53話:黒猫―猫の心
心臓がバクバクと大きな音を立てていて、私は、顔を真っ赤にしていた。しかし、その真っ赤は、怒りからでるものではない。恥ずかしさだ。全裸で、しかも、好きな人のベッドで寝ていた。とんでもないことをしてしまった。でも、後悔の念はない。それに、目が合ったことを思い出す。アレは、明らかに私を見ていた。いや、私の裸を見ていた。それはつまり、私の裸に興味があったということだ。嬉しい。彼は、プールに行ったときも、私たちの水着を見ていなかった。それは、てっきり興味がないからだと思っていたのだが、違ったようだ。
俺は、部屋の外で、周を待っていた。先ほどから、頭の中で、周の裸体が何度も何度も蘇る。しかし、忘れなくてはならない。とにかく、忘れなければならないのだ。任務の時に思い出して支障が出たら困る。そんな、とってつけたような言い訳を考えながら、忘れようとする。何故、俺は、こんなにも必死に忘れようとしているのか。答えは、導き出せないが、忘れなくてはならない。
数十分後、周は寝巻きを着て、出てきた。そして、そのまま、俺を置いて、自室に戻っていく。
部屋には、朝食と思われるものが、置いてあり、周からのメッセージが添えてあった。『食べろ』。簡潔に付箋にそう書いてあった。俺は、朝食をおいしくいただいて、準備をして、学園へ向かった。その頃にはもう、周の裸体に関しては、ほぼ忘れていた。我ながら、嫌なことは、すぐに忘れられる。いや、嫌なことではなかったが。
学園には、すでに、周が来ていた。俺が見ていると目が合った。目が合った時のその顔は、朱に染まっていた。




