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怠惰の主  作者: 足立韋護
第二世界
41/76

学内大会④

 郡山に相対しているのは、固さとパワーだけが取り柄と言わんばかりの巨大な紫色のマキナであった。特徴的なその巨腕で敵を叩き潰すコンセプトであろうことは、誰が見ても明らかであった。

 やがてコロシアム内の形状がみるみるうちに変化していく。出来上がったのはただの荒野ともいうべき平坦な舞台であった。障害物は隆起したいくつかの岩のみである。


「これは、どっちが有利なんだ」


「どう見ても、ガイガスのほうだぜ」


 ガイガスってなんだ。唐突にカタカナ出すのやめてくれ。そろそろ俺のちっこい海馬が沸騰する。

 郡山のマキナが……えーと、グロリアだったから、相手のマキナがガイガスってことだから、郡山が不利なのか。


「その、ガイガスってマキナはそんな強いのか」


「ん? ガイガスはマキナなんかじゃない。ガイガス・クロスフォーゲン、乗り手の名前だ。マキナはティラノス」


「あー鬱陶しい。そのティラミスだかティラノサウルスは強いのかって聞いてるんだが」


「まあ見てりゃわかる」


 試合開始と同時にグロリアは背後の光輪を回転させながら、空へと舞い上がった。それもそうである。飛行できるマキナならば空にさえ逃げてしまえばそれで終わりなのだ。あとは遠距離の武器でも使って一方的に攻撃すればすぐにカタはつく。


 それを確認した相手のマキナは、背中から何か輝く粉のようなものを噴出した。周囲に撒き散らされた粉はやがてグロリアをも包むと、グロリアはその動きを鈍くし、地面へと落下していった。


「ティラノスはあの重量だから飛べない。その代わりに、飛行できるマキナを落とす手段を身につけてんだ。あの粉は微弱な電流のベクトルを乱れさせる。繊細な操縦が必要な飛行時は、確実に落ちるって寸法よ」


「車でいうところのハンドルがぶっ壊れた状態ってことか」


「だけど、郡山先生が負けるとは言ってねえ。ここからが見どころだぜ」


 ティラノスがグロリアへ近寄っていくとその巨腕を振り上げた。そのままなんの躊躇いもなく鉄拳を振り下ろす。地震が起きたのだと勘違いするほどの振動と、爆発音にも似た音が響き渡り、砂煙が舞う。

 やがて砂煙が晴れたが、そこには間一髪、体をよじらせて拳を交わしていたグロリアがいた。場内には歓声が沸き起こった。グロリアは華麗にもバク転をしながら立ちあがり、背面にあった光輪を前へと移動させた。光輪は高速回転を始め、グロリアがその光輪に手を添えると中心に光が蓄えられ始めた。


「な、何をするつもりだ?」


 やがて光輪からは眩い光線がティラノスに向けて放たれる。あまりの眩しさに思わず目を覆ってしまったが、光が止んだ頃にはティラノスのマキナは顔面が溶けてしまっており、跪いていた。


 頭部をやったということは、相手は視界ゼロだ。これは郡山の勝ちか。


 しかしながらティラノスは胸部が開いたかと思えば、そこから第二の顔が姿を現した。更には背中が開き、その開口部から無数のミサイルのような飛行体を発射した。

 グロリアは焦ることもなく、それらを全て体勢を変えるだけで避け切ってみせた。確かに、この操縦技術は恐るべきものだ。

 そのまま、ティラノスへと駆け出すグロリアは、第二の顔を拳で殴りつけた。火花が散り、ティラノスは鈍い音を立てて地に伏した。


 またも歓声があがり、グロリアはそれを確認するように見回している。これは年末特番になるわけである。観客側に立ってみれば面白いものだった。恥ずかしながら見入ってしまった。


────俺が席を立ったそんな折、突如として悲鳴のようなざわめきが聞こえてきた。


「な、なんじゃありゃ」


 堂前を見ると、何かを見て口をあんぐりと開けている。グロリアへ視線を移すがなんら異常はない。しかしグロリアもその視線を上空へと向けている。

 そして俺も上空を見上げると、空間が歪んでおり、その中からイクリプスと瓜二つのマキナが現れた。しかし、その機体には緑色に蠢く何かを取り付けており、手先足先は本物の動物のような爪が付いていた。



 何が、起きている? あの歪みは、あのマキナは、俺の……?



 次の瞬間、選手の出場口から大量のマキナが現れた。このコロシアムの警備隊のようなものだろうか。その手に持つ小銃を上空のマキナに向け、一斉に射撃を始めた。弾丸はマキナの目の前で一度静止し、驚くべきことに、ゆったりとその体に取り込んでいった。


 攻守交代と言わんばかりに、今度は上空のマキナが片手を挙げるとともに、その姿を二体三体と分身させていった。二十体にもなろうとしたところで、そのマキナは警備隊のマキナへ掌を向ける。


「こ、今度はなにすんだ……」と堂前。


 目を離せずに状況を見守るほかなかった。

 マキナの掌から、まるでグロリアの光線のようなビームが一斉に放たれた。警備隊のマキナらは手足だけをもがれた状態で倒れた。

 グロリアが動こうとすると、それを察知したように次は掌をこちら側へも向けてきた。だが先程のビームを打ち出すことはなく、代わりに最初に出てきたマキナがゆっくりと観客席上部にあるガラス張りの窓を叩き割った。


「あそこって、優勝賞品が保管されてる場所じゃ……!」


「それが目的か」


 やがてマキナは一つの箱を持ち出すと、分身を消し、更には意図的に歪みを発生させ、その中へと消えていった。



 あの歪みは、俺が幾度のなく引きずりこまれた歪みに他ならない。見ていた限りあいは歪みを使いこなしている様子だ。それにあのイクリプスに似ているマキナ……。いったい、なんだというのだ。



────結果から言えば、当然の如く、学内大会は中止となった。

 堂前の言っていたとおり、あのガラス張りの向こうには優勝賞品が飾られており、それを盗まれてしまったらしい。

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