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怠惰の主  作者: 足立韋護
第一世界②
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海港都市:ポピリス

「お前が俺なのはわかっている。それならこれからやろうとしていることは理解できるはずだ」


 俺が突然宙空に話し始めるものだから、郡山とフォルクスが訝しげに俺の顔を覗き込んでくる。こっちを見るな、察しろ。


『あまりにも身勝手な愚行だ。酷く後悔することになる』


 愚行と言わしめるほどの何かが起こる。そう言うなら教えてもらわねば俺も納得はできない。並みの覚悟では来ていないのだから。


「何が起こる、お前のいる未来で」


『────この第一世界リースは戦乱の世と化す。多くの人の命が失われ、人を人とも思わない蛮行が平然と行われるようになる……と、懇切丁寧に説明してはみたが、ああ……やはり無駄だったか』


「何が無駄だ。勝手に決めつけるな。たかだかこんな人一人で、この世界が変わるなんてあり得るのか」


『じきに理解できる時が来る。ではな』


 そう言うと、そいつはさっさと歪みの中へ消えていってしまった。あいつの言うことは信じ難いことだったが、全く信じないわけにもいくまい。仮にも未来からわざわざ警告に来ているらしいのだから。だが、必死に引き止めることもなく去ってしまったあたり、事情が変わってしまったのだろうか。

 もう一度、国王へ視線を落とすと、そいつは相変わらず酒を煽りながら、逃げようとしている裸体の女を引き留めている。


 やはり、どう考えてもこいつがこの世界を一変させるほどの存在には見えない。未来の俺は何かを勘違いしてしまってるのだろうか。


「もしかして、自分と話してたの?」


「ご想像の通りだ。まあ気にするな」


「創一、頭が混乱してるんだが、いったい何がどうなってやがる」


「何も考えるな」


 すっかり混乱しきっているフォルクスを差し置いて、俺は国王へと向き直った。その醜い裸体を掴み上げ、晒し上げるようにして掲げた。


「やめろ! やめんか、無礼者め! 誰かおらんか! 助けろ!」


「地平の彼方へ消えろ」


 国王はその場から姿を消した。音も、歪みもなく、忽然と消え去った。もしかしたらこの行為は国王を死に至らしめる行為だったのかもしれない。はたまた、未来の俺が言う通り、この世界に何か大きな変化をもたらす行為だったのかもしれない。

 だがそんなことを気にしては何かを為すことなどできない。蝶が引き起こす風ひとつで未来が大きく変わる────いわゆるバタフライエフェクトを気にしたのでは石ころを蹴り上げることすらままならない。

 未来の俺は黙って見ていれば良い。


「殺しちまった、のか?」


「文字通り、地平の彼方へ転移させただけだ。もうここに用はない。行くぞ」


「お、おう」


 イクリプスを空高く羽ばたかせ、ひとまずその場から離れることにした。

 行くぞとは言ってみたものの、次はどこへ向かおうか。ここにいないとなれば、式谷とデルはどこへ逃げ延びたのか。あんな状況で置いてきぼりにしてしまった手前、もう少しくらい探してやらねば男が廃るというものだ。


「フォルクス、アトラヴスフィアが危険に晒されたとき、もしお前がそこにいたら何処を目指して脱出する?」


「間違いなく中立国グラントだろうな。距離も近い、治安も良い、地理に詳しくなくとも知ってる奴は多いぜ。だからまずは、アトラヴスフィアとグラントを結ぶ都市に行きてぇとこだ」


「心当たりはあるのか」


「当たり前よ。海港(かいこう)都市ポピリスだ」


 もしやと思ったが……俺の予想が正しければ、式谷とデルはそこに向かった可能性が高い。そもそもの目的はデルを海へ帰すことだ。身の安全が確保されたと分かれば、あの式谷のことだ。俺のことなど気に留めることもなく即座に切り替え、目前の問題解決に臨むだろう。

 と、この考えまで読んでいるのだろう。さすがに空飛ぶロボットまで乗り回しているとまでは想定できなかった、とすればデルサデルにいなかったことも頷ける。これが過大評価でなければ良いが。


「そのポピリスとやらに向かうぞ」


「創ちゃん、次なる目的はなんだい?」


「人探しだ」


────辿り着いた海港都市ポピリスは、ひどく混乱した状態であった。


 海は荒れ、そのために漁業も交易もできず、陸路のみの搬入では街全体の食糧を賄えずにいた。更には高波によって街の一部は崩壊するなど、もはやルンルン観光気分で来訪できる状況ではない。

 街外れの廃屋にイクリプスを隠し、街へ入ってみると目尻のつり上がった衛兵が近づいてきた。こういう衛兵には気をつけねばならない。この世界で一番最初に学んだことだ。


「何用だ。どこの出身だ、身分を明らかにしろ」


「あ〜、まあアトラヴスフィア出身だが、いま海が荒れてそうだな」


 我ながら上手くかわせるようになったではないか。身元をはっきりさせないうちに、話をすり替える寸法だ。


「なに? 俺もアトラヴスフィア出身だが、お前らなど一度も見たことがないぞ? 荷物もないから商人でもない……いやそもそもそんな軽装でアトラヴスフィアからここまで来られるはずはない」


「え、えーっと〜そうなの?」


「お前、怪しいな。連れも見たことのない服装をしている」


 あれ、おかしいな。上手くいかなかったか。

 そんなことを考えているうちに、「オイオイ」「ドウシタドウシタ」と衛兵がワラワラと集まってきてしまった。不覚である。


「私の連れです」と衛兵の奥から、聞き慣れた、そして実に久しい声が聞こえてきた。その垣間見えた笑みに、妙な安心感と、そして言い様のない不安感が同時に襲ってきた。

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