54話:黒猫―白い猫と飼い主
俺は、銃の整備をしていた。もちろん自室でだ。オートマチックの拳銃の場合ジャムる確立を少しでも減らすために、整備点検は、小まめに行う必要がある。ちなみにジャムるというのは、弾詰まりのことである。主な原因として挙げられるのは、空の薬莢が上手く排出できないこと。だから、銃自体もそうだが、弾のチェックも欠かせない。弾自体がダメになっていることも稀にある。
銃の点検を終え、一息つきながら、ベランダに出る。俺の部屋のベランダには、何も置いていないのだが、何か、動く音と気配がある。何だろうかと、目をやると、一匹の白い猫がいた。
「猫か」
俺は、猫に近寄っていく。単なる興味本位。いや、そんな大げさなものでなく、ただそこに猫がいたからという理由だ。
「お前は、何で俺の部屋のベランダにいるんだ?」
答えが帰ってこないと分かっていても、猫相手に、質問をしてしまう。猫は、軽く鳴き声をあげると、俺のほうへ近寄ってきた。飼い猫らしい。首輪が巻かれている。しかし、首輪の色が白。外が暗くて光が弱いのも相まってまったく気がつかなかった。誰の猫だろうか。首輪には、六一○と言う札がついている。ペットを飼うときは、寮に許可を取るので、そのときに、寮の部屋番号の札を貰って、つけるそうだ。なので、この猫は、六一○号室の住人のペットだろう。仕方ない。届けに行くか。
俺は、エレベーターに乗り、二階上へやって来た。藍の部屋の二階上の位置にある六一○号室。その部屋をノックする。
数刻の間の後、ドアが開かれた。中から出てきたのは、少し茶色っぽい髪をした少女。俺よりも年下に見えるくらいの容姿。このような場所でなければ中学生と間違えそうなほど。いや、少し脚色を加えてしまった。小学生と間違えそうなと言い換えよう。
「あの、どちら様?」
「あ、俺は、四○一に住んでいる漣なんですけど。うちのベランダにこの子が迷い込んでたみたいなので」
あえて、この猫と言わなかったのは、猫は家族とか言う人間がいるからである。
「ああ!ありがとう」
ぱっと明るい表情をする。まさしく子供のようだ。
「あ、わたしは、二年生の佐野晴香。よろしく」
何ということだろうか。このような形で《響乃四大美女》をコンプリートしてしまった。確かに美という言葉は似合う。しかし、美女ではないだろう。美少女。しかし、これでも、目上の人間らしい。
「それじゃ」
晴香先輩は、そういって、部屋に戻っていった。なんだか疲れてしまった。寝よう。




