バイト
放課後に昼間の面子で街外れの廃工場に来ていた。
「なー、ガランー。ロケット花火って言う割にただの筒しかないんだけど」
「本当にロケットの形したのが飛び出すと思ってたのか?」
「現物見たことないんだから仕方ないだろうが」
ふくれているユルダを微笑みながら見ているハイナと、それに気付いたレイズがそれぞれ人間観察している様子を、ガランは半眼で眺めていた。
「お前ら、人間見るのか花火見るのかどっちだよ」
「ユルちゃん」
「ハイナ」
「花火」
「まさか全員バラバラの回答とはな...」
危うくガランに花火を回収されそうになり、3人は必死にそれを止めた。
花火を見ている時間は夢のようだった。
様々な色彩の光を宙に描き、皆思い思いに楽しんでいた。
持って来た花火を全て使い切った後ゴミを拾い、4人はそれぞれ自宅に帰った。
レイズは1DKの自宅に帰り、初めにキッチンを覗いた。
思った通り、妹のリルが夕食を作っていた。
「ただいまリル」
「お帰りレイ兄。ご飯もうちょっと待っててね」
リルは15歳にも関わらず、料理や裁縫などの家事をしてくれる。
「あぁ。ありがとな。後で俺もなんか手伝うよ」
「ありがとう。…なんか火薬の匂いしない?」
「あー、さっきクラスの奴と花火やってきたんだよ」
「えー、花火?いいなー。私も見たかった」
「まだまだ花火余ってるらしいから、また今度頼んで来るよ」
「うん。わかった!」
レイズはリルの満面の笑みが好きだった。
リルが夕食を作っている間に風呂に入り、同時に席についた。
「「いただきます」」
2人は異国の文化を見習って毎食言うことにしていた。
「リル、今日はやけに嬉しそうだけど学校で何かあったか?」
「うん。ちょっとね」
「どんな事?」
「なんだと思う?」
「彼氏ができたとか?」
「ち、違うよ!?そんなんじゃないからね!?」
「そんなに否定しなくても…別に反対はしないぞ?」
「違うってば!!」
「悪い悪い。ちょっと悪ふざけが過ぎたな。」
「もう…。来月に参観会があるから…レイ兄来れる?」
「お、そういう事か。なんとか都合合わせて行くよ」
来月に参観会。と頭の中で繰り返した。
リルは食事が終わり、片付けまで済んでから布団を敷いて先に寝た。
その後、レイズは真っ黒の仕事着に身を包み、家を出た。
レイズはいつも、仕事場へ向かう途中はひたすら考え事をしていた。
リルの負担を少しでも減らしてやりたい。レイズの望みはそれだけだった。
死の危険を冒して高額の報酬を得るのが1番速い方法だろう。だが、死んだときにリルは身寄りがいない。
頭の中を延々と不安と妹への想いが渦巻いていた。
結局、今日も答えを出すことはできなかった。
仕事場に着き、今にも崩れそうな真っ暗のビルに入る。
迷路のように入り組んだ廊下を歩き続け、行き止まりの壁の右下にある10センチ四方のタイルを押した。
左側の壁の隠し扉のロックが外れ、中に入る。
先程までの廊下とはまるで違う道が続いている。
等間隔に明かりが灯され、突き当たりには木製の頑丈な扉がある。
扉を開くと、アルコールの匂いが全身を包んだ。
「よぉ!来たなバイト小僧!」
恰幅のいい巨漢が椅子に座ってウィスキーを飲んでいた。
公安警察第364支部。
身体能力や信頼性など、多岐にわたる条件を満たした人だけができるバイトだった。
主な依頼は治安の維持であり、犯人逮捕に協力する場合も稀ながらある。
「こんばんは。今日はテイラーさんだけですか?」
「他の奴は今頃ダーツでもやって遊んでるだろうよ!」
ガハハと大口をあげて笑うのを聞くと、隠し扉の外まで声が漏れている気がしてくる。
「おせーぞレイズ。遅刻はすんなよ?」
テイラーさんの後ろ側に、壁に寄り掛かって腕を組んでいるユルダがいた。
レイズと同じように真っ黒の服に身を包んでいる。
「妹さんのことがあるんだからちっとくらいは気にすんな!」
またしても豪快に笑うテイラーさんにお礼を言い、今日の仕事を確認しに部屋の奥のテーブルに置かれた紙束を見る。
「今日の依頼は1件だけか」
ある大企業の重役が度々襲われているらしい。
犯人は素人集団だと思われ、過去数回6人で現れては統率のとれない動きをしていたらしい。
一通り目を通し、テーブルの横にある棚に入れられている手甲を両腕に付け、一緒にしまってあった伸縮式の警棒を腰の両サイドに取り付けられたホルスターに入れた。
「まぁ、それなりの重要な役目だけどな。他の支部から2人サポーターが来るらしい」
「随分と慎重だな...書いてある内容だと強盗退治にしか思えないけど」
「ま、そこらのゴロツキが金銭目的で金持ちを襲ってるってとこだろ。一応保険としてもう一箇所雇うんじゃね?」
ユルダと依頼内容に関する意見交換を行っていると、依頼開始の鐘が鳴った。
「さて、行きますか」
ユルダが壁から離れ、肩や首を軽く回す。
「テイラーさん。行ってきます」
「おう!気張ってこいや!」
ウイスキーのグラスを持ち上げ、乾杯するように前後に振った。
レイズとユルダは小さく頷き、小走りで指定場所へ向かった。