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怠惰の主  作者: 足立韋護
第一世界②
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走馬灯

 心の内でいくら弁明を重ねようと、操られている肉体は勝手に剣を振り上げた。幾人も葬ってきたこの剣が避けられるとは到底思えない。


「デルサデルの間者(かんじゃ)だったとはね」


 そんなことを呟いてから、女将はそのふくよかな体からは想像もつかないほど俊敏に剣を躱してみせた。そしてその突き刺すように鋭い目つきは、只者ではないことを俺に悟らせる。


「黙って殺しに来るあたり、筋金入りか」


 女将は俺を蹴飛ばしたあと若干の距離を置き、手に持った黒い球体を俺に投げつけてきた。足元に転がったそれは爆発もなにもしない。


「炎の気、その炎陣よ、巻き上がれ!」


 魔法の一種だろうか、突如として、俺の足元から炎が巻き上がった。とてつもない熱気と痛みが体を襲い、それを察知した体は勝手にその場から距離を置いた。その瞬間、視界が閃光に包まれた。数コンマ置いてから耳をつんざくような爆発音が響き渡る。衝撃のあまり、目の前が明滅する中、距離をとる前にいた場所がまるでクレーターのように大きな穴ができていることだけはわかった。あの球体はやはり爆弾で、あの魔法は起爆剤だったらしい。

 頭にうまく血が回らなくなってきた。体が徐々に意識を手放していく。ずっと洗脳されていたからだろうか、妙な感覚だった。



 突然、眼前には懐かしい風景が広がっていた。スイカ農家である実家から見る景色だ。至って穏やかな田園地帯に、点々と立つ日本家屋と奥にそびえる青い山々。それらを太陽が燦々と照らし、木々からは蝉が喧しく鳴いていた。また世界を移動したのだろうか。


「創一君」


 話しかけてきたのは、どこかぼんやりと見覚えのある女だった。二十代半ばだろうか。紺色の、癖のない長い髪の毛をしている。眼鏡をかけた女は、お世辞にも明るい印象はなく、どこか暗い女だった。田舎町には不自然な黒いローブのようなものを羽織っている。真夏にしては、暑苦しそうな服装である。実家の塀の外からその人は俺に声をかけたようだった。俺が返事をしようとすると、俺の横から小学生くらいの男の子が軽快に走っていく。


 ああ、そういうことか。


 これは俺の過去なのだ。あの女のことは何故か思い出せないが、あの少年の服は過去に俺が気に入って着ていたものだった。カレンダーを見ると、今から十数年前の八月十四日だった。つまり、これは走馬灯だ。女将に殺されかけた俺は、まるで夢を見るように過去を思い出しているのだ。それも鮮明に。


 女は俺を引き連れ、誰もいない田んぼの真ん中のあぜ道を二人は歩いていく。真夏だというのに、この女は汗一つ垂らすことはない。道中、俺と同じ学校に通う男子共とすれ違った。夏休みなのか、片手に持つ虫取り網を、俺の頭へと軽く叩きつける。


「御影~! お前またその不気味女と一緒に遊んでんのかよ~!」


 こいつは覚えている。クラスでも上位カーストの男子、タイヘイ君だ。いわゆる、ガキ大将だ。


「創一、俺らと来ないか。その人、なんか怖いよ」


 タイヘイ君の隣のこいつも覚えている。リョウト君だ。こいつはその整った容姿と冷静さから上位カーストにいる。ついでに俺のご近所さんでもあるのだが、最近は遊ぶ機会が減ってしまっているようだ。


「この人は不気味なんかじゃない! 今に見てろ! びっくりさせてやるからな」


 俺はムキになって、女の手を引き、その場を後にした。


「創一君、庇ってくれたのね。ありがとう」


 女は静かに微笑んだ。か細い声だが、不思議とよく通る声でもあった。


久代(くしろ)さんはさ、どうしていつもそんな服装なの? もっと普通の服着ればあんなに絡まれないじゃん」


「身を守るためよ。大事なの」と久代と呼ばれた女は答えた。


 そのまま、二人は山の中へと入っていった。鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように、獣道に沿って山の奥へと進んでいくと、黒と黄色の鉄柵が現れた。安全第一と書かれたそれによって道を閉ざされていたが、久代はひとつカギを取り出し、柵に取り付けられた南京錠を外した。


「久代さんは町中には住まないの?」


「ここは邪魔をされないから」


 今にして思えばこの久代とかいう怪しげな女は、大人になっても不思議な力を信じるイタイ女だったのではないだろうか。それもそうだ、真夏に黒いローブって、イタすぎて泣けてくる。タイヘイ君やリョウト君の認識のほうが普通だった。だが、小学生にとってそういった類は大好物に他ならず、ただただ冒険心がくすぐられる素材なのであった。

 そんなことも知らない当時の俺は、誘われるまま、山小屋へと足を運んだ。久代のことはあまり覚えていなかったが、この山小屋のことはよく覚えていた。謎の魔法陣を描いてみたり、一日中訳も分からない出典元不明の呪文を唱えてみたりと、まさに奇行のソレであった。だが俺は、何かが起こるはずだと信じて疑わなかったのだ。


「今日は、どんなことをするの」


「ふふ、今日は"超越者"との交信を試みるのよ」

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