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失敗しない寿命の使い方  作者: ぽた
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史実≒真実

「やはり幻影でしたか。道理で手応えがないわけです」


 樹が事態を収めたすぐ後で、紫苑が呟く。

 一太刀の斬りはらいで消し飛ばした全員、彼らの本体が作り出した幻影だったのだ。

 しかしいくら幻影魔法と言えど、意識を持ち、実体のあるものを創り出すことは国の上級魔術師でも至難。襲撃者が相当な使い手であることが分かる。


 幻影に供給していた魔力の糸を辿り使い手を探そうとするが、樹はそこで紫苑を止めた。


「これ以上魔力を消費すると、君が倒れかねない」

「ですが…!」

「紫苑にそれが可能なのは分かってる。そして普通ならやるべき場面だ。でもどうか聞き分けて欲しい。これは君の身を案じての発言でもある」


 優しくなだめるように言われて、紫苑はそれ以上の魔法使用をやめた。

 それから少し遅れて、紫苑の身に反動が起こる。


 足元をふらつかせ、倒れそうになるのを樹に支えられると、「すいません」と一言。焦点の定まらない目で樹の方を見た。


「転移だけでなく、紫苑、今日は俺のいないところで他の魔法も使っただろう?リンクした時、波の立ちが悪かった」

「それは……申し訳ありません…」

「別に怒ってるわけじゃない。何に使ったかも聞かない。ただ、それなら隠さず、無理をして欲しくないだけだ。なにせ、精霊を纏うには君の魔力が必要で、その消費量はとても多いんだから」


 精霊の力を纏うには、精霊を使役する者の魔力も必要で、二人の場合は紫苑がそれだ。

 そしてその総消費魔力を等分し、同じ量だけ使う。

 しかし、個々の魔力量で言えば樹が幾分上回っており、精霊を纏う時間が長ければ、先にガタが来るのは紫苑である。

 供給を絶った後は、しばらく魔法を使わないのが吉なのだ。


「さっきは無理言ってごめんね。助かった」

「いえ…以後、気をつけます」

「うん。さてと――」


 そこで樹が刀を鞘に納めると纏っていた精霊は自動的に降り、少なからずの疲労が体を襲う。が、目の前でふらつく少女に比べればどうもないと鞭を入れて立ち上がり、ふとある方向を見やった。


 通りを抜けた先の先、町の中心部にある城。

 巫女、それに使える直属の部下と使用人の女中らが住まう、国一大きな建物だ。


 樹たち守り人の仕事はそこで斡旋され、その最高位にいるのが巫女。

 そして仕事等の報告は直接、巫女に謁見して伝えるのだ。


 城までは歩いておよそ三十分といった距離。

 転移を使えるのは紫苑個人だけだが、その紫苑も今は消耗している。


「紫苑、ちょっとごめん」

「え…?」


 樹の返答はなく、代わりに弱い睡眠魔法がかけられた。

 これからすることを説明すると、きっと断って無理にでも魔法を使いかねない。


「おっと」


 紫苑をおぶったところで、未だ人除けの結界が解けていない事に気付いた。

 念のために通りから外れた路地に入り、地に手を触れて結界を解く。


 途端にガラス張りの窓が割れるが如き音を立てて、世界が割れて崩れ、代わりにもとの世界が現れた。



「これは――」


 人除けの結界とは、指定した一定範囲内に人を寄り付かせないもの。元よりそこに人がいた場合は、自然とその場から離れていくのだ。

 そして結界を解いた時、時間を置いてから自然と人が戻って来る。


 しかし今の現象は、それと全く異なる。

 解いた瞬間、偽りの世界が崩壊し、その奥から元あった世界が現れた。

 『特有結界』と呼ばれるそれは、現実の世界に新たな世界で一時的に上書きし、対象を閉じ込めるもの。

 幻影魔法以上に高度な術で、並大抵の人間では失敗か成功かという段階にすら至れないものだった。


いつ、かけられたのか。

こういった魔法に詳しい紫苑でさえ、現実の世界に貼られた人除けの魔法だと間違えるほど巧妙に、かつ悟られないタイミング。

検討がまるでつかない。


 いよいよもって普通でない事態に焦り、巫女に急いで報告すべく、背中の紫苑に一言謝りを入れると駆け足で城を目指した。


―――


激走し、十分足らずで到着するや、城内の女中達は忙しなく言葉を投げ合いながら走り回っていた。

謁見等の手続きを取り扱う受付嬢まで出払っている始末、すんなり通れる筈もなく、紫苑を背に乗せたまま、樹は入り口を少し進んだところで立ち尽くしていた。


文字通り全員が動き回っている中で一人動かない樹に一切目もくれぬとなると、こちらでも何かが起こったのだろうと容易に察しがつく。


事態を把握すべく、樹は近くにいた適当な一人の女中を捕まえて話を聞いた。


「え? あ、樹様、丁度いいところに!」


女中は、振り返って樹の姿を確認するや、ほっとしたように息を吐いて言う。

その一言に周りの女中も一斉に視線を樹に向ける様子から、捕まえた一人の女中だけでなく皆がその帰りを待っていたらしいことを樹は察した。


しかし、樹にはその心当たりが無かった。

城への招集や来客がある際は、事前にその知らせが来る筈だからだ。

知らせも何もなしの用事など、緊急中の緊急か、余程の礼儀知らずか――


「よ、樹。元気そうで何よりだ」


後者だった。


通された客間にいたのは、次々運ばれて来る食べ物を渦のように飲み込む男。

女中が総出で取り掛かっていたのは、食事の準備だった。

なるほど、皆で働かなくては回らないわけだ。

樹が守り人となった折、歓迎にと行きつけの店を貸し切り、盛大に飲み食いした。その際、料理を作り慣れた歴戦の勇者とも呼ぶべき敏腕の店の者が、全員で作り回しても追い付かない程、この男の食べる量、速度には誰一人として追い付けていなかった。

 

過去を思い出して逆に恥ずかしくなる樹に馴れ馴れしく片手を上げて挨拶をするその男は、


「何やってるんですか、果心(かしん)さん」


樹を含む三人から成る巫女の守り人、一番槍の果心。

この体たらくでも、一番の実力と功績を持つ、二つ尾を持つ守り人のリーダーだ。


しかし騒動の真相をその目で確かめた樹は、完全に冷めていた。

よりにもよってどうしてこの人だと思いながら、隠しきれない呆れ顔で樹は続ける。


「あれ程、食事をする際にはそこに迷惑をかけないようにと申し上げていたというのに。説明を要求してもいいですよね、いえしてください!」

「そう怒るなって。食糧庫が底を突くわけでもあるまい」

「そういう問題では――いえ、それより、この騒ぎは巫女様の耳にも届いている筈です。であれば――」


忠告と対応を、と思った時には遅かった。

尚も料理を口に運び続ける果心の背後で、ゆらりと揺らめく影が一つ。

そこから伸びた手が肩に触れるや、果心は一瞬にして食事をするその手を止め、その額に汗を滲ませていた。


「もう、底をついてしまったようですよ?」


 優しく諭す声音は、しかし深い殺意のようなものを孕んでいた。

 その言葉を受けて更に汗を流す果心から手を離し、九つの白い尾を揺らして、その人は前に出た。


「いらっしゃい、樹。この通り、愚弟の所為で謁見の知らせは回ってこなかったのですが、まぁこうして出会えたのですから良しとしましょう」

「と、とんでもない…!」


 深々と頭を下げられた樹の方が、それより更に低く頭を下げる。

 そう。大きな狐の耳をぴこぴこと動かすその人こそ、樹らが守る対象、巫女の神楽(かぐら)に他ならない。

 そして『愚弟』と口にしたように、果心は神楽の実の弟だ。

 そんな人に頭を下げられて平然といられるのは、


「んな固くなんなよ(あね)さん。土産話を持って帰ってきてやったっていうのに」


 姉が離れるや食事を再開する肝の据わり具合をもった、この弟くらいのものだろう。

 一瞬の緊張感はどこへやら。


 いよいよもって観念ならず魔力を高めながら振り返るが、果心がたった今言い放ったことが引っかかって魔力の増幅を止め、詳細を求めた。


「樹にあれだけしつこく言われたんだ。無許可ってわけでもねえよ」

「と、言いますと?」

「使った魔力の回復には食事が一番ってな。まぁあれだ、短く言えば、精霊を何度か降ろした」


 瞬間、ただ野蛮を働く弟を糾弾する姉から、一人の巫女モードへと表情を変えた。

 同時に、心当たりがある樹も息を呑み、場は緊張感だけが支配する。

 その一言から直ぐに事態を察した神楽が、


「交戦を?」

「いや、牽制だけだ。ただ、一回ってわけにもいかず、何度か。お陰で、千代にはかなり負担をかけちまった」


 そう言って果心が親指で指した斜め後ろで静かに佇む女性に樹が目をやると、すぐにその視線に気付いてぺこりとお辞儀をした。

 樹で言うところの紫苑と同じ立場、果心に代わって精霊を使役するのが千代の役目だ。

 歓迎会の場、会議の場で何度か顔を合わせてはいたが、樹は未だその声を聞いたことがなかった。

 果心曰く極度の人見知りということらしいが、その落ち着いた様子からはどうもそんな気がしない。


「ごめんな、千代。制限してやってるんだが、回数重ねるとどうしても」


 そうして申し訳なさそうに謝る主の果心にも、首を横に振るモーションだけでの返答。

 これでは、果心さえも声を聞いたことがない疑惑まで浮かんでくる。


「飯を運んで来てくれるところ悪いんだが、お嬢さん方に聞かれるわけにも――姉さん、円卓は使えるか?」

「構いませんが、果心、傷はありませんね?」

「あるように見えるか?」


 姉の心配顔にも、果心は逞しい腕を振り回して健康体をアピール。

 短く「ならいいんですけど」とだけ言って、先に部屋を出た。

 その姿が少し遠くなったところで果心は樹に顔を寄せて、


「ちっとヘマして背中にな」

「バレたら大目玉どころか牢屋で反省ものですよ?」

「だからお前も黙っておけよな。な?」

 

 背中をバシバシと叩いて同意を求める果心に、樹は渋々了解した。


「お嬢さん方、飯すげー上手かった! また頼む!」


 大忙しの後、息を切らしながらも控える女中達に向き直って、果心は本心で労う。

 どこぞの人間がこのような蛮行を働こうものなら嫌味にしか聞こえないだろうが、その正直で真っすぐな性格に加え、なまじ顔が良いだけに、声をかけられた女中達は満足気に「またいつでも!」と頭を下げるのだった。

 不条理というか不公平というか、何とも言い難い苛立ちを聊か感じながら、樹も頭を下げる。

 そして女中たちの反応に満足した果心は、そのまま神楽の後をついていく。

 

 背中に受けた傷、言われなければ気付かなかったのだから、黙っておけば良かったものを。

 ふと浮かんだ正論は伝えぬまま、樹は先を行く二人を追いかけた。



 

 円卓会議室。

 仕事の報告、及びその先の方針の決定は主に謁見の間にて行われる。が、その中でもとりわけ重要なもの、漏洩しては困るものに於いてはこの円卓会議室で話し合いがなされ、外には少なくとも二人の見張りを配備する。

 この部屋を指定する際、果心は軽い口調で言ったが、ここにはそれだけの重みがある。

 口調はあれでも、内容がその限りでないことは明白だった。


 部屋に入る前、神楽の言で樹はおぶっていた紫苑を医療班に預け、しばらく寝かせておくよう頼んだ。


 蝋燭数本分だけの灯りで照らされた室内は、その中心に大きな円形の机、その周りを囲むようにして椅子が並べられている。

 一番奥にあるひと際大きな椅子に神楽、その反対側に向かい合う形で果心、二人の中間地点に樹とそれぞれ腰掛け、果心は千代を、神楽は副官を背後に立たせた。


「早速ですが、果心、報告してください」

「はいっと」


 神楽の言葉に、果心は潔い返事と共に立ち上がって、懐に仕舞っていた紙切れを取り出す。

 細かい字でびっしりと埋め尽くされたそれは、果心が先刻精霊を降ろし魔力を使った時の記述で、遠征にでた数名の部下の一人が記したものだった。


「先ず遠征の成果だが、ゼロだ。理由は追って話す。費用と報酬も今は無視してくれ」

「貴方が給金を無視とは――大事ないのが奇跡と捉えても良いのでしょうか?」

「一先ずは。で、その理由だが、目的地である花の国へ向かうまでの道中、迷いの森で賊に襲われた」

「襲われた?」

「ああ」


 頷きながら、果心は小さく折り畳んで重ねて持っていた地図を取り出し、神楽と樹の間に入ってそれを広げて場所を示した。


「結界が貼られていた。人除けなんて緩いもんじゃあねえ、特有だ。気付いたのは森の丁度ど真ん中、空気が少し歪むのを感じて身構えたんだが、後ろから闇に乗じて――って、どうした樹?」


 ふと目をやった樹の表情がよろしくないことに気付いた果心が尋ねる。

 同じことがあった旨を伝えるや、それは予想していなかったらしく、姉弟二人して固まった。

 当然だ。全く同じ方法で、同じように後ろを取られたなど、そうそうあることではない。


「俺たちは昼食を摂り終えた直後だった。気が付いたら大通りに誰もいなくて、四十弱の敵襲があった。紫苑に精霊を降ろしてもらって斬り伏せたんだけど……果心、その敵って――?」

「ああ、幻影だった」


 果心は首を縦に振って肯定した。

 そこまで酷似しているとなると、もはや同じ集団組織と見てもまず疑わない。

 

 よもや、このようなことが起ころうとは。

 樹は町中での襲撃であった故、市民の安全を確保する策を練ろうとここへやってきたというのに、それでは足りないの範囲になってしまっている。

 口ぶりから、樹らを特定したものでない以上、次に誰が狙われるか分かったものではない。

 予想し対策するにしても、情報が足りなすぎる。


 すると、強く唇を噛み唸る樹と黙る果心に、ふと神楽が手を挙げて、


「その時の二人の記憶を、少し覗かせてもらってもよろしいですか?」


 百聞は何とやら。

 事細かに口で説明をされるより、実際に視てみるのが一番早くて正確だ。

 この場合、今ここにいない敵の姿を確認するということになるが、こと神楽に於いては、それが可能だった。


「長時間続けられると気持ち悪くなるから、手短ならいいぞ」

「俺も構いません」


 二人がノータイムで受け入れると、神楽は二人の額に触れた。

 自身の魔力と対象の魔力を無理やり同調させ、そこに宿る情報の一部を取り出す魔法『アナライズ』。その効果は一方的なものでなく、下手をすれば同時に自身の情報も流れかねないリスクを孕んでいる。

 果心が「気持ち悪くなるから」と言ったのはそのためだ。


 魔法の扱いに長けた神楽のそれは早かった。

 瞬間で取り出し、すぐに額から手を離した。

 そして二人が目を開けると同時に、その表情が険しくなる。


 見守る二人をよそに、神楽は強く唇を噛み、黙った。

 

 そのまま振り返り、奥の小部屋へと歩いていく神楽を果心が呼び止めるが、黙ってついてこいとこれまでになく強く言われ、控えさせていた千代ともども後に続いて歩く。

 固く何重にも施錠されている扉の奥は、身内である果心も見たことがなく、そこが何なのかさえ知らない。

 事実かさえも怪しい噂によれば、何人にも触れることが許されない禁書が眠っているのだという。


 幾らか先の未来を知って戻り、未来の記憶を持つ者である樹が、そのまま同じ未来をなぞれることはなく、そこに招かれるのは前回なかったことである。

 言いようのない不安を覚えつつも、果心に続いてその背中を追う。


 神楽に促されて立ち入った部屋の中は閑散としていて、本を置いておく棚や木箱といったものはなく、ただ一つ、幾重もの鎖で縛られた何かを掲げる祭壇があるだけだった。


 神楽がその前に立ち手をかざすと鎖はあっけなく崩れて消え、代わりに黒漆色の本が出現した。 


「それは?」


 聞いたのは果心だ。

 その存在すら知らなかったのは果心も樹も変わらない故の、当然の反応だった。


 果心の疑問に対し、神楽はまたも無言でそれを寄越すだけ。

 どうやら中を見ろ、ということらしい。


 題名のない表紙に真新しい触り心地で、それがいつから封印されていたのか見当がつかない。

 表紙を捲りまず目に入ったのは、百年前に起こった大戦が終戦した日付。

 隣国との和平交渉が決裂した末に起こった、正義の欠片すらない喧嘩のようなその争い。拡大した戦火が多くの死者を出し、互いの国に深い爪痕を残したその大戦は、国の者なら誰もが知る有名な話だ。


 今更それに関する記述を呼んだところで、一体何になるというのだろうか。

 重なる疑問を浮かべつつ更に頁を捲ると、


「『文書を歪めたる白の教団を幽閉し、以後は絶命まで不出とする』って……いや待て、これ――それに、白って」

「はい」


 二人が文面に目を通したところでようやく、神楽が口を開く。

 

「和平交渉の文は、確かに隣国へと出されました。文面も乗せた、正しい(ふみ)です。しかし、それを歪め、攻め入る旨を載せた文へと変えた存在がありました。それが、貴方達が相対した『白の教団』の者です」


 決裂とは国民を納得させる為だけの隠れ蓑で、その実は独立した集団による『革命』と銘打たれた横槍であったということ。

 それを成したのが『白の教団』――世界を正しく在るべき形へ、白紙に返すと謳った者たちの集団だ。

 秩序を無くし、法を解体し、誰しも平等に自由を与えんとした彼らの本質がただの過激派だと分かると、両国は戦争を止め、秘密裡にそれを閉じ込め、記した事実は漏らさぬように、ここに封じた。

 代々続く巫女、そして王にだけ、記憶とともに情報が伝えられ、その段階で先代となる伝えた者は自らその記憶を消去する。

 後の世に伝えはするが、そうして知る者の数は極限まで減らしてきたのだ。

 ただの二人だけ口止めをしておくことで、誰にも漏れないで済むように。


 王を除き神楽のみが知るその話を、二人は黙って聞いていた。

 しかしそれは言葉を挟む余地がなかっただけで、言いたいことは山積していた。

 まず一つに――


「おかしいな、これ。くだらねえ意志を継ぐ者がいたとしてだ、そんなでけえ火種を残すほど、当時の国家がザラなわけねえよな。みすみす逃がして『捕まえました』ってのは可笑しい」

「ええ」

「じゃあ何か、新しく徒党を組んだ、似たような思想の馬鹿がいるってか?」


 果心は、現代になって新しく生まれた過激派が、今回襲撃してきた可能性を指摘した。しかし、言いながらその違和感にはどこかで気付いていた。

 もしそうであるなら、わざわざ神楽がこんな話をする必要はない。過去に何があろうと、これを教えることに意味はなく、ただこれからの対策話だけしていればいい。

 それに、受け継ぐ者の存在はないであろうと口にした果心に、神楽は頷いた。記憶まで残されている立場とあって、それはまず信じてよいことだ。


 そうなれば、有り得る可能性としては――


「はっきりと記憶に刻まれています。貴方たちが相対した襲撃者と当時の教団員は、同一です」


 神楽ははっきりとそう言った。


「待てよ。姉さんは、昔悪さを働いた奴らがまだ生きてるって言ってるのか? 百年も前に没した筈の奴らが」

「ええ。私に宿る記憶と貴方達からいただいた記憶を重ねても、その可能性は限りなく百に近い」

「そんな話……信じられるか、樹?」

「分かりませんが……でしたら巫女様。その彼らが実際に生きていたとしてですよ。目的は一体?」

「崩壊を悦と感じる者たちのことです。断言はできませんがおそらく――」


 顎に手を添えて一拍。

 神楽は樹と果心を正面に捉えて、


「再びの両国家転覆、あるいはそれに近い暴動か何か――かと」


 神楽がそう発した瞬間、樹の中で何かが繋がった。

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