三話
家電量販店。安くて明るい蛍光灯おいてますと言わんばかりに天井は照明が存在を主張し、各種メーカーのテレビが放送され、プリンターやパソコンが並んだりゲームソフトやゲーム機が並んでいたり。
現代日本ではかなり普及率の高いスマートフォンもキャリアごとにスタッフが応対している。
喜んでもらえるかどうかは未知数だが確実に驚かれるだろう、とスピーカーや車を知らない様子のアリアを連れてきた真宵だったがさすがに若干心配になってちらりと三歩後ろを窺った。
くっきり、眉間に濃いしわ。あ、まずい失敗した。冷や汗がたらりレベルからナイアガラの滝もかくやというレベルに変わる。
「むぅ」
「…………嫌だったか?」
嫌じゃなければその眉間のしわはでないだろうな、と思いながらアリアが漏らした声がうなり声だったので真宵は自分から話題を振ってみた。
えぇと、行き先を変えるならどこがいいだろう。やはり自然だろうか、しかしこの少女は郊外に行くためにおとなしく電車に乗ってくれるだろうか。異世界住民との観光は割合スリリングだ。周りが寄ってたかって「知らないの?これは何々と言って」と教えてくれる分、命の危険はあるが自分が異世界に行った方が意思疎通は早い気がする真宵である。
……いや。こっちに来てるアリアの様子から見るとそれも人によりけりだろうか。異世界トリップする小説の主人公たちが適応力が高く周りが親切なのか、アリアの適応力がどん底でしかも真宵がから回ってるのか。……どれも満たしているのが現状だろうか。
「アリアさん?もしもーし?」
「眩しいですうるさいですなんか変なにおいします」
ワンブレスでいって両耳を抑えて少しでも明かりが入ってこないようにと目を細めるアリアだがそんな調子で歩かせると転倒しそうで真宵はますますハラハラすることになる。
眩しい、うるさいまでは分かるが変なにおいとは何だろう、とあたりを見回す。
「……アロマいれるランプのやつか、もしかして」
リラックスなんかに使われるアロマを変なにおいとは異世界住民は大分手厳しい。
「それに呪いのアイテムがたくさん、です。死後の世界には連れて行かないって言ったのに言ったのに」
「待ってどこも呪われてねぇよ!?」
「小箱にたくさん人が閉じ込められているのに呪われてないんですか、この世界は地獄でした……?」
あぁ、テレビはやっぱりその認識なのか、と思いながら拙い言葉であれは記録した映像を流しているのであって人が閉じ込めているわけでもここが地獄の一丁目というわけでもないことを説明する。
どの程度伝わったかは微妙だ。
「えぇと、気に入らないなら移ろう。どこがいいかな……」
「音で頭がくらくらり、です」
気持ち悪い、と白い顔からさらに血の気を引かせて口元を抑えるアリアをみて真宵の顔からも血の気が引いた。店でリバースされるのはさすがにまずい。そして化粧室でリバースさせる場合ついていくことができない。進退窮まった感じである。
「OKお外出よう、少しでも空気いいところで深呼吸!頼むから吐かないで!」
「うぅぅ……」
そして二人は相変わらず気づいていない。いまだに街中を歩いていた時から同じ、いやそれ以上に広いエアスポットが二人の周りに出来ていることに。
まだ昼前。珍道中は始まったばかり。