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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
黒猫編
53/73

51話:黒猫―気まぐれ

 俺は、《死の結晶》のメンバーとの交戦の翌日、周に呼び出されていた。

「ねえ、信也。いや、」

彼女は、俺の名前を呼んでいる。姉さんも厄介なことをしてくれたものだ。

「説明しなさい」

睨む目と鮮やかな黒髪が黒猫を連想させる少女。俺は、やれやれと言う様に肩をすくめて、確認を取る。

「加奈穂も読んで良いか。説明は、まとめてやった方が楽だ」

「いいわよ」

まるで舌打ちするかのような苛立ちを表に出しながら、許可をくれた。これで、加奈穂の前だから少しは猫を被ってくれるだろう。安心しながら、加奈穂を呼び出す。


 数分もしないうちに加奈穂が駆け付けた。そして、俺は、告げる。

「仕方ない。説明するよ。俺が、誰であって、今何をしているのか」

二人は、静かに息をのむ。

「俺は、小学六年の春休み、ある男に会った。そして、家は焼け、住む場所も失った。俺は、ある組織に入ることで、俺と同じ様な犠牲者を出さないように活動することを決めた。いや、あるいは、それが復讐だったのかもしれないな。あのときの俺に対する」

二人は、俺をじっくりと見て、話を続けるように促す。俺は、答えるように、続きを話す。

「そして、俺は、組織でも有数の腕利きとなった。そして、常に組織にいるのではなく、普通に過ごすことも許された。だから、この学園に、警備の名目で入ったんだ。以上が、事のあらましだよ」

数刻の沈黙の後、周が口を開いた。

「その、ある組織って、犯罪組織ではないわよね」

「ああ、むしろ逆だな」

《PP》の名は、一応、機密事項なので、告げていない。

「じゃあ、姫野さんは、その組織の人なの?知り合いっぽかったけど、わたしも如月さんも知らないなら、その組織で知り合ったとしか思えないんだけど」

加奈穂が、そんな疑問を口にした。周も確かにその通りだと言う様に頷いていた。

「まあな、俺の同期で、好敵手みたいなものだよ」

「そ、そうなの?」

加奈穂は、好敵手とかがある組織ってどんな組織なのだろうか、という想像をしているようだ。一方、周は、静かに口を開く。

「じゃあ、藍も、あの子も、その組織の人間、なの」

少し聞き辛そうに、そう言った。おそらく、一時期学園に来ていなかったことがあったので、そういった組織関係の何かがあったのではないか、という結論に至ったようだ。

「今は、そうだな」

今は、藍と姉さんは、一時的保護対象として、《PP》に監視されている状態で、《PP》の人間として活動している。

「今は?じゃあ、昔は」

俺は、周の唇に人差し指を当てる。静かにしろと言う意味だ。

「そう、まあ、深くは聞かないわ」

まるで猫のように、飄々と態度を変え、自由気侭にこの場を去っていく。相変わらずだ。あの猫は。


 加奈穂を、寮に帰すと、俺は、一息つきに、屋上へと来ていた。ここは、風が心地がよく、結構訪れている。ふと、下を見下ろすと、周の姿が目に入った。周がいるのは、何故か樹の上。それに大きな樹で、寮の屋上より少し低いくらいの大きさだ。周がいるのは、樹の中腹。俺は、興味本位から、屋上から、樹に乗り移り、つたって降りていく。


 しばらくすると、周の元へたどり着いた。

「アンタ、どこから来たのよ」

「屋上から、降りてきた」

周の腕には、可愛らしい白猫が抱えられていた。こいつは、おそらく、猫を助けるために登って、降りられなくなったのだろう。昔も、こんなことがあったな。確か、周の誕生日より、少し前。あの時は、三毛猫を助けるために、空き家の屋根に上ったのだったか。あの時も、俺が、後から助けに行ったのだ。

「まったく、全然変わってねぇな」

「悪かったわね」

そして、俺は、周の腰に手を回し、抱えるようにして、一緒に樹を降りる。まったく、手のかかる猫だ。


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