コレはやっぱり欠かせない
今日も一日疲れた。
朝起きて、飯食って、会社へ行って休憩時間に一服。そしてまた仕事して終わったら一服、帰ってからも一服して寝る前にまた一服。これで朝も一服できる時間があれば文句ないのだが、あいにく朝が弱くそんな余裕はない。最近では会社でも禁煙ブームとかいうくだらない世の中のあおりを受けて喫煙者はどんどn立場を失っている。
別にタバコは犯罪ではないのになぜそんな立場を追われなければならない?
悪いのは喫煙者ではなくマナーを知らないガキであるのに俺のような常識的喫煙者が虐げられるのは納得がいかない。
納得しようがしまいが、黒といえば白も黒になるのが世の風潮だ。俺たち喫煙者の居場所はこれからさらに減っていくのだろう。
俺はたとえタバコがいまの倍の値段になったとしても、自分の家以外で吸うことができなくなってもやめることはしない、いや、できないだろう。コレは俺の生活に欠かせないものなのだから・・・。
「もう朝だよ?」
声がする。
俺の目覚ましはこんな少女の声で登録していただろうか?
「もう! 毎朝起こす身にもなってよお父さん!」
こんどはセリフが変わった。目覚まし時計にこんなセリフを登録するなんて俺はそんなに結婚生活という者に濃い尾がれていたのだろうか。というか普通に気持ち悪いだろさすがにこれは。
「きょうはいつにも増して頑固なんだから!
お母さーん? お父さんが起きないよー?」
朝に弱くて頭が回らないとはいえさすがにこれはおかしい。まだ夢の中とかじゃないだろうな?
昨日は別に酒を飲んでいたわけでもない。さすがに素面で疲れたからといって目覚ましに少女の声を仕込むなんてありえないだろう。
ならこの声は・・・誰だ?
「もう! 真里も学校あるんだからお父さんが遅刻させちゃだめでしょ!」
身体に衝撃がはしる。先ほどの少女とは違う、少し妙齢の女性の声が響くと共に視界が光に包まれる。
「寒い!」
布団をひっぺがされた俺は身を震えさせた。
「寒いじゃないでしょ! もう朝ごはんできてるわよ。早くしないと会社に遅刻するわよ?」
そうだ。会社だ。確か今日は通例会議の日だった。一応まだ出世の可能性があるいま、遅刻するわけにはいかない。
それはそれとして、だ。
「あんた誰だ?」
「あなた何言ってるの? 妻のことを忘れるなんてひどいお母さんねー」
それから俺の妻と名乗った女性に言われるがままにあれよあれよと身支度を整わされ、朝食の席につかされ、真里という少女と顔を合わせて焼きたてのパンとスクランブルエッグ、ウインナーという久しぶりのちゃんとした朝食を食べた。ちなみに味はおいしかった。
「じゃ、真里、あなた。いってらっしゃい。気を付けてね?」
「はーい。ほら、行くよお父さん。もう! きょうのお父さんぼーっとしすぎ!」
女性に見送られ、少女に腕を引っ張られ、家を出た。結局何がどうなったかはわからないまま。
わかったことはあの女性と少女は俺のことをそれぞれ夫と父親としてみていること。そして混乱のままに会社に到着したことでタバコを買い忘れたことだ。
昼休みには近くの自販機で飼わなきゃいけないのか。昨日の夜手持ちを吸い終わってしまったことが悔やまれる。
少女たちのことはあとで考えることにして、とりあえずいまはタバコが吸いたい。
会議も終えた。朝のことで多少イライラしてしまい部下に怯えられたがとりあえず昼休みだ。
俺はダッシュで会社を出る。
目的地はもちろんタバコの自販機。確か会社の裏にあったはずだ。
走り・・・こそしないができるだけ早く歩く。ここの角を曲がればそこに・・・そこに?
見当たらない。昨日までは確かにここにあったはずのタバコの自販機がない。移動されたのだろうか? いや、記憶にある自販機が置かれた場所には何の痕もない。移動ではなくもとからないということだ。
そんな馬鹿な‼
愕然としながらも俺は会社へと足を向ける。なぜ自販機が影も形もなくなったのかはわからないが、コンビニに行けばさすがにあるはずだ。しかしここからコンビニへ行って会社へ戻ると一服する時間がなくなってしまう。ならば買うのはあとにして社内での数少ない喫煙仲間にわけてもらうことにした。
俺の好きな銘柄でないのは我慢するしかない。
「は?」
「だからタバコわけてくれって。昨日で全部吸っちゃったからさ。時間ないから何本かだけでも!」
「何言ってるんだ? タ・・・その欲しいものはなんだ? さっきもすぐに外に出ていくし、今度はよくわからないものを欲しいというし。そんなにイライラすることでもあったのか? 奥さんと喧嘩でもしたのか?」
「はぁ? 俺が結婚してないのはお前も知ってるだろ? そんなことよりタバコだよ。もしかしてお前も持ってないのか?」
「何言ってるんだ? やっぱりきょう調子悪いんじゃないのか? とりあえず、そのなんとかってのは持ってない。それに俺、親父に呼ばれてるんだ」
同僚でもあり、数少ない喫煙仲間に見放されてしまってはもう昼休みにタバコを吸うことは諦めるしかない。
何故か他の喫煙仲間は見当たらないし、このままだと昼飯まで喰い損ねてしまう。
俺は妻という女性に押し付けられた弁当を広げるのだった。
「おかえりー。お父さん遅かったね。きょうは残業?」
「あ、ああ。ただいま」
「どうしたのそんなに疲れて。そんな仕事大変だったの? とりあえずいまお風呂沸かすから真里と一緒に晩御飯食べてなさいな」
「お父さんはやくー。待って丹だからね!」
ぷりぷりと怒る少女はどこかかわいらしい。
そういえばタバコを借りる時に結婚してるとか言っていたな。この少女は本当に俺の娘で、いま風呂を沸かしている女性俺の妻なのだろうか。
そういえば冷静に思い返してみればあの女性を見たことある気がする。あれはたしか・・・。
「なあ、お前母さんの名前憶えてるか?」
「なーに? もしかしてお母さんの名前忘れちゃった? じょーだんだよ、そんな変な顔しないでよ」
変な顔と言われた。忘れたというか知らないからギクリとしたのが顔にでたのだが、まだ若い少女から変な顔と言われるのはなんともショックなことだ。
「美里だよ。もう、そんなこと聞いておうしたの?」
やっぱりだ。
昔俺が付き合っていた女性に美里という女性がいた。記憶にある姿と妻という女性の姿が重なる。そして目の前で笑いながらきょう学校であった出来事を話してくる少女はどことなく俺の憶えている美里にそっくりだ。
「ねえ、お父さん聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる。ところで真里、タバコって知ってるか?」
「たばこ? なに、それ? もしかしてへんなのじゃないよね⁉」
「お風呂沸いたわよー? さっきからあんたたち何話してるの? 真里、お父さん疲れてるんだからあんまり変な事言わないようにね」
「変なこと言ってるのはお父さんの方だよ。ああ、食器はわたしが片づけるからお父さんはお風呂入っていいよー。疲れてるんでしょ?」
やっとわかった気がする。ここはきっとタバコがない世界なんじゃないだろうか。
そういえば会社へ行って帰ってくるまでタバコの吸い殻は道に一つも落ちてなかったし、普段駅で数多くいるタバコを持ったサラリーマンもいなかった。
そして何よりも俺と美里が結婚しているということがその証明だ。
昔俺が美里と別れた理由はタバコだ。美里は祖父が幼い頃タバコが原因でガンになって亡くなってから大のタバコ嫌いで、結婚まで考えていたのに俺がタバコを吸っているという理由だけで別れてしまった。あのまま付き合っていたらきっと結婚していまのような生活だったのだろう。
疑問が解決したところで、それがいいことにはならない。タバコがない世界とは何の罰ゲームだろうか。
寝て、目が覚めた時、またタバコのある世界に戻っていることを願うばかりである。
ピピピピピッ。
目覚ましの音で目が覚める。
家の中には俺一人。怒りながら俺を起こす少女も、朝食をつくってくれる女性もいない。
自販機でタバコを買い、きょうも会社へ向かった。
俺の生活はやっぱりコレが欠かせない。
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