまで点いていなかった天井のスポットライトが順番に壇上の一点を照らし始める。照らされた明かりの中から、顔を隠すように仮面を身に着けたタキシード姿の道化の男が現れる。その男が持っていたマイクを使い、高らかな声を観客席側の大衆へ響かせる。
「は~い、皆様こんにちは。本日はこのような記念すべき場にお越しいただきありがとうございます。
皆さまのご支援、ご協力、多大の献金により、わたくし共は安定した運営がもう50年近く続けられることが出来ました。
ええ、ありがたいことですね~。そして皆さまが待ち望んでいるであろうわたくし共が開催して続けている目玉イベントも記念すべき第30回です!
実にめでたい! めでたいからこそ、このような場を特別に設けさせていただきました。」
道化の男がお辞儀とともに後ろから”第30回”という文字が大きく照らしながら画面が表れる。
「さてそんな記念すべき回だからこそ、今回の舞台は一味、いや二味、三味…………百味も違う! そんな殺し合いの舞台を皆さまに提供したいと思います。
廃墟ビル、廃村、無人島といった定番なものばかりだったのですが……。
今回はですね、特別な舞台として選ばれたのは……そうこちらです!」
陽気なドラルロールが流れ、言葉をため込みながら発した男は手をバックモニターのほうへ向け、音が鳴り止むとともに画面が切り替わる。そして画面には異世界と大きく表れ、そして道化の男はこの空間全体に響かせるよう言葉を発する。
「デスゲームの舞台に異世界が選ばれました!」
そんな道化の男が発した非現実的な発言に、観客席側の大衆がざわめき合う。異世界という言葉に戸惑いを隠せない人々が多く、中には興奮した者もいれば、どうせVRかなんかだろうと信じない者もいた。しばらく観客側の騒声は止まなかった。
「はいはい、皆さまお静かにー」
そして大衆を鎮めるように仮面の男が手を叩くして、静かにさせる。
「確かに、私もこの企画を最初に聞かされた時は信じられませんでした。
だがしかし、とあるわたくし共のツテにより異世界という存在を発見致しました。
まぁ本来、異世界なんて政治的な思惑に使われそうですが、わたくし共は贅沢に娯楽の舞台として使わせて貰いました。
そして異世界を舞台に参加する者たちの数は…そう前代未聞の52人! いや~収拾つかなそうですが、そうならないよう頑張って運営、調整して参りますので皆さまどうかお楽しみください!」
そして道化の男のバックモニターに総勢52名の顔写真が映し出される。
「さて参加者にはいつもの如く、わたくしの国の愚か者が多いですが、中には凶悪犯罪を犯した者がいれば、指名手配中の殺人者などと手馴れな者も多く取り揃えました。そんな参加者たちがどのような活躍するのか期待ですね」
モニターに映される参加者たちは、日本人が多く。青年から老人、女性や中学生くらいの子供。僅かに異国人といった分け隔てのないラインナップされていた。
「では、どいった内容かは簡単に説明致しますと。まずこの総勢52名という数は、トランプのカードの数と模しております。参加者にはそれぞれトランプのカードに模した数字が配られ、そしてゲームを生き抜くための勝利条件とゲームを有利に働かせる能力が設けてあります。
能力にはさまざまな種類がございます。ファンタジーの世界ぽく魔法も使えたり、今までのゲームのように妨害機能が備わっているものもあります。それらについてはゲームが開始されましたらお分かりになるでしょう。
次に、このゲームはゲーム期間はとりあえず最短四か月を想定しております。流石に異世界という広大な舞台ですの長丁場となりますが、つまらない展開にならないようこちら側でもイベント的な何かを仕掛けていきますのでどうぞご期待ください」
ゲームの参加者たちは、トランプの「ジョーカー」を除いた「A」から「K」の各クラスに沿って数字が配られる。そしてそれぞれに勝利条件や能力を持たされ、条件を達成しなければ死ぬという参加せざる得ない状況を作り出す。それがこのゲームの運営のやり方だ。
そしてこの後、参加者計52人分全員の紹介がなされ、時間が過ぎていくのだった。
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「―――以上にて参加者の紹介は終わりです。勝利者投票は各支部の受付カウンターや特別会員サイトからでも受付できますので、誰が生き残るのかじっくりお考え下さい」
仮面の男の話を終えるとバックモニターから突如として針時計の絵が映し出され、カチカチという音がこの空間に響き渡る。
「おやおや話し込んでいたら、時計が12時を回ろうとしています。
実はですね、参加者たちはもう既に異世界のほうで寝ながら待機している状態です。この時計が12時丁度となりますと参加者たちは皆お待ちかねのゲームが開始されます。
この会場でわたくし共が参加者たちの活動を実況致しますが、各支部の特別ホールからでも中継を見ることが出来ますのでじっくり楽しんでいってください。
……ではお楽しみください。人間たちの欲にまみれた下劣な者共の闘いを!」
モニターの針時計が12時を示した瞬間、画面が鮮明な映像と映りこれから目覚めようとしている男の姿が。
そして始まる52人の人々による異世界で、生き残りを賭けた戦いが……。