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プロローグ

レイズ・ラルウェンは6回目のため息をついていた。

「ったく…魔力なんて授業で教えられなくても知ってるよ」

この世界に存在する全ての物質が魔力を持っているが自ら使う力は無く、7年前になってようやく科学技術の進歩によって魔力を具現化することに成功した。

魔力はウェイルと呼ばれ、今は様々な場で利用されている。

「一般常識だろ」

とはいえ単位のために授業をサボる訳にもいかず、教室で頬杖をついたまま話を聞き流していた。

「ウェイルを具現化する装置であるmagic embody system、通称MESは、治癒力の向上を目的とした新薬の開発のために作られた人工生物のニーズヘッグにヒントを得て作られました。ニーズヘッグには空気中の微生物からウェイルを吸収する能力があり、身体の再生や栄養へと変換することができます。13年前、ニーズヘッグは凶暴性、繁殖力と環境適応力の高さから全て殺処分されることが決まりましたが、暴力的動物保護団体のAPS全勢力が施設を襲撃しニーズヘッグは脱走、APSはほぼ捕食されました

その後、ニーズヘッグは世界中に広がり続け、世界人口は2年で7割、13年で4割に減少しました。まだ国として機能していた69カ国が世界に12箇所共同で壁に囲まれた都市を作り、現在に至ります」

ここまではレイズも知っていた。

授業終了のチャイムが鳴り昼休みになると、レイズは友人のユルダ・シルザと屋上に向かった。

屋上に続く階段を上がっていると、風が微かに吹き始めてレイズの顎まである金髪とユルダの短い黒髪が静かに揺らした。

「ニーズヘッグが全世界に広がったのも人間のせいなんだよな…」

さっきの授業の話を思い出したのか、ユルダが小さく呟いた。

レイズは、普段は殆どの授業を寝て過ごしているユルダが、いつになく真剣に話を聴いていた事に気付いていた。

ユルダは兄2人と両親をニーズヘッグに殺され、もう家族は1人もいなかった。

ここに通っている生徒の殆どは身内が殺されている。

レイズも例外ではなく、父親を殺されていた。

母親はその後11年間、女手一つで俺と妹のリルを育ててくれた。

そんな母親も、一昨年に脳出血で倒れ、そのまま死んでしまった。

結局、俺は両親に何一つ親孝行ができなかった。だから、せめて妹だけは幸せにしてやりたい。


物思いに耽っていると、屋上の扉の前に着いた。

建て付けの悪い扉を体重を乗せて押し、風の抵抗を押し返して開くと、友人の後姿が見えた。

後ろ向きに座っている女子の茶色の肩まである髪が風に舞っている。扉の軋む音が聞こえたのか、待ちくたびれたような顔で振り返った。

「おーす、ハイナ」とユルダが声をかける。

「遅ーい!」と、怒ったような口調で言いながら満面の笑みで迎えてくれた。

「じゃあ食おうか」とレイズが座りながら言って、昼食が始まった。

「ハイナ、今日も綺麗だね」

「おいユルダ、毎日毎日口説いてるけどさ、よく飽きないよな」

「バカだなぁお前は。人間はなんのために口があると思う?カワイイ子を口説くためだろ?」

「あー、そーですねー」

不毛な会話を赤面で眺めるハイナの様子が可笑しく、2人して声をあげて笑い、ハイナが怒る。

いつものお決まりのパターンだった。

昼食も終わり、しばらく風を全身に受けたまま3人共黙っていた。

「そう言えばレイズはDIESに入るのか?俺は入るぜ」

途端にハイナの表情が曇った。

すぐに下を向き、悟られないようにしているが、レイズはその変化を見逃さなかった。

ユルダが唐突に話し出す。

DIESは、ニーズヘッグを掃討するために結成された軍であり、【命知らずの墓場】と言われる程に危険な部隊だった。

各都市に7,8人で構成された小隊が99部隊ずつあり、日々戦闘を繰り返している。

「まだ決めてない…俺が死んだら妹は1人になっちまうし」

「あ…そうか。変な質問して悪い」

ユルダは下を向いてしまった。

「別に気にしてねぇよ。そろそろ教室に戻ろう」

重たい空気から逃げるように、レイズは屋上から立ち去った。

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