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怠惰の主  作者: 足立韋護
第二世界
25/76

ライトシティのキラメキ

 ずるり。


 突如、足元から全身にかけて強烈な浮遊感が襲いかかった。浮遊、落下、そして気がつけば無我夢中でデルの尾にしがみついていた。頭上には式谷も俺と同様に掴まっていた。

 デルは異常が発生した瞬間に下半身だけを龍の姿に戻したようだ。よく見ると、まるで落とし穴のフチにしがみつくようにして、デルが地面に爪を立てて耐えているようだったが、こちら側から見ると空からデルの下半身が生えているように見えた。


「決して離すでないぞ!」


 空間に開いた裂け目から、まるで掃除機に吸い込まれるようにして、見えない力に引っ張られ続けた。デルも耐えているがとても動けているようには見えない。

 どうすれば良い、どうすれば助かる、そんなことを考えている間に、自らの手が離れていることに気がついた。


 どうあっても無駄だったのだ。そう悟った。龍神を超える力になど対抗できるはずもなかった。

 一秒も宙にいない間に尻が叩きつけられ、衝撃のままに地面らしき場所に転がった。うつ伏せになってしまったが、ふと地面の手触りが記憶にあった。それはかつて餓死寸前にまで追い詰められていた暗黒時代、幾度も触れた感触だ。

 期待も込め、勢いづけて顔を上げると、そこには青黒い、凹凸の激しい地面が広がっていた。


「アス、ファルト……?」


 丁寧に手で触れ確かめ、挙句匂いまで嗅いでみるが、それは間違いなくアスファルトであった。ふと辺りを見回してみると、自身が夕暮れ時のビル街に跪いていることを知った。真横の三車線道路には車が次々に走り去って行く。通り過ぎるスーツ姿の女らが訝しげに見下ろしてきた。

 逆の立場であったとしても、地に伏してアスファルトを撫で嗅ぎ回すような男が怪しくないわけはない。


 いやそもそも、某天空の城の某ヒロインよろしく空から落ちてきたはずだが、人々を見ると驚愕と言うよりは不審がっているだけのようだった。これも摩訶不思議パワーの為せる技なのだろうか。


 だがそんなことはどうでも良い。そう、どうだって良いのだ。あの紛争ファンタジー世界、リースから見事に帰還を果たし、俺は日本に帰ってこられた。

 汚れをはたきながら立ち上がってはみたものの、式谷とデルは周囲に見当たらなかった。


「まあいいか」


 探すのも手間だ。行くあてもないので、ひとまず自身の住んでいた辺りまで帰ろうか。それにしたってここはどこだろう。どこか見たような街並みだが、明確な記憶はない。周囲の人間に聞くにも、不審者でしかない俺と話したがらないのも想像に難くない。


 面倒だが探すほかないだろう。すぐに見つかるといいが────と考えているうちに駅名の書かれた道路案内標識が見えた。この先三十メートル。その表記に小躍りしそうになってしまった。


 少し歩いていくと、つい口から「はん?」と声帯をひねったような声が漏れ出てしまった。よくよく駅名を見てみれば、『ライトシティ埼玉キラメキの街大宮駅』と過去類を見ないセンスの悪さ際立つ駅名が書かれていた。


 埼玉県大宮駅は知っていた。高校生時代、大好きなラーメン屋へ訪れるために下車した経験がある。ダサイタマと揶揄される中でも、一際(ひときわ)ダサくならないよう努めており、埼玉県の人気ランクへ大いに貢献を果たしている、埼玉県の顔とも言える場所のはずだ。

 それがどうしたことだろう。ライトシティにキラメキの街、二度も光ってどうするのだ。言いたいこと全部盛り込んだ結果胃もたれしたような、ダサイタマに相応しい駅名と化しているではないか。いつの間に改名したのだ。


 駅前に近づけば近づくほど、俺の疑念は増していった。ビル群はあったが、目測で二十階建て以上の建物がいくつも建ち並んでいた記憶はない。

 街頭にある半透明のディスプレイは、どんな手を使っているのか、宙に浮かんでいた。そこには人型の機械同士で戦っている映像が流れており、ディスプレイの周りには観客なのか、一喜一憂する市民が集まっていた。


 更には、やけに静音だと思っていた車も、タイヤで走ってはいなかった。地面すれすれに浮き、そのまま全方向へ推進していた。


「ここは、どこだ」


────状況は、またしても良くない方向へ動き出したと確信した。

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