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怠惰の主  作者: 足立韋護
第三世界
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大風の魔導

 その威圧は場の全員の身動きを封じた。恐らくだが、人の首を容赦なく跳ねる女が、味方に武器を向けているからではない。目には見えない気が場を支配していることがわかる。ことごとくこの女に切り刻まれた俺がそう思うのだから、およそ間違いではないだろう。やはりこいつは只者ではない。


「そこまで言うなら……従うしかないじゃねえか」


「ええ、そうですね。ありがとうございます。では引き続き護衛をお願いします」


 あまりの切り替えの早さに、フォルクスは呆れつつ肩を落としながらひらひらと手のひらを振って応じた。

 踵を返した式谷は先へ進み始めた。先ほどこちらに気づいていたトウテツらは、徒歩程度の速度で近づいてきている。走ることはできないのだろうか。それを知ってから皆も初めより焦ることなく、冷静に式谷とフォルクスに続いた。


 そうかからないうちに、デパートが見えてきた。俺の住んでいた世界でもお馴染みの複合商業施設である。食品から衣料品、ホームセンターまで幅広いテナントが入っている。

 デパートは大通りから一つ細道を入ったところにあった。正面扉前には広い駐輪場があり、小綺麗な広場のようになっている。ビル群の合間に位置し、周囲の道は見通しが悪いうえ、血生臭さがビル風に乗ってくる。非常に不快だ。


 式谷がデパートをわざわざ雑貨屋と言い換えたのは、異世界側の住人達にも目的を理解させるためであったのだろう。だが、五階建てはあろう巨大建築物を前に、式谷が「目的地に着きました、雑貨屋です」と言った時の皆の顔は……想像に難くないだろう。あんぐりである。

 広場や道には何体ものトウテツが闊歩していた。ここまで来て全員の顔に脂汗が滲み出る。そう、今までトウテツに真正面から出くわさなかったほうが幸運だったのだ。回り込んでも障害物の影から不意打ちをされかねないし、接近すれば音や視界に入り気づかれる。


 そんな折、「俺に任せとけ」とフォルクスがひとつ前に飛び出て杖を構えた。郡山が式谷やポピリスの住民達を退がるように誘導した。こいつの魔法は俺と郡山がよく知っている。

 

「風の気、その流体を寄り合わせ────」


 フォルクスの周囲につむじ風が発生し始めた。リースの世界でも珍しいのだろうか、ポピリスの住人達が感嘆の声をこぼしている。


「大風をもって天空へ誘え!」


 フォルクスが杖を掲げると、周囲のつむじ風が一度離れたのち、辺り一帯のビル風を呼び込むようにして轟音を響かせ始めた。目にこそ見えないが、風に乗った砂や葉でその巨大さが理解できる。寄り集まった風がトウテツらを包み込んだ。トウテツは突然の異変から逃れようと忙しなく動き始めた。


「フォルクス、いけるのか」


「この風ならな……。まあ見てな」


 その暴風は徐々に上方へと浮かんでいくと、トウテツの足が宙空を蹴るようになった。それはやがて加速し、数秒もかからないうちに空の彼方へとトウテツらを運んで行ってしまった。デパートを取り囲んでいたトウテツは一掃され、この男のたった一つの行動で安全が確保された。

 見事としか言いようがない。さすがは俺が見込んだ男、鼻高々である。


「魔導術っていうんだよね確か。すごいや、見直したよ」


 郡山もフォルクスの背を叩いて称えた。


「ま、こんなもんよ。天、早く行こうぜ」


「ええ、手間が省けました。ありがとうございます。行きましょう」


 いつもの式谷ならば飛んで跳ねて喜んでいるところだが、やはり淡々とした様子でデパートへと歩き出した。


 正面扉は解放されていた。電気が止められているのか店内は薄暗い。もしここで皆の武器が見つかるのであればそれに越したことはない。緊急時だ、万引きしても文句を言うやつもいなかろう。かく言う俺も護身用のアイテム程度は手に入れたいところだ。


「トウテツの姿は……今のところ見えないですね」


 そう言いながら式谷は入り口付近に設置されていた館内パンフレットを手に取った。俺達もそれを覗き見ると、式谷はひとつ指を差した。指先が示す場所は、ホームセンターであった。俺でも行ったことのある割とメジャーな店だ。ここならば庭の手入れに使う道具から木材までなんでも揃っている。運が良ければ全員分の食料まで確保が期待できる。


「皆に持たせるものは決まっているのか」


「スコップやクワがあれば良いですね。もし持ち去られているようであれば、最低限ほうきや角材でも十分です。トウテツを殺すのではなく、退けるだけであれば問題はありません」


 ま、それもそっか、などと軽い気持ちで事を構えた俺は、式谷の真横を歩いた。トウテツは人を喰らう人型の化け物だ。しかし、その移動速度も遅ければ、知能も低い。壁に張り付いたり、空を飛ぶことも、連携してくることもない。これならば殺傷能力を除けばその辺のゴキブリのほうが厄介だ。

 それにいざとなれば式谷の戦闘力に加え、フォルクスの魔導術とやらがある。これでホームセンターで全員が自己防衛手段を手に入れられれば、万が一にも全滅の危機に瀕することなど、ありはしないだろう。




────やがてホームセンターに辿り着いた俺は、その光景を前に自身の甘さを痛感することとなった。


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