57話:黒猫―眠りへの誘い
最近、溜息をつく事が多いなと思いながら、ノックする。
「は~い」
晴香先輩が出てくる。俺は、猫を見えるように掲げる。
「また、家に迷い込んできたんですけど」
「ま、またぁ?ごめんね。よく言い聞かせとくから」
晴香先輩は、猫を受け取ると、暫し考え事をして、俺に向かって言い出す。
「ちょっと、お茶していかない?」
俺は、晴香先輩の言葉に甘えることにした。晴香先輩の部屋は、お嬢様の部屋に似た雰囲気の部屋だった。あくまで雰囲気であって、部屋の大きさが全然違うが。俺は、椅子に腰をかけると、晴香先輩が紅茶を入れる様子を見る。その姿を見ていると、不意に眠気に襲われた。
「信也くん。信也くぅ~ん。起きて」
「ぅん?」
俺は奇妙な声を上げて、起きる。ここはどこだろう。ああ、そうだ。晴香先輩の部屋で、くつろいでいたら寝てしまったのか。
「まったく。気持ちいいからって寝ちゃダメだよ」
それを言うなら心地良いですよ、と心の中で呟きながら意識を覚醒させる。
「すみません。寝てしまったみたいで」
「ううん。構わないよ。はい、紅茶。寝てるから疲れてるのかなぁと思って、濃い目のミルクティーにしておいたよ」
こういう気遣いは、ありがたいな。そう感じながら、ミルクティーを飲む。すると、不思議なことに、眠気が再びやって来た。そして、意識が薄れていく。そして、俺の意識はもう、暗闇の中だった。
「信也くぅ~ん!いつまで寝てるの!」
俺の意識は、晴香先輩の怒声によって覚醒した。ここは、晴香先輩の部屋。どうやら、あの後、そのまま眠ってしまったようだ。
「もう、今何時だとおもってるの?」
何時だろうか。ふと時計を見上げる。時計の針は、今まさに九時を終えようとしていた。そう、もうじき十時。学園の始業時間は、八時半。完全な遅刻だ。俺は、いつの間にか掛けられていた毛布を畳みながら思考をめぐらせる。このまま、サボると言う手もある。しかし、晴香先輩がそういうことに五月蝿い人だったら、いろいろと言われて面倒だろう。とりあえず、晴香先輩の意見を聞くか。
「あの、どうします?」
俺の問いに、彼女は、にこやかに、そして清々しく言う。
「サボろっか」
俺は、晴香先輩とともに寮の屋上に来ていた。差し込む日差しがとても心地いい。いつの間にか、俺は、座っていた。頭がしっかり働かない。そして、また、意識が遠退く。眠気が襲ってきたようだ。
俺は、差し込む夕日が眩しくて目が覚めた。……夕日?そう、夕方、西に沈む太陽。そこで、俺の頭が柔らかいものの上にあることに気がつく。そして上を見上げると、小さな双丘と晴香先輩の顔があった。どうやら膝枕をしているらしい。そして、また、睡魔がやってくる。
肌寒さによって、目が覚める。時期はもう夏前だが、まだ夜は肌寒い。そして、俺は、眠り続ける晴香先輩を起こさないように抱える。所謂お姫様抱っこと言う抱き方をして、六一○号室へと運んだ。晴香先輩をベッドに寝かせると同時に、俺の意識が再び薄らぐ。いったい何時間寝れば気が済むのだろうか、俺の身体は。前日の六時ごろから九時ごろまで寝て、そこから十三時間寝て、さらに八時間(夕日の差し込み具合的に)寝て、そして、さらに三時間寝ているのだ。もう、三十時間を越えている。そう思いながらも、眠りについた。




