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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
三神編
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68話:PP―PP創設

 私は、八本のナイフを指の隙間に挟み、応戦態勢をとっていた。

「久しぶりね。貴方と拳を交えるのは」

「そうか。そうかも、知れんな」

仁藤と向き合った私は、昔を思い出していた。そう、《PP》が出来たときのことを。


《PP》、《Si Vis Pacem, Para Bellum》の《Pacem》(平和)と《Para Bellum》(戦に備えろ)、そして、銃を使った武装組織なので《Parabellum Bullet》(パラベラム弾)。その三つをあわせた意味として、《PP》となった。私、篠宮匡子は、その第一期メンバー。仁藤も、その第一期メンバーの一人である。本来、第一期は、仁藤の同級の歳の人が、入るものだった。しかし、私は、軍での異例の強さによって、飛び級として入った。


《PP》の創設目的。それは、《焉》を殺すこと。正確には《死の結晶》という《焉》を信仰する組織の人間を殺すこと。当時、《焉》という人間は確認されていない。なのに、何故《PP》が創設されたのかは、私にも分からない。しかし、《PP》創設から数年ほどして、《焉》を名乗る男が現れたのだ。

「《焉》?それを私達で殺しに行けって事?」

私の疑問に、同僚の一人が、返してくれる。

「そういうことよ。《幹部》三人分の戦力で行けっていうお達しだから」

「私は、《幹部》じゃないんだけど……」

そう、飛び級で入った私は、年齢のせいで《幹部》昇進を許可されていなかった。なので、格闘同率一位の子や射撃二位の仁藤、狙撃三位(一位が私で二位が仁藤)の子などが《幹部》クラスになった。

「今回は、仁藤くんが来れないから、同等って言うと、篠宮ちゃんになるでしょ」

それは、そうなるのだが、仁藤が来れないというのが珍しい。あの男は、任務に忠実で、特に《幹部》クラスに対してきた依頼は、絶対にこなす。なぜなら、《幹部》クラスに来る依頼の殆どがS事件だからだ。正義感の強い、正義の塊と言っても差し支えのないぐらいの男が、諸悪の根源、悪の塊のような男を放置するはずがない。自分の手で殺しにいくだろう。

「仁藤の奴、なんかあるの?」

「それが、最近、《PP》に居る時間が少ないみたいなの。帰ってきたと思ったらすぐに居なくなるから……」

少し違和感を覚えるが、まあ、いいだろう。仕方がないので、私が行くことにする。


 山奥のある神社に、《焉》が居るという情報があった。だから、私達は、慎重にそこに向かった。だが、道中、奇襲も攻撃もなかった。これほどまでに無警戒なら、ガセネタだったのかもしれない。それでも、慎重に神社に向かった。


 音もなく、一人が倒れた。それは突然だった。死んでいる。《幹部》一人がこんなにもあっさり殺られる。相手がいかに強いかが分かる。直後、もう一人が死んだ。《幹部》クラスを簡単に殺せる人間はそうそういない。私に緊張が走る。そして、無音の中に見つけた、微小な音を拾い、来る軌道を読み、ナイフを置く。上手い具合にナイフに銃弾が当たり銃弾は、二つに割れる。そして、私の顔すれすれの所を飛んでいく。髪が少し持っていかれたが、いつものことだ。気にしていられない。


 あれ以来、攻撃が減った。稀にあるが、私を値踏みするかのような攻撃。攻撃の数は八回だったと記憶している。それらをかわしてたどり着いたのが神社。そこに居たのは、全身を黒いローブで隠した男だ。フードで顔は見えない。しかし、威圧感は半端がない。

「ここまでよく来たな」

その声は、変声機でも使っているのか、とても機械的で、無機質で、恐怖さえ感じる声。

「アンタが《焉》?」

「いかにも、俺が、《焉》だ」

その口調に違和感を覚える。しかし、それは置いておこう。男の足元には、ライフル、ドラグノフが転がっている。ドラグノフ狙撃銃、それは、ソ連が開発したセミオートマチックライフルである。装弾数は十発。二発で《幹部》二人を殺し、その後の値踏みに八発。ドラグノフの装弾数と合致する。つまりは、あの男が、こちらを狙ったということだ。ここまでは、それなりに距離がある。《PP》の狙撃のトップと同等かそれ以上の腕前といったところだろうか。しかしそれなら、他の攻撃は薄いはず。そう思い、攻撃を仕掛ける。私の放った拳を、男は、悠々と受け返す。左腕に激しい痛みが走る。これは、私の力に、自分の力を上乗せした、合気道の応用と思われる。こいつは、格闘も出来る。そう思い、腰に潜ませていた《ベレッタ》を抜く。そして、発砲。かわすことの難しい距離での発砲にもかかわらず、足を動かす気配がない。そして、男は、徐に、《ベレッタM92 Elite II》を抜く。そして、私の弾を、弾で跳ね返した。《銃弾弾き(おはじき)》。難しい銃の一つだ。あの技が使えるのは、仁藤ぐらいだ。格闘、銃撃、狙撃、どれをとっても一級品。私の考えの甘さが思い知らされる。あれほどの力、私か仁藤くらいしか持っていないと思っていた。そこで、思考が止まる。違和感の正体に気がつく。あの男の口調。格闘も銃も、狙撃すら一級。そんな男を、私は知っている。仁藤豪。私とまともに殺りあえる男。こいつが仁藤である可能性は高い。だが、私は、あえてそれを口に出さない。

「どうする?続ける?」

私の言葉に、男は、あきれを示した。

「止めておこう。いずれ、戦うことになるかも知れんからな」


 それから、数日後のことだ。仁藤が、少年に、《ベレッタ》を預けて帰ってきたのを知ったのは。私は、悟る。《死の結晶》に行ったのだと。だから、私は興味を持ったのだ。あの男が、最後に、己の分身を預けたのか。まあ、聞いても本心は教えてくれないに違いない。証拠隠滅というかもしれない。



 私は回想を終了して、仁藤に思考を傾ける。

「で、アンタが《焉》じゃあ、なかったの?」

「くくっ、俺は、二代目だよ。今の、三代目が、真の《焉》だ」

二代目。それは、あの時点で、こいつより前に《焉》が居たことになる。だが、一代目は、目立った活動は起こしていない。そこは疑問ね。その思考を中断し、ナイフを再度構える。

「じゃあ、行くわよ!」

「来い」


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