回乃二 ライダーは正義ではない(暴論
釣り人A:じゃろ、じんべいじゃろ?
釣り人B:んだ、じんべいじゃ。
ってーことで行ってみようかの。
回之二、お題は「仮面ライダー」じゃ。
最初に白状してしまいますと、じんべいの仮面ライダー視聴歴は浅いです。
特にエポックメイキング的な作品をことごとく逃しているので、作品を細かくディープに語るのはちと難しい。
(昭和の取りを飾ったRX、平成の幕を開けたクウガなどなど
そこで狙いを絞る事にしまして、ライダーという〈存在〉について語っていこうと思います。
さぁ皆さん、心の準備はいいですか?
今回も暴論から参りますよ。
ズバリ、仮面ライダーは正義ではありません。(暴論
ああっ、石を投げないで!
ストロングな御大が自分を「正義の戦士」と名乗ってるなんて指摘しないでっ!
ちょ、ちょっと落ちついて聞いてくださいな。
仮面ライダーは正義でない、とは言いましたが、「仮面ライダー」という「作品」が正義を語っている事に異論はありません。
じんべいが指摘したいのは、仮面ライダーという「存在」に正義が含まれていないという事なのです。
それにはまず彼らの戦う理由と、戦う力の成り立ちを見ていく必要があります。
ここでは偉大なるエポックメイキングにして元祖、仮面ライダー1号こと本郷猛をメインに分析しましょう。
彼はまぁ生まれ育ちに諸説ありますが、とにかくスポーツ万能で天才肌の、ごく普通でない普通の青年です。
(戦後すぐに生まれたのはわかってるんですが、家族構成や資産状況がなんとも……猛坊ちゃん?)
もし仮面ライダーにならなければ、研究分野かモータースポーツ(あるいはその両方)にその功績を残しただろう一般人でした。
(一般の定義は「ヒーロー」ではないというだけの話ですが)
しかしその才能ゆえ選民思想を掲げる悪の秘密結社ショッカーに目を付けられた本郷は、拉致された挙げ句に改造人間にされてしまいました。
さらに脱出の手伝いをした恩師を殺され、彼は自らの生存と自由を賭けた闘争に日々を費やす事になります……
……いまちょっと仕込みました。
有名なナレーションにはこうあります。
「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界制覇を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ! 」
※傍点は魚類が振りました。
これを端的に現すとこうなります。
「人間の自由」 = 「ショッカーの壊滅」
間違ってはいない論理です。
ショッカーが世界制覇(具体的にどうするかは不明ですが)を狙う「悪の秘密結社」なら、これを倒さねば人間の自由はありません。
ハリウッド脚本術で言うところの「対立者」として完璧です。
しかし本郷自身にとっては、これと別の見方があるのではないでしょうか。
ショッカーはあまり目立たない事を信条とした組織です。バスを襲う程度のテロはしますが、国会や総理大臣は襲いません。
(仮面ライダーに壊滅させられなければ、やってた可能性はあります)
組織のトップシークレットにあたる「改造人間」、それも極めて強力な「バッタ型」は言わば虎の子。全身これ機密の塊。
そんなのに逃げられたとあっては組織の一大事です。
どこかの軍に駆け込まれでもしたら、ショッカーごときテロ集団などあっさりと壊滅させられてしまいます。
当然、ショッカーは持てるコネを総動員して公権力に手を回したはずです。
「改造人間だと名乗る男が来ても相手にしないように。あと来たら知らせて」という感じで網を張ったわけですね。
そして身元がわかっているのですから網は「本郷猛」の周辺にも張られたでしょう。
そうなると逃げた本郷が日常生活に復帰する事は叶いません。
知人に会えば居場所を知られるばかりか、知人の命さえ危ういでしょう。
大好きなモータースポーツへ出場したり、ひらめいた新説を論文に書いて発表したりすると、注目と一緒に刺客がやってきます。
本郷が公徳心も道義心も欠如した人物なら素性を捨てて海外へこっそり高飛びしたかもしれませんが、それでも状況は好転しなかったでしょう。
なにせ歩くトップシークレット。ショッカーのライバル組織(いるみたいですね、世界中に)が放っておくはずがありません。
公権力もこうなると要注意です。米軍あたりは嬉々として本郷を解剖しかねませんし。
こうなると本郷に残された道は二つ。
一つはおなじみの「打倒ショッカー」。自らの身体の秘密もろともショッカーを消し去ってしまえば、日常生活への復帰が望めます。
そしてもう一つは、ショッカーに参加すること。
おそらくショッカーは自発的に戻ってくる事を期待して網を張ったのではないでしょうか。
「バッタ型」が虎の子なのは事実ですし、本郷は極めて優秀な人材ですから恭順を示せば幹部待遇も約束するでしょう。
(怪人サイクロンホッパーに変身する暴風准将……みたいな)
本郷の人柄を読み切れなかった彼らは手痛いしっぺ返しを食らったわけですが。
これで本郷にとっての見解が出そろいました。
すなわちこうです。
「俺の自由と平穏な生活」 = 「ショッカー壊滅」
これをナレーションの論理と繋げますと
「俺の自由と平穏な生活」 = 「ショッカー壊滅」 = 「人間の自由」
となります。
ストーリーと主人公の利害が一致を見たわけです。
まぁ言葉を連ねなくとも、本郷を「人間」と見なせばそのまま代入できるのですが、ね。
でも本郷はすでに「人間」ではありません。
ショッカーが壊滅してもライバル組織や公権力の脅威は残り続けます。
これを回避するために本郷は「インターポール」という公権力と手を結びましたし、各地の組織とも戦う事になります。
結局改造されてしまったが最後、安息の日々は永久に奪い取られてしまったわけです。
ああ本郷猛。汝悲しき英雄なりや。
でもこの姿勢って、奪われてしまったものを果てなく取り戻そうと足掻く「復讐者」、あるいは「彷徨える跛行者」の姿に見えませんか?
それは「正義のヒーロー」と言えるでしょうか。
「モンテクリスト伯」に例えるとわかりやすいかもしれません。
ダンテスは裏切り者によって将来や恋人を奪われ、大金を手に素性を隠して復讐する。
両者の違う点は、ダンテスが神という正義を代行すると言いつつ、正義によって自身も責められる点です。
「復讐」 = 「正義」 ではないという見地からのストーリーですね。
(でも個人的にダングラールを許すぐらいならヴィルフォールを許すべきだったと思うのです。恋人を奪ったフェルナンは死刑でOKですが)
一方、仮面ライダーでは人間の自由という正義と、本郷の復讐がほぼ無関係で競合しません。
「忠臣蔵」と一緒ですね。吉良上野介が誰が見ても悪役なので、47人でフルボッコにしても賞賛こそすれ非難される事はありません。
そして実に本郷だけでなく、多くのライダーがこの成り立ちを背負っています。
ショッカーがなければ本郷猛も一文字隼人も普通の人でした。
デストロンがなければ風見志郎は家族と幸せな生活を送っていたはずです。
GODやドグマ王国がなければ、カイゾーグだってスーパー1だって当初の平和利用で済んでいたはずです。
ゲドンがブラックサタンがネオショッカーがバダンが……そしてゴルゴムが……
悲劇が産み出されるほどに、強き「復讐者」が悲しき戦いを始める。
悪なくば正義なし、と。
ある方から平成と昭和の比較を、との言葉がありましたので、ここでちょっと平成も引き合いに出しましょうか。
平成は「改造人間」というベース設定を取り払って、「テクノロジー」や「魔術」、「神通力」などで変身するライダーが多いです。
そうなると「復讐」のベースも失われてしますそうですが、結構そうでもありません。
要は復讐(それに準ずるモチベーション)が力に付随するという基本構図は一緒で、順序が入れ替わっただけです。
①力を得る → ②そのせいで何かを失う → ③力に伴う責任や結果に苦悩する → ④力を正しく振るって解決を目指す
(昭和では①②が同時または逆転し、③④も逆転もしくは並行処理されます)
苦悩はおおむね作品内で完結するため、「復讐」に付きものの「果てない苦悩」はありません。(原則
そのかわり主人公には別の苦悩が突きつけられます。
「正義とは?」「人間とは?」「強さとは?」「未来とは?」「希望とは?」「若さってなんだ?(違)」
苦悩し追い求めるという基本の構図は共通していますが、個々の作品については独立したテーマを持つ。
私見ですが、平成は「仮面ライダー」という記号を使った別個の作品群であると思っています。
もちろんその記号の中に昭和の「復讐者」が含まれていると私は信じていますが。
さて、そろそろ話をまとめの海流に乗っけましょう。
「仮面ライダー」という「存在」には、「正義」とは関係のない「復讐」の影が常につきまとっています。
やってる事は正義ですが、おそらく彼らは自らを「正義」とは呼ばないでしょう。
もし自分を「正義」だと名乗るなら、おそらくそれは自己を鼓舞するためか、悲しみに打ち勝つためか、はたまた「騙って」いるかです。
したがって
仮面ライダーは正義ではありません。
正義とは、彼らの歩いた足跡に咲く花の事なのですから。
異論は認めます。
~蛇足~
仮面ライダーを語ろうとして二度ほど原稿を書き直しました。
(ムズカシカッタ……
最後の結論周りは、もろにpecoさまの「黒の装殻シリーズ」にインスピレーションをいただいております。
「黒の装殻シリーズ」、面白いです。
まだご覧になってない方で、じんべいの結論に賛同してくださる方、大変オススメです!
(ダイマ
ちなみにじんべいが好きな仮面ライダー(昭平混合)は
1.初代
(偉大なるエポックメイキング、石ノ森大先生に栄光あれ)
2.V3
(再放送の雄、ゴレンジャーに並んでよく見てました)
3.ウィザード
(デザインがツボ。インフィニティの出所不明感は半端ない)
です。
数字を振りはしましたが、正直ランキングは付けがたいですね。
(「昭和」と「ブラック・RX」はそれぞれ一体の作品、平成は独立した作品群と見なすため
それでは次回がありましたら、またお会いしましょう。