40話:藍と俺と姉と
お嬢様の護衛を解任されてから、もう、数週間の時が経った。梅雨の時期になり、湿気で弾がだめにならないようにする手入れも忙しい時期。あれから、お嬢様は一度も登校していない。どうやら、新しい護衛が、少し厳しい人らしい。お嬢様とは、時々、メールをするような仲になっている。いつも、また、一緒に昼食べたいと言っているが、しばらくは叶いそうにない。そして、いつものように、お嬢様にメールを送っていると、咲耶が急に覗き込んできた。
「何々、『また会うまでの辛抱ですから、我慢してください』って、何が?」
「お、なんだなんだ?」
賢斗が馬鹿みたいな顔で、俺たちの会話に割り込んでくる。
「なんか、こう、リア充っぽいやり取りだな。って『お嬢様』って何だよ」
軽く笑うように、賢斗が言うが、それに対して、咲耶が真面目な顔して俺に聞く。
「お嬢様って、もしかして?」
「おっ、正解。さすがだな」
咲耶は鋭いので、すぐに気付くとは思っていたが、お嬢様だけで気付くとは。
「ふ~ん。凄いじゃない。結構な有名人でしょ。これで残すところ後一人。コンプリート目指す?」
おそらく、《響乃四大美女》の知り合いのことだろう。しかも、お嬢様よりも会う確立の高い、佐野晴香だ。知り合うことは簡単だろうが、別にそんなことをコンプリートするつもりはない。
「あのな、別に俺は」
そこまで言ったところで、返信が来た。
『分かってるけど~。寂しいよ。でも頑張る!』
お嬢様らしい文章だな。そう思いながら、俺は、返信。『頑張って』とだけ送る。
俺は、放課後、生徒会に顔を出すことにした。
「アンタ、サボってたんだから、しばらく雑用担当ね」
などと、生徒会長にさらりと言われ、雑用を任された。
「信也さん。少し、お話しませんか」
少し落ち着いて、休憩していると、生徒会メンバーで話をすることになった。
「信也さんって、ご家族はどんな方なんですか?」
にやりと、少し、いやらしい笑みで、藍が俺にきいてきた。なんだ、この藍の顔。はじめて見る。何だ、何かたくらんでいるのか。そんなタイミングで、突如携帯が鳴る。藍の携帯だ。
「ごめんなさい、少しいいですか」
そういって、携帯を取ると、その場で、会話を始める。
「もしもし、紀乃さんですか。どうしたんですか」
わざとらしい笑い方。まさか、まさか。いや、そんなわけない。ありえない。だって、紀乃は、姉さんは、死んでいるのだから。だが、藍は、どこで、どうやって姉さんの名前を知ったのだろう。
「あはは、ごめんなさい。名前で呼ばれるのは嫌でしたよね、《真海》さん」
マミ…?!銀狼の言っていた名前。どういうことだ。姉さんの名前とマミという名。そして、今の言い方は、まるで、二人は同一人物のようだ。まさか、姉さんは生きている。そして、敵の組織に関わっているというのか。
「はい、それでは。また今度」
にやりと笑って、俺のほうを向いた。彼女は、いったい何者だ。いったい、何なんだ。生徒会室で、誰にも気付かれないように、睨み合う俺と藍。こいつは、いったい何なんだよ。姉さんはいったい。何がどうなっているんだ。




