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電気味覚は成吉思汗(ジンギスカン)を味わえるか

作者: ふれいむ

戯曲調を狙ったのですが、それで読みづらくなっているかもしれません。ご承知置きください。

――――重厚なマホガニーの執務デスクが黒革張りのソファーや一人掛け椅子を従えて、偉そうに中央を席巻している部屋。ソファーを使うものはいないが、デスクの前には濃紺のスーツの上に白衣を着込んだ40前後の男の姿がある。調度品はいずれも派手さはないがずっしりとした質感を醸し出しており、部屋の主のセンスと性格がしのばれる


――――部屋のドアを外から見れば『主任室』のネームプレートが目に入る。そのドアを開けて、うす汚れた白衣を着た若い男が入ってくる


――――書類に視線を落としていた部屋の主が、闖入者に眼光を飛ばす


部屋の主「研究室で動きがあったらしいな。いったい何事だ」


若い男 「聞いてください、主任。すぐにでも商品化できそうな、画期的な新製品が出来上がりました」


――――主任、一段と厳しい表情になる


部屋の主「才気ある若者は好きだが、あまり先走りし過ぎるのも興ざめだな。新製品というなら、然るべきプレゼンテーションを通して役員会にかけられるべきものだろう」


若い男 「それは勿論です。しかし、主任の口添えがあれば、その機会も早まるのではないかと思いまして」


部屋の主「まあ、御託は良いだろう。説明を受けようか」


――――若い男、その言葉に満足そうな表情を浮かべると、携えていた小箱をデスクの上に置く。差し出されたその小箱を無言で開く部屋の主


部屋の主「これはいったい何かね」


――――その手の中に、赤ん坊がよく使うような『おしゃぶり』がある


若い男 「それこそが、この度の新開発品です。どうぞお試しになってください。すでに人体における安全は保障されておりますので」


部屋の主「使え、と言うが、この形状から察するに、これは口に咥えて使うものだな」


若い男 「そのとおりであります」


部屋の主「で? この製品は乳幼児用に開発したものなのかね」


若い男 「いえ。対象は全年齢と考えております」


部屋の主「ならば、この時点でこの企画は廃案だ。いい年をした大人が、こんなものをしゃぶっていられると思うのかね」


若い男 「お待ちください。今回、デザインまでは完成しておりません。それは、機能のみの完成版でして……」


部屋の主「改良の余地はあるというわけだな? よかろう、ここはひとつ我慢をしておこうじゃないか」


――――渋々ながら、おしゃぶりを咥える部屋の主


部屋の主「さて、これがどうしたのかな? 私はだんだん不快になってくるだけなのだが」


若い男 「先の部分を舌で触っていてください」


部屋の主「ふむ」


――――若い男、白衣のポケットからおもむろにテレビのリモコンのようなものを取り出す


若い男 「では始動します」


部屋の主「おお!? これは……カレーか?」


若い男 「そうです。これが画期的新発明、『味覚疑似体験装置』です」


――――部屋の主、おしゃぶりを外す


部屋の主「しかしな、疑似体験では腹は膨れんぞ」


若い男 「これは異なことを。グルメ嗜好が増えた昨今、味だけでも楽しみたいと言う一般市民の声は増えるばかりではありませんか」


部屋の主「まあ、よかろう。面白いことは確かだ。早期に役員会が召集できるように取り計らってはみよう。その前に、簡単な動作原理が聞きたいものだな」


若い男 「はっ、ありがとうございます。では、説明させていただきます」


部屋の主「専門外の私でもわかるようにな」


若い男 「わかりました。ではまず、人間の味覚について。人間の舌が感じ取れる味の種類は、塩味・甘味・酸味・苦味・旨味の5種類です。そのどれにも共通して言えることは、味の感覚器官が味の成分を検出したときに、微弱な電流を発生すると言うことです」


部屋の主「うむ、それで?」


若い男 「同じように味の成分を検知すると、微弱な電流を発生する高分子膜を開発しました。研究所では、これをさらに発展させたのです」


部屋の主「具体的には」


若い男 「検出した電流を、増幅して人間の舌に伝えられるようにしました。更に、製品としての機能では、基本的なメニューの味はメモリさせておくことも出来、新しく感知した味もすぐに舌に伝えられるようにします」  


部屋の主「なるほど、問題無いようだが……」


若い男 「最終的には、どんなものの味でも再現できるようにしたいと思っております」


部屋の主「ほう?」


若い男 「都会を流れるドブ川の味でも、太陽光に溶けたアスファルトの味でも、再現は可能なはずです。化学物質を合成して味を作るのではなく、電気信号を通じての再現ですから、人体に影響を及ぼすこともありません」


部屋の主「そのような使い方をする人間が出るとも思えんが。まあよかろう。三日以内に最終プレゼンまで可能なように用意しておきたまえ」


若い男 「畏まりました」




――――6ヶ月後。同じ部屋にて。ドアが開かれ、若い男が駆け込んでくる


部屋の主「事故があっただと!? すでに生産ラインも組まれ、量産体制も整ったと言うのに、何だというのだ」


若い男 「それが……先行量産品試験中に、被試験者が死亡してしまいました」


部屋の主「バカな! 今更欠陥品でしたでは済まされんぞ」


――――頭を抱え込む部屋の主


部屋の主「……で、原因は解かっているのか」


若い男 「はい、これを御覧下さい」


――――部屋の主、若い男から書類を受け取り、目を通す


部屋の主「毒キノコを味わって即死だと? こんなものの味を試そうと言う精神も理解できんが、何故これで死ぬようなことが起こるのだ? 毒を再現する機能などはついていないはずだろうが」


若い男 「この毒キノコには、アルカロイド系の神経毒が含まれていまして、筋運動の停止により呼吸不全を起こし、これが原因となって人を死に至らしめると考えられていました。が、実は……」


部屋の主「実は何だ」


若い男 「実は、『死ぬほどマズイ』のが原因だったのです。それこそ心臓麻痺を起こすほどに……」

先日VRに香りをプラスするコンセプトの記事を読んで20年ほど前に書いたこの作品を思い出し、あげてみることにしました。ひょっとしたらもう開発されてる技術だったりするのかな。

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