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怠惰の主  作者: 足立韋護
第一世界
14/76

無一文異世界生活

 瞬間、辺りが静まり返った。俺の荒い息遣いだけがその部屋に響いていた。


 あれだけ騒がしかった三人の兵士の姿はどこにもなく、ロウソクの明かりで照らされているのは俺と式谷だけであった。奴らは俺達と違い、どこかに吸い込まれたわけでもなく、まるで初めからここにいなかったかのように、物音一つ立てず、瞬きする間もなく消えていた。まるで視聴していたテレビを突然消されたような感覚だ。


「大丈夫か、式谷」


「ええ、胸を二回揉まれただけです」


「まあ、そのなんだ、危なかったな」


「大丈夫です。私、Cなので揉みがいもなかったでしょうし」


「こら」


「それにしても、またですね。あなたの都合に合わせた事象が幾度も続いています」


 腕を後ろに縛られたまま、式谷は俺の顔を覗き込んだ。


「どうやら、そのようだな……」


 それから式谷は器用にも隠し持っていたナイフを床に落とし、後ろで縛られた手で縄を切断した。そのまま俺の拘束も外してもらった。ああ、この人にはもうなんにも敵わないのかなあと、一人しみじみ顔をしかめる。


 部屋を出る前に、暗がりで見えなかったロウソクの明かりで部屋の奥を見てみた。

 人が倒れているなどといった式谷大好物、刺激的な出会いはなかったが……ひたすらに凄惨な血痕と細かな肉片が散らばっていた。血液量からして、とても一人分ではなさそうであった。


「闇深いな、こりゃ」


「刺激を求めるにしても、あんな杜撰(ずさん)な方法では明るみになるのも時間の問題だったはず。まだまだシロウトのそれですね」


 ですねじゃないが。お前の被害者目の前にいるぞ、発言には注意しろ。


「ま、何はともあれ通行手形は手に入りましたし、少し町を歩きませんか」


 そう言われるがまま、式谷と平和な町に繰り出した。一歩外へ出ればまだまだ青空が眩い、平和な町の姿があった。日本のような腐った世界より、幾分はマシに見えた。



────俺は宿屋で女将に張り倒された。


「一シルバーも持ってないなんて話にならないねェ! 冒険者登録でもして、金稼いで出直してきな!」


「覚えてろこの鬼ババ!」


 俺は宿屋を逃げるようにして飛び出した。空はすでに夕暮れ時であった。

 町を散策した俺と式谷には特段何も起きず、単なるファンタジックな町並みや人々に驚嘆していたのみだった。気づけば日も暮れてきていたので、試しに宿屋へ行ってればあのザマである。


「ったく、シルバーってなんだ。金の単位か何かか」


「ええ、市場の様子を見るに、銀色の硬貨のようなものがソルという通貨として流通しています」


「無一文で突撃した俺達も悪かったか。鬼ババの言っていた冒険者登録ってのをすれば、金が手に入るんだな」


「ええ、確か昼間に歩いた道に冒険者ギルドがあったはずです。そこに向かってみましょう」


 式谷の案内のまま、冒険者ギルドへと向かった。よくこんな異世界の町を覚えられたものだ。どれも木造で同じような建物、文字も読めない。唯一、話す言葉だけが通じるのだから、不便極まりない。


【面倒だな、せめて文字でも読めるようになれたら】



────冒険者ギルドに辿り着く頃には、すでに辺りは暗くなっていた。

 町はランプの灯りで照らされ、淡く道を照らし出した。

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