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怠惰の主  作者: 足立韋護
第一世界②
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碧眼の冒険者

「珍しいね。創ちゃんがやる気を見せるなんて」


「そんなんじゃあない。ただ、仕返しがしたい。それだけだ」


 確かにあの拷問とこの街への襲撃の礼はしてやらねばなるまい。だが目的がその仕返しだけかと言われたら嘘になる。本当のところ、式谷やデルがそこに捕らわれていないかも確認しておきたかったのだ。

 諸々、気になることはあるが、俺が歪みに入ってから式谷らが連れ去られた可能性もある。曲がりなりにも、一緒にいた連中だ。あの痛ましい拷問はできることなら避けさせてやりたい。それだけ、あれは一生味わいたくないほどに辛かったのである。


 ふとコックピットから眼下を見下ろすと、いつか見たような顔がいた。イクリプスを勝手に操作し、そいつに向かって手を伸ばした。


「ちょっと創ちゃん! 勝手に操らないでよ!」


「悪いな、こっちのがエコなんだ。それに……」


 イクリプスの手で捕らえたそいつは、いつかデルサデルの牢屋で話したフォールなんちゃらテルアキ……フォルクスという冒険者を名乗る男であった。そいつは洗脳にかかっていないのか、見るからに慌てた様子でジタバタと暴れていた。

 コックピットを開け、顔を出してやると、フォルクスはアッと何か言いたげな顔で俺を指差した。

 そのままコックピットへ引き入れると郡山が若干警戒した様子でフォルクスを横目で見る。


「おい、確か……創一! 何がどうなってやがる。この鉄の塊はなんなんだ!」


「やめろ騒ぐな(やかま)しい。あのパンの礼にここから逃がしてやるだけだ。お前はどうやら洗脳されていないみたいだからな」


「パンの礼……? ああ、あれか。前にスパイと勘違いされたと言ってたろ。洗脳してしまえば口もきけない、貴重なスパイの情報も聞き出せない、ま、そんなとこだ。その代わりに洗脳された野郎ども監視のうえでコキ使われてたってわけよ。ってそれよか、こりゃあいったい……」


 フォルクスはコックピット内部を見回した。


「細かい説明が欲しいならあとでいくらでもしてやる。今は安全なところまで付き合え。郡山、こいつはフォルクス、デルサデルの牢屋で一緒になった男だ」


「そうなんだ。僕は郡山司だよ。よろしく~」


「俺はフォールレイキスガスドマークス・テルアキだ。フォルクスって呼んでくれ」


「ああ、それでフォルクス。納得」


 テルアキに突っ込まないあたり、郡山の底知れなさを垣間見た。

 コックピットを閉じてからイクリプスの足元を見ると、しばらく立ち止まっていたせいか洗脳された兵士達が足からよじ登ってきていた。まるで蟻のようなその姿と数に鳥肌が立ってしまった。そんな彼らの手は数々の無理強いにより爪が剥がれ、皮はただれてしまっている。それでも無表情に掴むところもろくにないイクリプスの足を淡々と登っている。

 もとは、俺のような善良な市民だった可能性もある。非常に不快極まりない。


「創ちゃん、どうする?」


「……やむを得ん。振り払う」


 地表で振り払えばすぐに体勢を立て直してまた来るに違いない。浮いてから落とす。振り払えばマキナの馬力に相手は生身だ。ただでは済まないだろう。だがこちらも必死なのだ。

 そんなことをひとり考えながら、俺がイクリプスを浮かせたところでフォルクスが肩に手を置いてきた。


「協力させろ。お前のその表情、あいつらを殺したくないんだろ」


 フォルクスの淡い碧眼が真っすぐに俺の目を見つめていた。


「お前言葉じゃ突っ張ってるけどなぁ、顔に全部書いてあるかんな」


「……どうすればいい」


「さっきのこのドアを開けな。そんで振り払え。あとは俺が全部そのまま上手くやるからよ」


 フォルクスは軽く胸板を叩いて見せた。大層なことを言ってはいるが、このコックピットを開けてしまえば、徐々に登ってきている兵士らが侵入しない保証はない。危険な橋は渡りたくはない。出会ってまだ幾ばくも経っていないこんな男を信用するなど、阿呆のすることである。

 だが口から出た言葉は、そんな“考え”とは真逆の“思い”であった。


「コックピットを開けるぞ」


「創ちゃん、危険な行為なのは自覚してるよね?」


「当たり前だ。フォルクス」


 俺がフォルクスへ視線を送ると、フォルクスは快活に笑って見せながら、鼻の下を指でかいた。


「へへ、任せなって」


 イクリプスを地表から完全に切り離し、地上五十メートルほどまで浮上した。そこからイクリプスは足を激しく揺さぶり、上半身に到達しようとする者は、イクリプスの手でそのまま弾き飛ばした。コックピットから外を眺めるフォルクスは、服の中に隠し持っていた杖を取り出すと、何かを唱え始めた。


「こんだけ風が吹いてりゃ────。風の気、その流体を寄り合わせ大風と化せ……!」


 地表に落下しつつある兵士らを、フォルクスが呼び起こしたであろう突風がことごとく巻き込み、まるで包み込むようにして地面へ置いていく。兵士らは洗脳されてなお事態が読み込めなかったのか、それとも対象が手の届かない空にいるからか、茫然と俺達を見上げている。

 やがて全ての兵士らが無事着陸したことを確認してコックピットを閉じた。フォルクスは若干青ざめた顔でその場でへたりこみ、肩で息をしながら親指を立てて見せてきた。

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