戦争SFロボット世界からの脱出 〜自慢のロボットを添えて〜
────外に出てしまえばこちらのものだ。
遠方の青空に、不自然にも黒い物体が浮かんでいた。その影は徐々に大きくなり、やがて俺達の真上にまで到達した。
「イクリプス……! 誰か乗ってるの?」と郡山が問うてきた。
軍の兵士どもは突然の襲来にざわめいている。
「俺は念じただけだ。面倒だから地を這ってでも飛んででも来いってな。まさか本当に飛んでくるとは思っちゃいなかったが」
「イクリプスに飛行ユニットは付いてない……本当に、念じただけなんだね」
イクリプスは銃の射線を遮るようにして、目の前へ着陸した。まるで生きているように兵士らを見渡すと、その手で奴らを軽くなぎ払った。
「イクリプス、乗せてくれ」
それに呼応するようにイクリプスは俺と郡山をコックピットへと乗せた。随分と恭しい対応ではないか。我が機体ながら感心感心。
イクリプスをそのまま浮上させ、ひとまず学園から逃げ出すことにした。
「待って! 学園に行ってくれればグロリアがある。それも持ち出そう」
「ダメだ。学園に戻ることなんてどうせ軍には予想されている。このイクリプスが確保できたのは、奴らの意表をついたからだ」
それに万が一捕まった時に、俺が郡山を脅して誘拐したことにすれば、こいつはひとまず無事で済む。と、そんなことを言えば跳ね回って狂喜乱舞するだろうから敢えて言わないでおくが。
そうしてしばらく浮遊していると、まあ想像通りだが遠くの空から軍のものと思しきマキナらが、列を成してこちらへ飛んできた。すなわち追手ということだ。やがてイクリプスの前に留まると、突如銃口を向けてくる。
「御影創一、直ちに投降せよ。さもなくば撃墜する」
「そんな拡張器みたいな機能で俺の名前を呼ぶな。恥ずかしいだろうが」
「どうするの?」
生憎、撃墜されるわけにはいかない。だがいくら念じるだけで動くイクリプスとはいえ、あの集団に攻撃されては確実に墜とされる。投降すれば、恐らく未来はない。郡山は助けられるが、俺は一度死んでしまったがために不死がバレたかもしれない。郡山の言う非人道的実験に付き合わされる可能性すらある。
「返答なし。投降の意思はないものとする! 総員構え!」
ああ、面倒だ。勝手に学園へ入れておきながら、勝手に軍へと勧誘して、勝手に殺して、果てはお尋ね者扱いときた。考えるのも怒るのも対処するのも、面倒になってきた。
だがここにいては、どこへ逃げ隠れしようとやはりお尋ね者だ。どうせ見つかる。薄々感じてはいたが、こんな戦争SFロボット世界より、まだ紛争ファンタジー世界のほうが幾分マシに違いない。
【面倒なこの状況を乗り切るには、ひとまず向こうの世界へ戻らねばなるまい】
「な、なんだ?」
兵士の狼狽える声が聞こえてきた。俺はその光景に、全身の鳥肌が立つ感覚に襲われる。機体の真下に、あの見慣れた歪みが発生していたのだ。イクリプスはまるで引力に引っ張られるようにして、その歪みに向かっていた。
あまりにも都合が良い。今の俺は恐ろしく引きつった笑みを浮かべていることだろう。それを承知の上で、郡山へ顔を向けた。
「喜べ、お望みどおりここから連れ出してやる」
「あの歪みは、確か学内大会の時の……? どういうこと?」
機体が大きく歪んだその瞬間、辺りは暗闇に包まれた。正しくは、星空の下、真っ逆さまに落下していた。
「イクリプス! 立て直せ!」
イクリプスは機体を反転させ、体勢を整えた。
そしてコックピットからは、あの忌々しい巨星が光り輝いて見えた。まさしく、あの世界に他ならない。
「そ、創ちゃん……? ここ、どこ?」
唖然としている郡山に、落ち着いた声で答えてやった。
「俺が過去の日本から来たのは本当だが、その前にこの異世界を渡ってきた。実のところ、ただのタイムトラベラーではなかったということだ」
「は、は?」
「魔法もモンスターもなんでもありな紛争ファンタジー世界だ。ほら、喜べ」
「へ、えええ? えぇぇ!」
郡山は声にもならない叫び声を上げた。そんなに嬉しいか、よしよし。これは好感度爆上げ間違いなしだ。
もちろん冗談である。こいつが望んでいた想像の余地にあった場所など、何億光年も飛び越えてしまった場所にいるのだ。まあ住めば都さ、なんて気休めを言ったところで安堵することはないだろう。
それよりも、デザイナーズチルドレンだから感情の起伏がないってのは嘘だったのか。グランドキャニオン顔負けの起伏しまくりなんだが。
────ってあれ? ファンタジーにロボット持ってきて良かったのか?




