DIES
「まぁ、つまり、これが演技じゃなかったらお前らは友達を亡くしてたわけだ」
レイズとユルダは、男と一緒に第364支部にいた。
「確かにそうですけど...なんでわざわざあんな事...」
「DIESからの要請だよ」
男がタバコに火をつけながら言った。
「DIES?ますます意味わかんないんですけど。俺とレイズにだけやった事なんです?」
「あー、そうだな。【黒豹】の実力を試したかったらしい。期待の新人ってとこだろ。俺も詳しい事は知らねぇが...単なる試験って訳じゃないかもしんねぇ。ま、今回の結果次第で、お前らに入隊の意志があるかは関係無しに引き抜くつもりだったんじゃねぇの?」
「迷惑な」
ユルダが不機嫌そうに毒づく。
「しゃあねぇだろ?上からの命令なんだからよ」
ユルダを見る男からは気だるげな雰囲気が全身から出ていた。
「ちょっと言わせてもらっていいスか...」
「んぁ?何だ?」
「仕組んだのはDIESだか誰だか知らねぇが...友達死んだとか殺されたとか振り回しやがってこん畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ナイスシャウト」
レイズが親指を立てる。
「お前らうるせぇなぁ...」
「こちとら学校帰りに呼び出されて疲れきっとんじゃあ!試験⁈ドッキリ⁈DIESがナンボのもんじゃい!」
「少し落ち着け」
男は興奮し過ぎて肩で息をしているユルダに哀れみさえ感じる視線を送りつつ、タバコをくゆらせている。
「そう言えば、まだ名前聞いてないんですけど」
「んぁ?あー、そうか。言ってなかったっけ。ログナだ。ログナ・カルン。まぁ、一応はDIES第538小隊狙撃手って肩書きがあるんだけどよ」
「DIESの隊員...。狙撃手ってことはスナイパーライフル使うんです?」
「まぁ、一応な。基本は近接格闘だから銃剣ばっか使ってるけど。ポジション的に狙撃手になってるだけだよ」
そう言い、ログナは少し離れた位置にあるテーブルに歩み寄り、そこに置かれた長方形のバッグを掴んだ。
「MESの武器はニーズヘッグにしか効かないってのは知ってるよな?」
「知ってます」
通常、生物にはウェイルを貯蓄できるキャパシティがあり、それ以上は体外に放出されるようになっている。
だが、ニーズヘッグだけは例外で、キャパシティを超えてもウェイルを吸収し続けようとする。
その特性を利用した武器がMES搭載兵器だった。
高濃度に圧縮されたウェイルを纏わせて攻撃することにより、吸収し続けようとしたニーズヘッグの細胞が負荷に耐えられず崩壊する。
「前から疑問だったんですけど、討伐するだけなら別に人間じゃなくても無人機で良かったんじゃないスか?」
ユルダが納得いかないような顔でログナに問いかける。
「お前ら、ニーズヘッグの弱点知ってるか?」
レイズとユルダが揃って首を振った。
「だろうな。奴らの弱点は2箇所ある。脳と心臓だ。単純だろ?」
「まぁ、確かにそうですが...」
訝しげな表情をしているレイズに対し、ログナは特に嫌な印象は持たなかった。
都市ごとの政府により運営されるDIESはニーズヘッグに関する情報はほとんど公開していない。
各都市ごとに独立した調査機関があり、その情報を切り札にすることで外交を有利に運んで行こうと企んでいるからだ。
今のところ、実際にその情報を取引に用いた例はない。
「考えりゃわかることだ。生命活動をするための脳がやられちゃ生きていけないことくらい幼稚園児でもわかる。じゃあ心臓はどうしてだ?」
「心臓をやられても再生できればそこまで支障はないはず...。逆に、再生する器官があっても使えなければ意味がないってことですよね。だとすれば...。細胞にウェイルを供給するために血を媒介してる...ってことですか」
レイズが顎に手をあてて言い、ログナは感心したような顔で頷いた。
「そういうこった。これくらいはどの都市も当たり前に知ってることだけどな」
「つまり、急所を的確に攻撃するために近接格闘をする必要があるってことですよね?」
「さっき言ったように、スナイパーライフルみたいな武器もある。高出力で大口径なら奴らの全身を吹き飛ばせるレベルだからな。都市の近くに来た奴らを討伐するために使うから外壁に設置されてんだけどよ」
こーんなでっけぇバッテリーついててだぜ?と、両腕を広げてみせた。
「外壁...ですか...」
都市を囲むように30メートルの壁があり、その外にニーズヘッグ迎撃用に造られたもう一つの壁がある。
迎撃用の壁を外壁、その内側を内壁と呼び、外壁と内壁の間にDIESの施設が建てられている。
聞いた話では、近づいたニーズヘッグには容赦無く一斉放射が浴びせかけられ、跡形も無く消え去るそうだ。
巷ではそう噂されていた。
実際、さほど事実と違うわけでもないらしい。
「バッテリーなんてあるんスね。ウェイルを機械に貯蓄できるなんて初めて聞きましたけど」
ユルダの言ったことにレイズも賛同した。
「それがこの都市独自の技術ってことよ。他の都市にも無いわけじゃないが、格が違うらしい」
「普及させればいいじゃないですか」
「数百万で電化製品買う奴が沢山いれば売るだろうよ」
レイズとユルダな苦笑し、納得したように頷いた。
ログナが時間を確認し、バッグをテーブルに置いた。
「疲れてるみたいだし、今日はもう帰っていいぞ。また後日に話があるだろうから、それだけ承知しといてくれ」
「わかりました。で...結局、そのバッグの中身は何なんですか?」
「まぁ、また今度見してやるよ」
レイズとユルダは頷き、支部を後にした。