第7話 共鳴――赤い輝点
「アルナブ様、ケイローンの現在位置が判明しました」
彼女は待ちわびていた報告を耳にしても、眉ひとつ動かさなかった。
「では、ヒドラ様の船団は通常空間へ離脱したということか?」
「それがどうも……そうではないようなのです」
航法席の男はどう説明すればと困惑の表情である。
「そうではないとはどうことか? ではなぜ超光速航行中であろうヒドラ様の戦団が補足できたのいうのだ。説明せよ」
「只今、全天宇宙図にケイローンの現在位置らしきものを表示いたします」
不確実な報告による叱声を怖れてなのか、男はいっこう要領をえないままだった。
だけならず、航法士はことごとに機関席にいる男の顔色を伺っている。
「アルナブ様、小生がご説明申し上げます」
「よろしい、許可するぞ、機関士」
いいながら、彼女は全天宇宙図に瞬きだした、一つの赤い輝点に視線をすえた。
「ヒドラ様の戦団の航路目標補足を狂わせている時空振のことでございますが、どうやらそれは、超光速航行システムのコア部分と、時空振の共鳴によるものが原因とほぼ断定できるのです。ゆえに――」
アルナブは男の声をさえぎって、
「その共鳴がもっとも強く起こっている地点を宇宙図に表示した。そういうことだな」
といった。
「ご明察のとおりでございます」
アルナブは部下に対して、あまり声を荒げるようなことはなかった。むしろ、部下のいわんとしていることを先読みしてみせることで、信頼や恐怖を呼びおこし、統率力を発揮するタイプだった。
艦橋に静寂がおとずれた。彼女は腕をくみ眼を閉じて、沈思黙考していた。
「可能性は低いといえる。時空振に共鳴するものは宇宙には無数に存在するとは考えなかったのか?」
「…………」
「よくあること。探し物をしているときは、そのことしか見ようとしない。たしか……とか、たぶんとか、おそらくとか、あげくのはてには思い込みだ。その方たちは、いつまでそうした感覚でいる気なのか……」
「申し訳ありません」
「しかしものは考えよう。あの赤い輝点が超次元に何かを捉えたのであるとしたら、われわれは超光速航行中であっても時空振を利用して、相互に位置を知りえる方途を手にできるとはいえるな。たとえ無駄足ではあっても価値はあるというところか。ともかく、現状すべてにおいて可能性は低いが、引き続き監視しつつ、戦団の進路を輝点へと向けよ」
「御意のままに!」
航法士や機関士や艦橋でやりとりを聞いていた者たちが、アルナブの論理的な言葉に納得し、信頼心と忠誠心虚しからずの念を抱いたことは、彼らの顔を見ればわかることだった。彼女からすれば、不用意な期待に胸躍らせて蹉跌をきたすことを、嫌っているだけだったのだが。
ともあれ、<ウェルキエル>は赤い輝点に向けて舵をきったのだ。