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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
学園編
6/73

4話:藍と周

 教師が教室を去り、実質解散となった教室で、藍が俺に話しかけてきた。

「凄いんだね、漣君」

何が凄いかと言うと、ヘッドホンをしていたのに、教師が来ることに気づいたことだろう。それ以外に特に思い当たらない。

「別段凄くないと思うけど」

「凄かったよ。ヘッドホンをしながら、先生が来るのが分かるなんて。耳良いんだね。」

別に、そこまで凄いわけでもない。聞き耳スキルなどと言うと、ゲームのようになってしまうが、所謂、音での判断は、仕事や戦場では、大いに役に立つ。敵の接近。敵の数の判断。敵の武器の判断。様々な場面で強いられるものだ。有視界情報があれば良いが、無視界時(暗闇や弾幕)では、見えない状況で、判断しなくてはならないのだ。だから、耳は、自然と良くなる。良くならねば、《幹部》クラスにはなれないだろう。耳以外にも、嗅覚での判断。気配の察知、など、様々な無視界時のための鍛錬はしてきた。

「お、おい。信也って、高野さんと御知り合いなのか…?」

不思議なことに、似つかわしくない言葉を使って、緊張気味に、裏声混じりで話しかけてきた賢斗。

「ん?別に、隣の部屋だし。挨拶回りしてたのは知ってんだろ」

俺と賢斗が話し始めると、藍は、俺に微笑み、

「信也さん。わたしは、あまねちゃんと帰りますのでお先に失礼します」

そういって、満面の笑みの周をつれていってしまった。

「良いよな。あの高野さんと一緒に居た娘も」

「止めといたほうが良いぞ。あれは」

それだけ言うと、俺は、帰路についた。その際に、後ろから「待てよ、あの娘と知り合いなのか」と言う賢斗の言葉を無視しながら。


 俺は、部屋に向かうと、ベッドに腰を下ろし、息をついた。知らない人間が多く居る空間では、自然と警戒してしまって、気が抜けなかった。周や藍、賢斗、それにヘッドホン少女とは、それなりに良好な関係を築けそうだが、他の人間とはどうなるのか分からない。そして、良好な関係を築けそうだが、周への警戒は怠れないし、何故だか、藍も自然に警戒してしまう。まあ、そんなことを考えていても仕方がない。とりあえず、今は、疲労の回復が先だろう。そうして、ベッドに、大の字に寝転がった。


 しかし、程なくして、ドアがノックされた。俺の半端に、睡魔に委ねられていた意識が、再び戻る。誰だろうか。物凄く眠い。一体誰だろう。眠すぎて、気配すら朧にしか拾えない。

「あの、高野ですけど、信也さん。いらっしゃいますか?」

藍…?どうやら、藍が訪ねてきたようだ。何の用だろうか。

「何か用か?」

「あっ、信也さん。少しお話がありまして」

藍が、開けたドアの隙間から、顔をのぞかせる。何か聞きたいことがあるような顔をしている。

「すみませんが、わたしの部屋まで来ていただけませんか?」


 女の子の部屋と言うのは、いつも特有の匂いがする。甘いような、そんな匂い。俺が入ったことがあるのは、咲耶の部屋か匡子先輩の部屋ぐらいのものだが、その咲耶の部屋や匡子先輩の部屋ですら、そんな匂いはしていた。まあ、最も、同時に火薬の匂いも漂っていたが……。

「あ、そこら辺に座ってくださいね」

そういわれて、床にあったクッションに座る。

「ごめんなさい。わざわざ来てもらって」

「いや、別に構わないけど。用事って?」

用事があるから来たのであって、談笑しに来たわけではないのだから、なるべく早く用件を聞きたい。

「はい、実は。そのことなんですけど、明日、あまねちゃんの誕生日なんですね。だから、誕生日プレゼントを用意したいのですけど、何を用意したら良いか、一緒に考えていただけませんか?」

誕生日プレゼント。確か、俺も周に一度誕生日プレゼントをあげたことがあった気がする。あの時あげたのは、ネックレスだった。その後で聞いたのだが、周は、ネックレスや指輪などの装飾品が、性格に似合わず好きらしい。ちなみに、好きな色は、青や黒。イヤリングは嫌い。ネックレス、ブレスレット、指輪は、簡単につけれるから好き。だが、これは、あくまで小学校の頃のデータである。今の趣味嗜好とは変わっている可能性がある。

「あまねちゃんは、結構装飾品が好きなのですが、ネックレスはつけているので、何をあげるべきか、迷っているのです」

そうか、いまだに変わらないのか。思わず、苦笑いが出かかるが、それを押さえ込み、何をあげるべきか考える。ネックレスがダメとなると、ブレスレットもしくは指輪。どちらにするか。見本かパンフレットくらいあれば良いのだが。


 そんな風に、しばらく考え込んでいたら、急に、藍が失笑しだした。

「どうしたんだ?」

「ご、ごめんなさい。あまり知らないはずのあまねちゃんのために、熱心に考えてくれているのを見ているたら、可笑しくって」

しまった。つい、真面目に考え込んでしまった。もう少し、適当に考えるべきだった。そんな後悔の念を全く分からないような、藍は、「少し、パンフレットをとってきますね」と言って、どこへ行くのか、部屋を出てしまった。まったく、俺は、何を考えているのだろうか。もう、過去の人間との関わりは絶ったはずなのに。


 しばらくして、藍は数冊のパンフレットを持ってきた。

「これを見て、考えませんか。あまねちゃんから借りてきちゃいました」

そう言って、藍は、一冊をとり、良いものがないか探し始める。俺も、一冊とって、探し始める。しばらく捲ると、あるページの、ある商品に、赤で丸がしてあった。それは、俺にも覚えがある宝石のついた、ペアの指輪。

「《紫水晶》の指輪……」

《紫水晶》は、かつて、俺がプレゼントしたネックレスについていた宝石だ。俺がプレゼントしたと言っても、金は、俺が六割、後は親だし、宝石も小さい。だから、別段、俺がきっかけではないのかも知れない。でも、俺がプレゼントした宝石を気に入ってくれているのは嬉しい。

「どうかしました?」

不意に、藍が話しかけてきた。どうもしていないのだが、なんだろうか。

「いえ、少し、笑っていたように見えたものですから。何か面白いものでも?」

「いや、別に…」

俺は、笑っていたのだろうか。そこは、疑問だが、とりあえず、良いものがないか探すことにしよう。


 しばらく、探していて、ひとつだけ、周が気に入りそうなものを見つけた。紫色の腕輪だ。これは、多分気に入るだろう。それだけの自信があった。

「良いのがありましたか?わたしの方は、全然なくて」

「これなんか、良いと思うんだけど……」

そういって、俺は、腕輪の写真を見せる。

「これは……。良いですね。これにします。ご協力ありがとうございました」

それだけ言うと、彼女は、電話を手に取ったので、俺は、そっと、部屋を去った。

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