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戦闘開始

指定場所に到着してから2分後、別支部の2人がやって来た。

「あんたらがあの有名な【黒豹】か?」

近寄って来る2人のうち、陽気そうな方の男が、ズボンのポケットに手を突っ込みながら話しかけてきた。

「その呼び方はやめてくれないか」

レイズとユルダの表情が明らかに曇ったのが意外だったのか、驚いたような顔をした。

「なんでだよ?カッコいいじゃんか。【黒豹】だぜ?獲物を狩る漆黒の狩人だなんてシビれるじゃねぇか」

まだ続けようとする男の言葉を、フードを被った小柄な相方が遮った。

「スーファ。嫌がってるんだからもうやめておこうよ」

フードに隠れて顔は視認できないが、その声は明らかに女性だった。

「ん...?女?随分と珍しいな...」

ほぼ力仕事のこの仕事に女性がいるのは非常に稀だった。

この女性に男と同じだけの力があるとは思えない。つまり、それ以外の何かに長けているのだろう。

この仕事の試験に合格するためには、多岐にわたる条件を満たす必要がある。

つまり、力がないことを補うだけの何かがあるということになる。

「ごめんなさいね。スーファは思ったことを全部言っちゃうから...」

そう言ってフードをとり、ぺこりと頭を下げた。

「おぉ、可愛い」

ユルダの言葉に嬉しそうな顔をして、「あ、ほら、スーファもちゃんと謝りなさい」とスーファの袖を引っ張った。

「あー...さっきは悪かったな。さっきミルルが言った通り、なんでも口に出しちまうんだよ」

「大丈夫ですよ。こいつもそうなんで」とレイズはユルダを指差して言い、ユルダがショックそうな顔をした。

「あはは。仲いいんだね。2人共高校生なんだよね?」

ミルルと呼ばれた女性が微笑みながら首を傾げ、ユルダが惚れそうになっているのに気付いたレイズがわき腹に手刀を叩き込んだ。

「そうですよ。何で知ってるんですか?」

身悶えするユルダを無視し、レイズはミルルとの会話を続ける。

「【黒豹】の2人は高校生だって聞いてたから...。ごめんなさいね」

「いえ、事実ですし、大丈夫ですよ」

「お取り込み中悪いんだけどよ、そろそろ時間だぜ?依頼主が来てもいい頃だろうに、なんで来ねぇんだ?」

その言葉に、レイズとユルダが同時に反応した。

「やべぇ!急ぐぞ!」

突然走り出した2人に戸惑いを隠せないものの、スーファとミルルが後を追う。

約30メートル先の交差点を曲がると、高い壁に覆われた袋小路がある。

犯人達が誰にも邪魔されずに依頼主を襲えるのはこの一帯でそこしかない。

交差点を曲がると、思った通りに6人の男が依頼主を隅まで追い詰めていた。

ユルダは立ち止まり、腰の後ろにあるポーチから2枚の金属板を取り出した。

直径10センチ程度の円形をした金属板を、依頼主に最も近い2人に向かって投げた。

片方は後頭部に、もう片方は背中に当たり、突然起きた異変に6人が気付いた瞬間、音も無く接近していたレイズが近くにいた1人に警棒二本を連続で叩き込み、戦闘不能にした。

それを見て他の5人が狼狽している隙にユルダも接近し、反応の遅れた1人に警棒を振るった。

一瞬ユルダを見た他の4人の状態を視界に捉えたレイズが、最も無防備な男の腹部に蹴りを入れ、その体勢から腰を捻って反転し隣にいた男の脛を叩いた。

反応できない間に4人が攻撃され、残りの2人は体が震える程の恐怖を感じていた。

仲間を見捨てて脱兎の如く逃げ出すと、逃げ道を塞ぐようにスーファとミルルが立っていることに気がついた。

ナイフを持った男がスーファを刺そうとナイフを突き出し、スーファはその手を掴んで関節技を極めてから、一度緩めて投げ飛ばした。

それと同時に、金属バットを持った男がミルルの頭にバットを振り下ろし、ミルルはそれを横に避けた。

無理な体勢で避けたためにバランスを崩し、もう一度殴ろうと振りかぶった男から逃れられない状態だった。

ユルダは腰のポーチから金属板を取り出し、振りかぶっている男に向かって投げた。

金属板は男の鼻先を掠めていき、それに驚いた男が一瞬動きを鈍らせた。

ユルダはその隙を見逃さず、5メートルの距離を詰めて男に肉迫した。

バットが振り下ろされると同時にミルルの肩を抱いてバットの軌道状態から逸らし、代わりに自分がその位置に立った。

バットを右腕の手甲で受け、男の腕を引っ張って横を向かせ、こめかみに頭突きをした。

よろめいた隙にミルルから手を離し、足を振り上げて顎を下から蹴り上げる。

膝から崩れ落ちるのを視界の端に捉え、スーファが相手をした男が立ち上がろうとしているのをかかと落としを背中に叩き込んで黙らせた。

レイズも既に残りの2人を気絶させ、4人の手首に手錠をはめていた。




6人の強盗を3分足らずで制圧した手際の良さを、スーファとミルルは信じられないといったような目で見ていた。

6人に手錠をはめ、近くの街灯に繋げた状態にしてから、ユルダは無線で逮捕するための車両を呼んでいる。

レイズは依頼主と話をしていた。どうやらケガはしていないらしい。

「すげぇな...」

スーファの呟きにミルルも頷き、【黒豹】と呼ばれている意味を理解した。

「俺もあんだけ強くなれるかな?」

スーファがミルルに問い、ミルルは大きく頷いた。

「うん。なれるよ、きっと」

そうして、レイズ達と同い年の彼らは、もっと強くなろうと決意した。






「ガハハハハ!お手柄だったな小僧ども!」

支部に戻るなり、テイラーさんの笑い声に出迎えられた。

「いやー、今回は焦りましたよ。依頼主が指定場所に来ないんですもん」

ユルダが珍しく疲れたような顔をして、それを見たテイラーさんが一層豪快に笑った。

「今回の一件でお前達の名前はDIESにも認知されるだろうよ!」

年代物のワインをボトルから直接飲みながら、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

「お前達、あの依頼主の会社はどこか知ってるな?」

「ディグノース製薬ですよね?」

「そうだ。ディグノース製薬はDIESに資金提供を行っている大企業の一つだってこたぁ知ってたか?」

レイズとユルダは頭を振り、テイラーさんは満足そうにワインを呷った。

「まぁ何にせよ、これでお前達は更に有名人になったってわけよ!」

レイズ達は苦笑し、少し会話をしてから挨拶して支部を出た。




歩いて15分程で着く場所にある喫茶店に入り、各々好きなドリンクを注文した。

暫らくすると、スーファとミルルが店に入ってきた。

気付いたユルダが手を振り、2人が向かいの席に座った。

「待たせちゃって悪かったな」

申し訳なさそうに謝るスーファにレイズが「気にしなくて大丈夫だよ」と返し、スーファとミルルがドリンクを注文してから談笑した。

スーファ達は隣街の外れに住んでいるらしく、家が近かった。

「じゃあ、高校は第二十四都立校なのか?」とユルダが訊くと、ミルルが頷いた。

「ユルダ君達は二十三都立校?」

ミルルが訊き返し、ユルダが「そーだよー」と返した。

スルファスの内部にある学校は全て政府が創設したものであり、地域ごとに行く高校が決められている。昔は成績によって選択できたようだが、現在は強制的に学区を割り振られている。

「私達の学校はホントにつまんないんだよ。真面目な人ばっかで全然楽しくないの」

「こっちはこっちでバカばっかで大変だけどな」

ミルルとユルダが高校の話で盛り上がっている横で、スーファはレイズと話していた。

「さっきの身のこなしは独学でできるものじゃないだろう?誰に教えてもらったんだ?」

レイズはスーファの真剣な目を見て、何か明確な意図があると感じた。

「強くなってどうするんだ?」

スーファは少し躊躇い、「お前達なら信用できると思う。だから、誰にも言わないでくれ」と前置きした。

レイズは頷き、スーファが小声で話せるように顔を近付けた。

「実は...少し前からミルルが狙われてるんだ。だから、最近はいつも俺が一緒に行動してる。でも、いつ強行手段に出てもおかしくないから、一刻も早く強くなって、ミルルを守ってやりたいんだ」

口調からすると、ただのストーカーではないことは明白だった。

「わかった。俺たちに体術を教えてくれた人を紹介する。あと、そのストーカー退治を俺にも手伝わせてくれ」

「あ、あぁ...そりゃ願ってもないけど...。いいのか?」

「目の前で困ってる人を見捨てる程落ちぶれちゃいないさ」

「その話、俺も交ぜてもらえるか?」

いつの間にかレイズ達の話を聞いていたらしいユルダがそう言い、ミルルが嬉しそうな、それでいて心配そうな顔でお礼を言った。

それからは詳細を話し合い、解散になった。

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