67話:武神―終焉
俺たちは、匡子先輩を置いて、通路を進んだ。すると、しばらく行った所で、大きな社の前に出た。ここが地下の社だろう。そして、社の前に立っているのは《焉》だろう。かなりの威圧感だ。黒いローブを着ている。しかし、あの、顔、どこかで見た気がする。最近、どこかで。片目を眼帯で覆っているあいつは、まさか。いや、嘘だと思いたい。しかし、間違いない。髪が伸びていたり、髭が少し生えていたりと、多々異なる点があるが、奴は、間違いない。
「佐野、苑也……」
「お兄ちゃん?!」
俺と晴香先輩の声が重なる。《焉》は、こちらを見る。
「晴香。それと、お前は」
どうやら、名前を知っているから知り合いではないかと考えたらしい。しかし、違う。だが、あいつは、《銀狼》にナイフで刺されたはず。生きているのは確認が取れていたが、ここまで、普通に動ける状態だったとは。
「俺は、漣、いや、東雲佳美弥だ」
俺は、名乗る。すると、苑也の顔に少し驚きが走る。
「そうか、お前が、あの」
そこで、間を置き、そのまま話す。
「あの、東雲か」
どの東雲かは分からない。しかし、《緋王》であれ、《始祖》であれ、《武神》であれ、関係のないことだ。
「佐野苑也、いや、《焉》というべきか?」
苑也は失笑する。その場違いな笑いに、気味の悪さを覚える。
「くく……。どちらでも構わないさ。しかし、君は面白いね。それに、僕の事も知っているみたいだ」
ああ、知っている。なぜなら、晴香先輩の兄に対する感情が高まりすぎていて、無意識に、俺に流れ込んでいるからだ。こいつがどんな人間で、どんな性格なのか。まず言えるのが、《人工的終焉》を起こすとは思えない。優しさの塊のような存在。
「ああ、知っているさ。だからこそ、疑問に思っていることがある。何故《焉》になった」
先ほどから、会話の意味が分からない様子の他のメンバーを無視して会話を続ける。
「僕は、一度死んだんだ。そこで、死という名の、自身の《終焉》を体感したんだ。それで分かった。終わりの素晴らしさが」
最後の一言を告げるあの顔は、まさに、魔王とでも表現できるような禍々しいものだった。「さて、《終焉》の刻だ!」
彼が叫ぶと同時に、社が崩れる。奥から、一本の刀が。アレは、《蒼王孔雀》。神の三刀の一刀。そして、引き寄せられるように、俺の手の中にあった《琥珀白狐》と晴香先輩の抱える《緋王朱雀》が共鳴する。
――リリィイイ
刀身が振動して、奇妙な音を立てる。
――パリィン
そして、折れた。三本とも全てが、折れて、柄だけとなった。そして、破片が、塵となって、虚空に消えた。
「《終焉》よ!」
そして、苑也を包むように、黒い霧が発生する。アレが何かは分からない。琥珀が居れば答えてくれたかもしれないが、もういない。だが、俺は、負けられない。
そして、ベレッタを抜く。




