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回想1

「おとーさーん、人がいっぱいいて何も見えないよ?」

13年前のある夏の日の夜、幼いレイズは父親と手を繋いで歩いていた。

父親のもう片方の手はリルと繋がれていた。

父親の名前はロマノフと言い、若くしてIT関連の会社の重役を務めるエリートだった。

5メートル程の幅の道は行き交う人々で埋め尽くされている。

等間隔に街灯が立てられ、人々の顔を明るく照らす。

「もうちょっと歩けば広場に着くから、それまでガマンな?」

レイズは大きく頷いた。

レイズにとって父親は偉大な存在だった。

優しくて快活で、とても賢かった。

リルがスキップのようにして飛び跳ね、ロマノフが笑った。

それだけでなんだかレイズも楽しくなって、リルの真似をしてスキップした。

数分後、ロマノフの言った通り広場に出た。

人が沢山いる円形の広場の中心には巨大なオブジェがあり、幾筋も線が走っている。

明滅するように線からエメラルドの光を発し、まるで意思があるかのようだった。

奇妙なオブジェを見上げていると、なんだか吸い込まれそうな気分になってくる。

「お父さん。この大っきいの何?」

父さんがオブジェを見上げた。

「半年前に起きた出来事を忘れないために建てられたんだよ。たくさんの人が死んじゃったから、そんな事を繰り返さないために覚えておこうってこと」

幼いレイズにはよくわからなかった。

また質問をしようと口を開いた時、どこからか音楽が流れ始めた。

荘厳な音楽が30秒程続き、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「この声ってしゅうちじさん?」

「そうだよ。州知事のペトロフさんがお話ししてるんだよ」

何度も頷いてみたものの、ペトロフさんが何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

リルは退屈だったのか駄々をこね始め、ロマノフに抱っこしてもらっているうちに寝てしまった。

20分は経っただろうか。

ペトロフさんの他に数人が話し、やっと退屈な時間が終わった。

ロマノフはこの後に何があるのかは見てからのお楽しみだと言っていたから、レイズは何をするのかわからなかった。

そもそも、この式典自体が何なのか理解していなかった。

再びペトロフさんの声がした。

ロマノフに「目を閉じて」と言われ、それに従って目を閉じた。

10秒程して目を開けると、左側にいる女の人が泣いているのが見えた。

どうして泣いてるんだろう。ペトロフさんが悲しくなることを言ったのかな。

気付けば、同じように泣いている声があちこちから聞こえる。

みんな悲しんでる。

そんなに悲しくなることを言うペトロフさんはきっと悪い人なんだ。

もう悲しまなくていいように僕がペトロフさんを懲らしめてやらなきゃ。

「お父さん。ペトロフさんを叱らなきゃ」

「ん?どうして?」

「みんなを悲しませちゃダメだよ。僕が言ってくる!」

ロマノフの手を放し、レイズはペトロフさんのいる演説台を目指して人混みの足をどけながら進んでいった。

ロマノフがレイズを呼び止めようと声をあげたが、レイズは聞かなかった。

ジャングルのように乱立する足をかき分け、演説台を目指すのは一種の冒険のように感じられた。

演説台が近付くにつれ、ペトロフさんの声が大きく聞こえてくる。

目の前に到達した時、ちょうど話を終えたペトロフさんが、締めの挨拶をしていた。

「我々は忘れてはなりません。我々が自らの手で生み出した災厄を。過ちを繰り返してはいけないのです。我々はーーー」


言葉を遮るように、銃声。

続いて、ペトロフさんの胸から無数の血飛沫が噴き出す。


後方斜め下から撃たれたペトロフさんは、演説台に倒れこむようにして崩れていく。

宙に舞った血飛沫のうち数滴がレイズの顔と服にかかった。

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