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怠惰の主  作者: 足立韋護
第二世界
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絶対記録媒体:イニチウムレコード

 郡山曰く今回の優勝賞品は、とあるデータベース────"イニチウムレコード"という。


「イニチウムレコードは、後世へ過去全ての科学技術を伝えるために生産されたものだよ。データの取り出しは様々な媒体、端末にも対応していて、紙にも石にもイニチウムレコードから焼き写すことができる。超高熱でも氷点下でもマキナで踏んでも破壊不可能。技術の保存、その目的のためにだけあるのだから破壊はされないように作られてる」と郡山が長々と語っていたが正直ピンときてはいなかった。

 要は人類の進歩の歴史を残したいということなのだろうか。そんなものを賞品にする意味も、それを奪う輩も、俺にはよくわからない。


 世間の学生は冬休みだというのに、この学園の生徒らにそんなものはなく、しっかりきっちりカリキュラムが組まれているのだった。相変わらず講義についていけない感は否めないが、マキナの操縦は面白い。

 メキメキと腕を上げたように見えただろうが、操縦の腕ではなく、機体の動作イメージが上手くなったという表現が的確である。そんな折、俺はとうとう郡山の直属部署へと呼び出しがかかった。


 郡山に促され、学園の教室から目隠しをされたまま移動した。目隠しを外されるとそこは薄暗い部屋であった。唯一の明かりに照らされている椅子に座るよう案内をされたので座ってみる。案内人として付き添っていた郡山が申し訳なさそうに部屋から出ていった。

 まるで式谷に連れられた倉庫を彷彿とさせる光景だ。


「君が過去の日本から来た御影君かね」


 随分とまた偉そうな態度だ。姿も見せずに人と話すなど、失礼極まりない。その若干しゃがれた声は俺の反応を待った。


「そんな感じだ」


「単刀直入に伝える。君を我々の戦力として迎えたい」


「……戦力?」


「この日本は現在、いくつかの外国の連合軍と戦争中にある。グラディウス・マキナを使用したおかげで、日本はしばらく休戦状態にまで持ち込めている状態だ。君の操縦技術の著しい成長は見せてもらった」


「俺に、兵士をしろってか」


「そうだ。普通のサラリーマンの数倍は待遇も良い。そもそもあの学園はマキナパイロットの養成学校でもある。もし戦争となったら、いつでも徴兵できるようにな」


 表向きはエリートばかりの進学校で、その本質は兵隊養成所だったってわけだ。いずれ命懸けの戦いをすることと引き換えに、待遇も良くしてあるのだろう。デザイナーズチルドレンといい、いったい人の命を何だと思っている。


「そこまで話したということは、拒否権など最初からないな」


「察しが良い。こちらの要望を飲めば悪いようにはしない。戦争が来なければただの高所得者だ。悪い条件ではなかろう。さて、どうする?」


 これを承認すれば、落ちこぼれ留年大学生ホームレスからクラスアップできるというものだ。あれだけなかった金だってわんさと手に入るに違いない。普通のサラリーマンがあくせく働いている中で食う飯はさぞ美味いだろう。

 しかもだ、他の奴らは死ぬんだろうが俺は幸か不幸か不死なのだ。命も賭けず、大金も手に入る。なんて好都合なのだろうか。

 答えなど既に決まっていた。



「クソ喰らえ」


「な、なに?」


「お前達の態度が気に食わん。土下座して靴舐めてようやく聞いてやれるレベルだ。それを勝手に呼んで、勝手に聞かせておいて、拒否権はないだと? 人をバカにするのも大概にしておけ」


「……残念だ。おい、奴をここで始末しろ」


「ちょ、ちょっと、待って下さい! 創ちゃん今ならまだ間に合うから! 撤回して!」


 郡山の珍しく焦った声が聞こえてきた。恐らく男のマイクを奪い取って話しかけてくれてるのだろう。俺はぼけーっと天井を見上げ、悟りきったような面持ちで首を振った。


「やなこった」


「なっ!? ば、ばかなこと! 僕との……僕との約束はどうなるんだよ」


「問題ない」


 部屋に男どもが突入してきた。その手には銃のようなものを携えており、銃口部分をこちらに向けている。それをかき分けるようにして、白髪の老人が現れた。じっとりとこちらを見つめる視線は、失望の色に満ちていた。


「もう弁解の余地は残されていない。それではな」


 そして俺は撃たれた。焦げ臭さと熱さがひどく染み渡ってくる。自身の身体を見ると、風穴が空いていることがわかった。随分と風通しが良くなったもんだ。

 そんなことを考えているうちに、身体の力は抜けていき、血液が流出しているせいで脳に行き渡らなくなってきた。頭が回らない。


────意識が戻った頃には、俺は何かに運ばれていた。


 むくりと起き上がると、まず真っ先にとんでもなく暗い顔をして俯き歩く郡山が目に入った。振り返ると見知らぬ白衣の女が、俺の乗る台を引っ張っていた。

 これは、死体安置所にでも運ばれるのだろうか。


 意外にも誰にも気づかれないのでもう一度寝てみるが、下手をすれば焼却処分の可能性もあることに気がついた。

 俺は飛び上がり、真っ先に担架を引っ張る女の首根っこを掴んで口を塞いだ。

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