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四話

アリアにとって地獄の一丁目こと家電量販店を可及的速やかに退店した真宵とアリアはとりあえず児童公園に来ていた。

最近は過剰なまでの安全のため対策で遊具が減っていると聞くがここは結構残っている。

「そもそもこういう公園自体見なくなったよなぁ……」

顔色も足取りも危険ゾーンだったアリアの手を引きここまで来た後、座らせてミネラルウォーターを自販機で買う真宵。炭酸は絶対やめた方がいいだろうということだけはなんとなくわかったし、珈琲がない文化なら毒を盛られた、とか言われそうなので。

「はい、アリア。水。ごめんな、物珍しい景色は楽しいかと思ってさ……あんなにやばい状態になるとは思わなかったんだよ」

現代人は割とよく行く店でも異世界人にとっては地獄の一丁目。異世界転生が異世界人がこちらに来る話ではなく現代人が向こうへ行く話なのはこういう部分がネックなのだろうか、と首をかしげる真宵である。

「お水…水、お水…くださいくださいよこせぇ……」

「そんな必死こかなくてもアリアのぶんだからとらねぇよ!?」

リバースは避けられたが吐かなかった分もやもやと気持ちの悪い思いをしているのかもしれない。ペットボトルのキャップを開けてこぼすなよ、と声をかけて手渡す。

「あんま強く握るなよ、柔らかいペットボトルだから」

「おみ、ず……うひゃあ」

ふらついていて力加減を間違ったのか握りつぶす勢いでペットボトルを掴むアリア。知ってた。という顔をする真宵。なんだかんだでいいコンビだがそれは下手なコメディアンという意味の路線だろうことは言うまでもない。

「……桃の匂いがします。このお水、香水ですか?香水は、飲んだら危ない」

「まっとうに飲める水だよ!?飲料水って書いて……あぁ、字が読めないのか」

ドレスのスカート部分がびしょぬれである。水だから乾かせばさほど害はなさそうだが真宵はハンカチなんて洒落たものは持っていない。

「濡れちまったなぁ……水、もう一回買ってくるから待ってて。今度は強く握っちゃだめだぞ」

「大丈夫ですよ。まだ三分の一くらい残ってますもん」

ペットボトルを傾けてアリアが水を飲む。白い喉が嚥下するために動くのがやけになまめかしい。

「ん、ほんのり桃の味、です。桃は神様の果物」

中国の西王母とか日本神話のヨモツシコメ退治とかの文化は異世界でもあるようだ。神様の果物、と聞いてそんな特別なもんじゃないよ、と苦笑する。

多分風味付けで味と香りを再現してるから無果汁だろうし。本質は水である。

「しかし濡れたドレス乾かさなきゃ……ハンカチかタオル買ってくるかぁ?」

しかし店に連れて行けばまたアリアが大変なことになりそうだし、自分一人で買いに行ったら返ってくるまでに誘拐されていそうである。どうしたものか、と頭を抱えるとアリアはまた、だいじょうぶですよ、と呑気な声を出す。

「お日様ぽかぽか、良い気持ち。ぬくもりでそのうちドレスも乾くと思われる」

「そりゃ乾くだろうけど……寒くない?」

「大丈夫なのです。ところで真宵さん、あの呪物のようなものは何ですか?」

「呪物?」

「板をぶらぶら揺らす鎖や、鉄の棒や、中身のない枠組みや、登れない傾斜です」

「ブランコと、鉄棒と、ジャングルジムと、滑り台か」

アリアのいた世界がちょっと気になるけどアリア語録だと多分伝わらないことは今までの付き合いで察した真宵はそれぞれの正しい名前を教えてやる。

「そうだアリア、ブランコ乗ってみ。オレが危なくない範囲で押してやるから」

「木の板と鎖の?でも真宵さん危なくないって言って危ないところに連れていくこと多い気がする」

「誤解を招くからその発言は撤回を要求する!」

恐る恐るブランコに腰掛けるアリアの背中をゆっくり通す。きこきこと軽く金属の擦れる音がしながらブランコは揺れ始めた。

「どうだ、怖くないだろ?」

「すごーい、なのです!」

はしゃいだような声をあげてもっともっととねだるアリアに、今度は失敗しなかった、とほっとする真宵はリクエストに応えてブランコを押す。

「空を飛んでるみたいです!」

アリアが嬉しそうにすると真宵はそれだけでうれしかった。だから歓声を上げるアリアの姿が、出会ってから一番輝いて見えた。

しばらくそうしてブランコで遊んで、滑り台の滑る部分を登ろうとするアリアに正しい遊び方を教えて、ジャングルジムの上で二本目の飲み物を飲んで、鉄棒はアリアがスカートだったので真宵が逆上がりをしてみせる。

どれもすごいすごいと無邪気に喜ぶ様子を見て、家電量販店での失点は取り戻せたらしい、と真宵はほっと息をつくのだった。

「どれが一番楽しかった?」

「みのむしぶらりんしゃん!」

「ブランコな。みのむしぶらりんしゃんはホラーゲームだからな……」

相変わらず独特な語彙力に笑いながら、児童公園に心から感謝する真宵だった。

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