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犯人

ユルダは犯人の姿の異様さに一種の戦慄を感じていた。

どう考えても正常な人間の行動ではない。

体をぐねぐねと動かすようにして障害物を避け、ぶつかれば突き飛ばすようにして両手を突き出す。

フードを被っているので顔は見えないが、まともな人間ではないだろう。

そう思考しているうちに背後まで接近し、勢いを殺さずそのまま横腹を蹴り上げた。

吹き飛んだ犯人は壁に打ち付けられ、ひどく乱れた呼吸の合間に呻き声をあげている。

ユルダは少し離れて正面に立ち、警棒を使って犯人のフードをとった。


そこには、目の焦点が定まらないスーファの顔があった。

「スーファ...?おい...。どういう事だよ!」

スーファは応答せず、不規則な粗い呼吸を繰り返している。

「お前...死んだんじゃなかったのかよ⁈ミルルにケガをさせたのはお前なのか⁈」

これまでは必死に冷静さを保ってきたユルダも、何が起きているのかわからず動揺し始めた。

本当にスーファが犯人だったのか。

だが、それにしては状況がおかしい。

警察から逃げる気があるなら、わざわざ走るわけはない。

まるで、何かから錯乱状態で逃げているかのような.......。

「あ......。注射器.....?」

ユルダは、公安警察から支給された端末の内容を思い出した。

犯人はナイフとスタンガンの他に、注射器を所持していたらしい。

何故注射器を持っていたのか。その中身は何だったのか。

「スーファ...お前...」

ユルダが見下ろすスーファの顔は苦痛と恐怖に歪んでいる。

「ユル...ダ...。ミルル..を...たす..け.....て......く」

痙攣し始めたスーファが必死に伝えようとしている内容を、ユルダは理解した。

「あぁ。わかった。今レイズが向かってる。一緒に病院に行こう。...お前が犯人じゃないんだろ?」

スーファはユルダの言葉には答えず、必死に何かを伝えようとしていた。

「はな....れ...ろ...!せなか...ば...」

言い終わる前に、スーファの背中が弾け飛んだ。

ユルダは思考が停止し、見開かれたスーファの顔を凝視していた。

さらに激しく痙攣し始め、赤い泡を吹き、やがて力なく倒れた。

それを見てもなお、ユルダは何も感じない。

感じることができない。

ただ、何が起きたかは理解していた。

背中に爆弾。スーファはそう言いたかったのだろう。

通りすがりの人々の悲鳴も、どこか遠い世界の出来事のような気がした。

ユルダはただただ、目の前で死んだ友人の顔を見つめていた。






ユルダと別れてから7分後、レイズはスーファの遺体が運ばれた病院に到着していた。

スーファの遺体は既に遺体安置所にあるらしく、ミルルもそこにいるはずだ。

急いで遺体安置所に向かい、病院関係者に公安警察の身分証を見せて入れてもらった。

先にミルルが来ていたはずだが、もう既に出た後だったのか誰もいない。

事前にスーファの遺体の入った場所の番号は聞いていたため、その場所の扉を開けた。

茶髪の長い髪が目に入った。

スーファは黒髪だった。こんなに長さもない。

遺体の載せられた台を引き出すと、そこには目を閉じたミルルがいた。

胸に赤い染みが広がり、既に冷たくなり始めている。

「ミルル.....?なんで.....スーファは...」

何が起きているのか理解できない。ただ、ミルルが死んだことだけはわかった。

深い絶望と共に、犯人への際限ない怒りが込み上げる。

背後から誰かが近付く気配を察知し、振り返りざまに足を腹部に打ち込んだ。

「ひひっ。ひひひひひっ」

愉快げに笑う男は、先程の病院関係者だった。

男は一歩後退してナイフとスタンガンを構えた。

「残念だったなぁ。ヒーローさんよぉ。もう数分早ければ助けられたかもなぁ。ひひひっ」

「お前が殺したのか...?ミルルを殺したのはお前なのか‼」

既にレイズは冷静に対話できる状態ではなかった。

その様子を見て、男がよりいっそう顔を歪ませて愉快そうに笑う。

「カリカリすんなよぉ。まぁ、そうなんだけどさぁ。その子は僕が殺したよぉ。可愛い顔で泣きながら必死に抵抗しちゃってさぁ。最後には『お願いだからスーファは殺さないで‼』だってよぉ。愛ってやつかぁ?泣かせるねぇ」

ミルルの真似をするように身振り手振りを混じえて語る口調には楽しくて仕方がないといった様子が滲み出ている。

「っの野郎...‼」

「おー、怖い怖ぁーい」

普段なら明らかに挑発だとわかる発言にも反応してしまう。

「あんまり怖ぇ顔してっと...殺っちまうよ?」

瞬間、目に向かってナイフが飛んできた。

反射的に頭を横に動かして避け、その隙に突き出してきたスタンガンを男の腕を蹴り上げて回避する。

「へぇ...。反応も速いし、動きも無駄が少ないね」

男は蹴り上げられた勢いに逆らわず、体を回転させてレイズに足払いをした。

片足で体を支えていたレイズは倒れ、急いで立ち上がろうとした時に眼前にナイフが突き付けられていた。

「もう1本持ってると思わなかったか?」

男がまた笑った。だが、先程までの狂気じみた笑い方ではなく、むしろ爽やかささえ感じた。

「レイズ・ラルウェン。合格だ」

「......は?」

レイズにはこの男が何を言っているのかわからなかった。

「ミルルー。もう起きていいぞ」

「起き......る...?」

ますます訳がわからない。

「ぷはぁっ!あー、疲れたぁ〜」

ミルルが起き上がって喋りだしたのを見てレイズは完全にフリーズした。

「ぷっ、あはははは!レイズくん、顔っ!顔大変なことになってるよ!」

胸を血まみれにさせたミルルがレイズの顔を見て笑い、その様子を眺めていた男もニヤニヤと笑みを浮かべている。

「これ......ドッキリ?」

レイズの力の抜けた喋り方に、またミルルが笑った。


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