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レジェンドロワイヤル

 空津そらつ栄治えいじが【レジェンドロワイヤル】に出合ったのは、小学四年生の時だった。


 場所はクラスメイトの板村いたむら蒔菜まきなの家。


「れ、れじぇ、何だって?」

「【レジェンドロワイヤル】だよ。レ・ジェ・ン・ド・ロ・ワ・イ・ヤ・ル。略してレジェロワ!」


 蒔菜はテンション高めで、1枚のカードを掲げる。そこに描かれていたのは、青いワンピースに白いエプロンを着た金髪の少女……に擬人化した鳥。名前を【雛鳥アリス】。由来はルイス・キャロルの代表作であろう。心なし、カードの中の少女は蒔菜に似ているような気がする。


「ふふふ。おこづかいを使い果たして、アイスを買うお金もないZE!」

「何でドヤ顔?」

「まあ、おかげでこんなにあるんだけどね」


 蒔菜の言う通り、この部屋にあるカードは尋常でない量だ。今は部屋にぶちまけられているが、収容しようと思えば大きめのダンボールが3つは必要だ。マニアの大人買いも顔負けだ。小学生の所得できる物量を遥かに超えている。


「いらないカードもかなりあるから、栄治もデッキ作って一緒にやろうよ」


 蒔菜はにーと笑った。


 艶のある髪に日本人離れした白い肌。底抜けに陽気でいて、どこか神秘的な雰囲気を放つ。クラスどころか学校でも一際垢抜けている美少女。それが栄治にとっての板村蒔菜だった。一年生の頃から話は聞いていたし、姿も何度も見たが、同じクラスになったのはこの四月からだった。同じ班になった縁で親しくなり、こうして家に上がる仲になった訳だ。


 そして、現在、栄治は蒔菜にあるカードゲームに勧誘されていた。


「我が家には、この『レジェンドロワイヤルボードNEO』があるから、デジタルな大戦ができるんだ」

「あ、ずっと変わったビリヤード台だと思ってたよ、それ」


 もしくは、妙な装飾のしてあるカジノの台だと思っていた。普通の中学生の部屋にそんんなものはないだろうが、あの板村広樹なら持っていそうな気がしたのだ。


「お父さんがレジェロワの会社の偉い人なんだって。その縁でもらったらしいよ」

「へえ」


 栄治としては、友達の父親の伝手で手に入るものなのかと不思議には思ったが、難しいことは考えないことにした。


「このゲームは簡単に言えば、《モンスター》で《ライフ》を攻撃して、相手の《ライフ》を0にした方が勝ちってゲームだね」


 蒔菜は近くにあったダンボールの一つを開けて、カードを数枚取り、栄治に見せた。


「好きな奴選んで!」

「いや、好きな奴も何もゲームのやり方もよく分かってないんだから、イラストで選ぶしかないんだけど……ん?」


 ふと、栄治の目にあるカードが止まった。そこには赤い人型が描かれていた。それを手にもって、テキストの名前欄を読み上げる。


「【スターレッド】?」


 直訳で『星の赤』だ。この場合は、『赤い星』と言うべきだろうか。名前の他には、「コスト」や「種族」、「PW」といった項目がある。


「《戦士》の特徴はコンボ特化な所だね。似たような名前のカードとのコンボがやりやすいんだ」

「せ、戦士? こんぼ?」

「んー、その辺りの単語の説明もしながらデッキを作ろうか」

「……よし、やるからには勝てるやつを作るぞ」


 こうして、板村蒔菜指導の下、空津栄治は「レジェンドロワイヤル」を始めることになった。この瞬間より、自分の運命が大きく変わったとも気付かすに。


 そして、一時間後、空津栄治のデッキは完成した。


「じゃあ、早速やってみよう!」

「え? いきなり?」

「だって、やらないと覚えられないじゃん。ルールブックを読むよりも、実際にやって見た方がわかりやすいからさ」


 蒔菜の笑顔に対して、否とは言えない栄治であった。



「じゃあ、私のターンね」


 ゲームはお手本を見せるという意味でも蒔菜の先攻で始まった。


「最初、各プレイヤーは5枚の手札と3つのエナジーがあるんだ。そして各ターンの始めに、エナジーが1つ増えて、デッキから1枚引くんだ。先攻の第1ターンにはエナジーは増えず、ドローだけだけど」


 そう言って、デッキの一番上からカードを1枚引く蒔菜。


「ちなみに、エナジーが増えることを『チャージ』、デッキからカードを引くことを『ドロー』と呼ぶよ」

「お、覚えること多いな」

「それからターンの開始を『スタンドステップ』、エナジーが増えるタイミングを『チャージステップ』、ドローするタイミングを『ドローステップ』と呼ぶんだ。これも覚えておくように」


 やっぱりルールブックを読む必要があると考える栄治。1度にそれだけの単語は覚えられない。


「そして、これから行うのは『メインステップ』だね。このゲームの主役ともいえる《モンスター》の召喚もこのタイミングで行うことができるよ。カードの名前の下にある「コスト」って所にある数字と同じ数だけのコストを払うことで、そのカードを使うことが出来るんだ。モンスターの場合は『召喚』だね」


 蒔菜はそう言いつつ、手札からカードを1枚引いた。


「私は手札から【ワンダーラビット】を召喚」


【ワンダーラビット】

「コスト」3「種族」《幻獣》「PW」1000

「効果」このモンスターの破壊時、デッキからキャッスル1枚を手札に加える。


 蒔菜がボードの上にカードを配置すると、電子音とともに装置が動き出した。やがて装置から映し出したのは、ウサギだ。しかも、ただのウサギではない。二足歩行をしている上、チョッキを着ている。


 栄治はその姿に心当たりがあった。『不思議の国のアリス』の冒頭に登場する、アリスを不思議な国に案内するウサギだ。


「1度使ったエナジーは次の自分のターンにまた使えるようになるよ。それで、先攻は攻撃できないんだよね。エナジーも使いきったし、ターンエンド」


 蒔菜エナジー3 手札5 トリガー0 ライフ5 フィールド【ワンダーラビット】


「そして、俺のターンになるのか」


 栄治 エナジー 3→4


「うわ、なんか増えた」

「それがさっき言った、エナジーが増えるってこと。後攻の1ターンからある『エナジーステップ』だね。次からは私のターンでもあるよ。で、ドローステップになるね」


 栄治 手札 5→6


「そしてメインだよ。エナジーは4つ。つまり、コスト4以下のカードを使用できるからやってみて」

「えっと、じゃあ【スターレッド】を召喚」


【スターレッド】

「コスト」3「種族」《戦士》「PW」1000+

「効果」自分のバトルステップ時、このモンスターのPWは+1000される。


 栄治が選んだのは、甲冑の騎士。赤を基調とした甲冑には、所々に星の装飾が施されている。手には一本の剣。


「えーと、これでどうしたらいいの?」

「後攻の1ターン目からは『バトルステップ』があるよ。でも、この状況だと『ライフを攻撃する』か、『何もせずターンエンド』の二択だね。ちなみに、攻撃または防御をしたモンスターは『スリープ状態』になるからね。スリープ状態のモンスターは攻撃も防御もできない上に、相手のモンスターに攻撃されちゃうから気を付けてね。ついでに言うと、攻撃または防御できる状態を『スタンド状態』と呼ぶよ」


 蒔菜は神妙な顔で、自分と栄治のモンスターを指差す。そこには「PW」が書かれていた。


「それで、私の【ワンダーラビット】と【スターレッド】のPWは同じだけど、スターレッドは攻撃時にPWが追加されるから、バトルすれば勝てるよ」

「ちなみに、同じPWのモンスター同士がバトルするとどうなるんだ?」

「相打ち、つまり両方とも破壊されるね」


 つまり、現在フィールドにあるモンスター同士が戦った場合、栄治の方から仕掛ければウサギのみが破壊されるが、蒔菜から攻撃すると二体が破壊されるということになる。


 だが、ルールも詳しく把握していない内から攻撃するのは浅はかではないだろうか。いや、むしろ慣れていないからこそ攻撃するべきだ。そう判断した栄治は「あ、アタックステップ!」と宣言した。


「【スターレッド】で攻撃」

「じゃあ、【ワンダーラビット】で防御」


 星の剣士と白ウサギが激突するが、ウサギの方があっさりと切り捨てられた。この辺りの演出もよく出来ている。この『レジェンドロワイヤルボードNEO』とやらを作った人物は相当気合いを入れて製作したのだろう。


 自分のモンスターが破壊されたにも関わらず、蒔菜はニコッと笑った。


「【ワンダーラビット】の破壊時効果、デッキからキャッスルを1枚手に加えるね」

「きゃっする?」


 自分のデッキからお手当てのカードを探しながら、蒔菜は答えた。


「《キャッスル》はカードのカテゴリーの一つだよ。1度発動すれば破壊されるまで場に残る。だけど、モンスターみたいに攻撃や防御が出来る訳じゃない。あくまで、モンスターを助けるカードの1つだね」

「へえ」


 ルールを学習し覚える栄治を尻目に、蒔菜は自分のデッキを見て、手札に加えるキャッスルを選択していた。


「うん。決めた。私は【不思議の国】を手札に加えるよ」

「……それで?」

「まだ栄治のターンなんだけど。栄治がターンエンドしてくれないと、私も何も出来ないんだけど」

「あ、ごめん。ターンエンド」


 栄治 エナジー4 手札5 ライフ5 トリガー0 フィールド【スターレッド】 


 ターン終了を宣言しながら、栄治は蒔菜のデッキのテーマが『不思議の国のアリス』であることが何となく理解した。


「私のターン」


 スタートステップによりターンが開始される。次に、チャージステップで自分のエナジーが一つ追加される。そして、ドローステップによって手札が増える。


 蒔菜 エナジー3→4 手札5→6


「それから、さっきのターンに使ったエナジーがまた使えるようになるんだよ。今はいないけど、スリープ状態のモンスターもスタンド状態に戻るんだ。このタイミングを『スタンドステップ』と呼ぶよ」


 そして、蒔菜の二度目のメインステップとなる。


「私は手札から、【雛鳥アリス】を召喚するね」


【雛鳥アリス】

「コスト」3「種族」《怪鳥》「PW」1000

「効果」①このモンスターの破壊時、手札からコスト5以下のキャッスル1枚を特殊構築する。


 立体映像から現れたのは、金色の羽を持つ碧眼の鳥人少女。青いワンピースに白いエプロンドレスと、名前から連想しやすい格好をしている。


 こうなると確定的だ。蒔菜のデッキはかの童話がモチーフとなっているカードが多いようだ。


「次に《トリガー》をセット」


 蒔菜は手札から1枚を、裏向きのままフィールドの隅に置いた。


「と、トリガー?」

「カードの中には、《トリガー》といって、トリガーゾーンにセットした状態で条件を満たすと、コストを支払わずに発動できるものがあるの」


 蒔菜は自分から見てゲーム盤の一番手前のゾーンをなぞる。


「トリガーは1ターンに1枚だけセットできるんだ。そして、最大セット数は3枚まで」


 このトリガーの使い方1つで盤面は大きく変わる。トリガーが1枚しかない状況まで追い詰められた状態からの逆転劇という奴を、蒔菜は何度も見てきた。ほとんど兄やその知り合いなのだが。


「バトルテップ。あ、ちなみに、モンスターが攻撃できるのは原則的に2種類あってね。一つは相手のライフ。これはさっき、栄治がやったよね。で、もう一つがスリープ状態のモンスターね」


 蒔菜はそう言うと、赤き星の戦士を指差した。


「という訳で、【雛鳥アリス】で【スターレッド】を攻撃するよ!」


 少女が赤き星の戦士に体当たりを行う。こうして立体映像で見ると、コスプレした男性が少女を襲って返り討ちにされているようにも見えるから不思議だ。製作側の悪意を感じる。しかも、PWが同じなので相打ちだ。そのしょっぱさに、星の戦士のイメージが色々とひどいことになりそうな栄治であった。


 しかし、それは栄治の問題であって、蒔菜は全く気にしている様子もない。それどころか、さっさとゲームを進めた。


「【雛鳥アリス】の効果発動。手札から、【不思議の国】を特殊構築するね」


【不思議の国】

「コスト」4「種族」キャッスル

「効果」①自分のモンスターを召喚するコストは-1される(ただし1よりは少なくならない)


 展開されたのは、赤と白に染められた遊戯盤。塔のようにそびえるのは、キングやクイーンのようなチェスの駒だ。


「特殊構築?」

「そう。普通に《キャッスル》を発動することを、『構築』って呼ぶんだけど、『コストを支払わずに○○する』ことを『特殊○○』って呼ぶんだ。で、コストなしの構築だから、『特殊構築』ね」


 モンスターの召喚ならば特殊召喚となる。まだ登場していないサポートカードならば特殊発動、ウェポンならば特殊装備となる。


「このキャッスルがある間、本来のコストより私のモンスターは一つ安くなるのだ」

「ようは、蒔菜がコスト3のモンスターを召喚しようとしたら、エナジーは2つでいいってことか?」

「そういうこと。話が早くて助かるよ」


 それを聞いた栄治は微妙にやり辛くなりそうだと思ったが、実際は微妙にどころの話ではない。コスト1つの変化で、カードゲームというやつはプレイに大きな影響が出るのだ。


「ターンエンド」


 だが、蒔菜は特にそのことには触れず、ターンを終了してしまった。面倒だと思ったのか、悪意があったのか、はたまた栄治自身に考えるようにさせているのかは定かではない。


 蒔菜 エナジー4 手札4 ライフ5 トリガー1 フィールド【不思議の国】


「俺のターン」


 栄治 エナジー 4→5 手札 5→6


「【スターブルー】を召喚」


【スターブルー】

「コスト」3「種族」《戦士》「PW」1000+

「効果」①相手のバトルテップ時、このモンスターのPWは+1000される。


 先程とはまた別の星の戦士が登場した。今度は青を基調としている。赤の戦士が剣を持ってたのに対して、こちらは盾を持っている。


「【スターブルー】で攻撃!」

「ここでトリガーを発動。サポートカード【カウンターファイア】!」


【カウンターファイア】

「コスト」3「種族」サポート 

「効果」①トリガー(相手モンスターの攻撃宣言)。②相手のPW1000以下のモンスター1体を破壊する。


「【スターブルー】を破壊するよ」


 事が思ったようにならず、舌打ちしたくなる栄治だが、他に出来ることもない。


「ダメじゃん、栄治。防御用の効果を持っているモンスターで攻撃したら」

「……ターンエンド」


 栄治 エナジー5 手札5 ライフ5 トリガー0 フィールド0


「私のターン」


 蒔菜 エナジー4→5 手札3→4


「うっしっしっし」

「どうかしたか?」

「いいカードを、いいタイミングで引けたなあと思って。栄治、早速だけど私の切り札を見せてあげるよ」


 ここに来て、蒔菜が一層性格悪そうに笑んだ。


「――虚像を現実に、夢想を真理に。無より這い出ろ、【ジャバウォック】!」


【ジャバウォック】

「コスト」6「属性」《幻獣》「PW」3000

「効果」①このモンスターの攻撃時、相手の手札1枚を見ずに選んで墓地に送る。


 ルイス・キャロルの小説に登場する正体不明の怪物、ジャバウォック。このカードゲームでも、なんと分類して良いか分からない『怪物』の姿で再現されていた。強いて言うなら、毛むくじゃらのミノタウロスといった風貌か。


「ちなみに、今の台詞は?」

「うん。口上だね。召喚の口上。切り札のモンスターを召喚する時、大抵の人は口上を述べて召喚するんだ」


 今の栄治には、まだ切り札と呼べるようなカードはない。元々、蒔菜や彼女の兄の使っていないカードだ。そのようなカードがないことは当然のことだが。


 しかし、思ったよりも嵌まってしまいそうだ。そうなると、欲しくなってしまう。蒔菜の出した怪物のような切り札が。


「トリガーをセットして、バトルステップにいくね?」


 蒔菜の言葉で、栄治は想像を打ち止めにした。とりあえず、まずは戦い方を覚えなくてはならない。切り札云々の話はまた後だ。


「行って、【ジャバウォック】。その時に効果を発動するね! 手札を1枚破棄!」

「うげ」

「更に、ライフももらうよ!」

「うげげ」


 栄治 手札5→4 ライフ5→4 エナジー5→6


「ライフが一つ減ると、エナジーが一つ増えるよ。だから、あえてノーガード戦法でエナジーを増やそうとする人も多いね。私のお兄ちゃんがそのタイプだし。私はあんまりやらないけど」

「何で?」

「だって、ライフが零になると負けるんだよ? だったら、確実に守っていく方が安全じゃん」


 そうは言うが、蒔菜はトリガーを仕掛けているとはいえ、キャッスルを発動するためとはいえ、モンスターを零にした。どうもあのキャッスルは彼女の戦い方の鍵らしい。あるいは、ただ好きだから構築を優先しただけなのか。


「ターンエンド」


 蒔菜 エナジー5 手札2 ライフ5 トリガー1 フィールド【ジャバウォック】、【不思議の国】


 案外、ただ情緒不安定なだけかもしれないと若干失礼なことを考えながら、栄治は自分のターンに入った。


「俺のターン」


 栄治 エナジー6→7 手札4→5


 手札に『トリガー』を持つカードが来たので、それをやや躊躇いながらセットする。躊躇っているのは、このタイミングでセットしていいのかどうか分からないからだ。ただ、対戦している蒔菜に尋ねる訳にもいかない。他にトリガー能力を持つカードもないので、ここはセットしておくことにした。


「トリガーをセットして……【スターグリーン】を召喚」


【スターグリーン】

「コスト」5「種族」戦士「PW」1000

「効果」①このモンスターの破壊時、デッキからPW1000以下の【スター】と名前にあるモンスター1体を特殊召喚できる。その後、デッキをシャッフルする。


 今度の戦士は緑の星の戦士。赤や青に比べると、姿は甲冑というより現代的な迷惑服に近く、大きなゴーグルが特徴的だ。


「ここはライフだな。【スターグリーン】でライフを攻撃!」

「甘いよ。トリガー発動、二枚目の【カウンターファイア】! 【スターグリーン】を撃破!」


 勢いよく星の戦士を撃破した蒔菜だが、彼女はあることを見落としていた。


「だけど、【スターグリーン】の効果を発動する。デッキから二体目の【スターグリーン】を特殊召喚っと」

「あ」


 緑の星の戦士にはデッキから仲間を呼ぶ能力がある。それも破壊されることを条件としているため、先程の【カウンターファイア】は無駄撃ちに等しい。


「そのまま【スターグリーン】で攻撃!」


 蒔菜 ライフ5→4 エナジー5→6


「むう。よくもやったなー!」

「いや、こういうゲームなんでしょ? つうか、俺もさっきやられたんだけど……」

「問答無用! 倍にして返してやる!」


 横暴だ。


「ま、まあ、ターンエンド」


 栄治 エナジー7 手札3 ライフ4 トリガー1 フィールド【スターグリーン】


「私のターン!」


 蒔菜 エナジー6→7 手札2→3


「私は二枚目の【不思議の国】を発動!」

「え、キャッスルって何枚も発動できるの?」

「ううん。一人3枚まで。トリガーも3枚までだけど、キャッスルはコストが払える限りは1ターンで同時に仕掛けていいんだよ」


 現在、蒔菜のフィールドには【不思議の国】が2枚ある。これによって、蒔菜のモンスターのコストは2つ軽減される。


「そして、私は【トランプ兵士】を召喚!」


【トランプ兵士】

「コスト」4「種族」《精霊》「PW」2000

「効果」×


 出現したのは、その名の通り、トランプの兵隊。ちなみに、カードの柄はハートのエースだった。クラブやスペードもあるのだろうかと、栄治はどうでもいいことを考えていた。


 本来ならば、コスト5のキャッスルを構築した蒔菜に、コスト4の【トランプ兵士】を召喚するエナジーはない。だが、【不思議の国】2枚の恩恵により、コスト2となっているため、召喚できたのだ。


「バトルステップ! 【トランプ兵士】で【スターグリーン】を攻撃!」

「破壊されるけど、効果によって三体目の【スターグリーン】を特殊召喚」

「まだまだ! 【ジャバウォック】で【スターグリーン】を攻撃だよ! 更に、手札を1枚破棄してね!」


 手札 3→2


「くっ。デッキにもう【スターグリーン】はないから……【スターイエロー】を特殊召喚」


【スターイエロー】

「コスト」3「種族」戦士「PW」1000

「効果」①このモンスターの召喚時・特殊召喚時、墓地の【スター】と名のあるモンスター1体を手札に戻す。


 今度は、黄色い星の戦士。これまでの三体と比べると、シャープな身体をしている。手には縄のような鞭のような武器を持っている。


「そして、【スターイエロー】の効果で、墓地の【スターレッド】を手札に戻す」


 黄の星の戦士は手に持っている武器を振るって、墓地に送られた仲間を連れ戻す。


 栄治 手札2→3


「ま、私はターンエンドだよ」


 蒔菜 エナジー7 手札1 ライフ4 トリガー0 フィールド【ジャバウォック】、【トランプ兵士】、【不思議の国】×2


「俺のターン」


 栄治 エナジー7→8 手札3→4


「ここはこれだな」

「ん?」

「サポートカード、【城崩し】を発動」


【城崩し】

「コスト」2「種族」サポート 

「効果」①相手の《キャッスル》1枚を破壊する。


「【不思議の国】を破壊させてもらう」

「そんな!」


 お気に入りのキャッスルが破壊されたことで大きく動揺する蒔菜。


「そして、【スターブラック】を召喚」


【スターブラック】

「コスト」5「種族」《戦士》「PW」2500

「効果」×


 今度の星の戦士は、黒を基調としている。だが、これまでの4体よりも巨大で、甲冑もより重厚なものとなっている。


「バトルステップ。【スターブラック】で【トランプ兵士】を攻撃して、【スターイエロー】でライフを攻撃する」


 蒔菜 ライフ4→3 エナジー7→8


「ああ、栄治風情に2つもライフ取られた!」

「さりげにひどいよ、蒔菜」


 風情って。家に招いたクラスメイト相手に風情って。


「もう許さないもんね! 素人だからって手加減してあげていたのに、付け上がるなんて!」

「うわあ、そこまで言う……?」

「で、どうするの! まだなにかあるの!? それともターンエンド!?」

「た、ターンエンドでお願いします」


 どうせこれ以上出来ることもなかったが、あってもそう言うしかない栄治であった。どうやら、蒔菜はよほど負けたくなかったらしい。それとも、初プレイの自分に勝たれるのがそれほど嫌なのか。どちらにしろ、初心者にわざと負けてあげるだけの器量はないようだが。


 栄治 エナジー8 手札2 ライフ4 トリガー1 フィールド【スターイエロー】、【スターブラック】


「私のターン!」


 蒔菜 エナジー8→9 手札1→2


(それにしても気になるのは、あのトリガー。ずっと発動してない。モンスターを破壊するのも破壊されるのもやったのに。条件を満たしていないなら、ライフ減少? まあ、問題ないか)


 そう判断した蒔菜は行動を起こすことにした。


「私は【ワンダーラビット】と【トランプ兵士】を召喚!」


 どちらも1度は召喚したことのあるカードだ。これで蒔菜の手札は零。しかし、他に出来る策もない。


「じゃあ、いくよ! アタックステップ! 【ジャバウォック】で【スターブラック】を攻撃! 手札を破棄!」


 手札 2→1


「そして、【トランプ兵士】で【スターイエロー】を攻撃」

「…………」

「ふふふ。【ワンダーラビット】でライフを攻撃するよ!」


 栄治 ライフ4→3 エナジー8→9


「この瞬間、トリガーを発動する。【リベンジ・ドロー】!」


【リベンジ・ドロー】

「コスト」4「種族」サポート 

「効果」①トリガー(自分のライフが3以下となる)。②このターン中、減少したライフ1つにつき2枚ドローする。③このターン中、破壊された自分のモンスター1体につき1枚ドローする。


 このターン、栄治は2体のモンスターを破壊され、1つのライフを砕かれた。つまり、②と③の両方の効果が発動される。


「よって4枚ドロー」


 栄治 手札1→5


「なんだ。何を仕掛けているのかと思ったら、ドロー系か」

「……余裕だな」

「実際、余裕だもん。ターンエンド」


 蒔菜 エナジー9 手札0 ライフ3 トリガー0 フィールド【ジャバウォック】、【トランプ兵士】、【ワンダーラビット】、【不思議の国】


 余裕綽綽といった態度の蒔菜。確かに、モンスターが零である彼の方がピンチであることに変わりはない。


「俺のターン」


 栄治 エナジー9→10 手札4→5


「俺は二枚目の【城崩し】を発動して、【不思議の国】を破壊する」

「ふ、ふーんだ。悪足掻きだね」

「そして、俺は【流星群】を発動!」


【流星群】

「コスト」6「種族」サポート 

「効果」①トリガー(自分のモンスターがいない状態での、ライフの減少)。②墓地のコスト3以下の【スター】と名にあるモンスターを、相手フィールドのモンスターと同じ数だけ特殊召喚する。この効果で召喚されたモンスターは、効果が無効化され、エンドステップに破壊される。③このカードを発動したターン、自分は召喚を行えない。


「この効果によって、墓地の【スターレッド】、【スターブルー】、【スターイエロー】を特殊召喚!」

「何ですと!」


 ちなみに、蒔菜が驚いたのは、モンスターが一気に三体召喚されたからではない。栄治が折角のトリガーつきのサポートをコストを払って、通常に発動したことだ。初心者はコストをけちってよく考えずにトリガーをセットする傾向にあるのだが。


「で、でも、その3体じゃ私の【ジャバウォック】は破壊できないもんね!」


 蒔菜の言う通り、【ジャバウォック】のPWは3000で、星の戦士達の攻撃力は1000だ。【スターレッド】の攻撃力は効果によって上昇するが、それでも2000である。【ジャバウォック】には及ばない。もっとも、【流星群】で召喚されたモンスターの効果は無効化されるので、【スターレッド】も1000なのだが。


 どちらにせよ、今の栄治には【ジャバウォック】は倒せない。


「ああ、うん。だから、蒔菜を倒させてもらうよ」

「え?」


 ポカンとする蒔菜を無視して、栄治はバトルスキップに移行する。


「三体でライフを攻撃!」

「あ……」


 栄治には攻撃可能な三体のモンスターがいる。自分にも三体のモンスターがいるが、全て行動不能だ。トリガーも手札もない。そして、ライフは三つだけ。これが意味することとは――


 蒔菜 ライフ3→0


 蒔菜の敗北だった。



「なし! 今のなし! もう一回!」

「えー……」


 引きつつも、頬をリスかハムスターのように膨らませる蒔菜を可愛いと思う栄治。少し煽ってもうちょっと怒らせてみようかという悪戯心さえ生まれていた。


「というか、あんなタイミングで【流星群】を引くなんてズルい! しかも、私の【不思議の国】を2枚も破壊するなんてひどい! おまけに、【ジャバウォック】を無視するなんて何様よ!」


 一つ目はともかく、二つ目と三つ目に関しては文句を言われる筋合いはないのだが。ああしなければ勝てなかったのだから。


「負けは負けだぞ、蒔菜」


 突然の声に栄治と蒔菜が振り向くと、部屋の出入り口に、二人より年上の少年が微笑みながら立っていた。近所の中学生の制服を着ているので、ほぼ間違いなく中学生だろう。


「お、お兄ちゃん」


 蒔菜が「お兄ちゃん」と呼ぶということは、この人が、あの板村いたむら広樹ひろきであると、栄治は判断した。実際、蒔菜によく似ていた。


 少年は微笑んだまま、蒔菜に告げる。


「というか、今のはお前が悪いよ。【流星群】の存在はお前だって知っていたはずだ。そして、使用するのにエナジーは充分。お前がバカにした【リベンジ・ドロー】で手札に来た可能性はかなり高かったはずだ。あそこは深追いせず、次のターンで一斉にライフを撃てば良かったんだ。【ワンダーラビット】は壁として残しておくんだったな」


 どうやら、かなり前から見ていたようだ。


「熱くなると攻撃一色になるのはお前の悪い癖だぞ。お前のデッキは、基本的に相手をじわじわ痛めつける持久戦型の構造になっているんだから」

「お兄ちゃん、それ褒めている? バカにしている?」

「指摘しているだけだ」


 素っ気なく言うと、蒔菜の兄は栄治に視線を移した。どこか超然とした瞳が、栄治を捉える。栄治は動けないでいた。生まれて初めて味わうような、奇妙な違和感に晒されているような気がしたのだ。


 まるで、心の中を見られているような、奇妙な感覚。


「俺は板村広樹だ」

「空津栄治です」


 名乗られたので、反射的に名乗り返した。もっとも、向こうはどうか知らないが、栄治は板村広樹の名前を知っていたのだが。


「あ、すいません。勝手にカード使っちゃって……」

「いや、レジェロワをやる人間が増えることは俺にとっても嬉しいことだからな。いいよ、やる。大切に使ってやってくれ。【スター】シリーズは俺の肌に合わないし、蒔菜の趣味にも合わないからさ。箱の中で眠るより、お前に使ってもらった方がそいつらも喜ぶ」

「はあ……」


 そいつら。


 まるでカードに命や心があるかのようにそう呼んだ。ただ、栄治はそのことには違和感を覚えなかった。むしろ、すんなり受け入れることさえ出来た。そんな違和感がない違和感を、この一時間ほどで愛着が沸いたということだと栄治は勝手に納得した。


 そんな栄治を見て、広樹は不敵な表情を浮かべる。


「どれ、今度は俺とやってみないか?」

「え、えっと」


 初対面の人間から急な誘いに戸惑う栄治だが、断る道理もなかった。何より、『あの』板村広樹からそんな誘いを受けたのだから、受けなければ損な気がした。


「是非、お願いします」

とりあえず、一話です。

今後、これを基準にして変更を繰り返してゲームを展開しようと思います。

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