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怠惰の主  作者: 足立韋護
第一世界
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世界への怠惰

 ずるり。


 そんな音がした気がした。初めは体のバランスを崩したと思い、「うおっ」とうめき声をあげた。

 しかし、気づけば俺と椅子が暗闇を真っ逆さまに落下していた。風切り音とともに、椅子に縛られたままどこかへ落下しているのだった。椅子のせいで体勢は全く安定せず、視界は上下左右へと振り回される。

 視界は安定していないが、どうやら念願の外に出られたらしいことはわかった。なぜならそこには空があり、星々がきらめいていたからだ。


 どぼん。


 次はそんな音がしたと思えば、呼吸ができなくなった。正確には呼吸をするたびに水が胃袋や肺に侵入してきた。とてつもなく苦しい。一分ほど息を止めて欲しい。そのぐらい苦しいのだ。

 椅子に縛られたままなために、体はどんどんと水底へと落ちていく。抜け出すことすらままならなかった。


 最悪の事態を、想像した。


 このまま助けも来ないまま水中で溺れ死ぬ。しかし俺は今のところ不死だ。これで溺死した場合、また水中で生き返るのだ。そしてまた溺れ死ぬ。助けが来るか、この椅子や有刺鉄線が劣化して破壊できるまで、俺はここで溺れ死にし続けなければならない。

 ああ、最悪だ。何日、いや何ヶ月、下手をすれば何年、溺れ死にし続けるのか。


 水面を見上げながら絶望に打ちひしがれていると、椅子の肘掛け部分が外れていた。次々に両手足部分を縛り付けていた椅子の部位が外れていくではないか。

 奇跡だ、と思った瞬間、一生見たくないツラが視界に入り込んできた。そいつは俺と目が合うと、いつものにやけた顔を向けてきた。


 結局俺は式谷に引っ張り上げられ、なんとか岸に着くことができた。水を多量に含んだマイ吐瀉物を見下ろしながら、深々とため息をついた。

 式谷曰く、椅子の接合面をどこから出したかもわからんナイフでひっぺがし、パーツ毎に分解したらしい。この水中でこの手際、やはり並の人間ではない。


 いやいやいや、聞きたいのはむしろその前だ。


「お前、なぜここにいる。俺はどうして落下したんだ」


「それは私が聞きたいくらいです。突然御影さんが空間と空間の割れ目のようなところに入っていってしまって、無我夢中で引き寄せようとしたら私まで来てしまったんですから」


「そして手持ちのナイフで俺を助けた、と」


「ふふ、やはりあなたは私の見込んだ通りでしたね」


「ええい、ちょっと黙っとれ」


 ここはどこなんだ。なぜあの倉庫からここへ落下した。地下にこの巨大空間があったのか。いや、あり得ない。何せ真上には星空以外何もない。そもそも、式谷自体が巻き込まれているのだから、不測の事態だ。あの倉庫に関連はしないだろう。


 俺たちが落下したのは、半径五百メートルはあろう湖のようだった。周囲にひと気はなく、鬱蒼とした森だけが湖を囲んでいた。

 生き物はいるようで、時折鳥類っぽい鳴き声や、虫っぽい羽音が聞こえてきたりする。


「うんうん唸っていても仕方ありません。夜に動くのは危険ですから、ひとまず朝を待ちましょう」


「お前と行動することのほうが危険な気がするが、まあ仕方ない」


 干すこともできないため、ずぶ濡れのまま朝まで寝ておくことにした。適当に葉を集め、即席の寝床を作るとそこへ寝転がった。

 暫し目をつぶっていると、何やら一定間隔で金属音が聞こえ始めた。音の鳴るほうへ顔を向けると、石とナイフで火花を散らす式谷の姿があった。パンツスーツ姿で火起こしをしている姿はなんともシュールであった。

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