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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
朱野宮家編
34/73

32話:S事件―学園生活

 朝、俺は、静刃お嬢様(呼び方はこうするように匡子先輩に言われた)とともに、車に乗って移動していた。

「お嬢様、学園では、」

あまり教室から出ないようにと注意しようとしたところで、俺の唇に人差し指が添えられる。喋るなということだろうか。

「学園では、お嬢様と呼ばないでくださいね。静刃で結構ですよ」

「はぁ、それでは、静刃先輩と呼ばせていただきます。それでは、先輩、あまり教室から出ないようにしてくださいね」

改めて、注意事項を述べる。お嬢様は、少し嬉しそうに、「は~い」と返事をしたのだった。


 屋敷と学園は、少し距離があり、朝、それなりに早く出たはずなのだが、気づけば、もう、授業が始まってしまっている。お嬢様と俺は、少し、急いで、教室へと向かった。無論、俺は、俺の教室ではなくお嬢様の教室だ。


 お嬢様の教室の前に着いたので、俺は、お嬢様に声をかける。

「それでは、また、休み時間に会いましょう。いってらっしゃい、先輩」

「うん、いってきます信也さん」

とても美しい笑顔で、お嬢様は、教室へ入っていった。お嬢様が教室に入った直後、教室からは、大きな声が響いた。


 その休み時間。様々なクラスから、男子達がやって来た。一二三学年のほかにも教員なども集まっているところからして、流石は、《響乃四大美女》と言うところか。そんな中、お嬢様はというと、キョロキョロと辺りを見回して、俺の姿を見つけたようだ。

「あ、信也さん。丁度、休み時間なので、一緒にお茶しませんか」

などと、《天使の微笑み》を向けてくる。当然、集まった男子達は一斉に俺を見るわけで、どうにもいたたまれなくなった俺は、教室に入り、お嬢様のお茶を頂戴することにした。

「しかし、先輩。凄い人気ですね」

「ええ、まあ。もう慣れちゃいましたけど」

優雅にお茶を淹れ、俺に渡してくれる。俺は、それを丁寧に受け取り、少し飲む。

「それよりも、どうです。私の淹れたお茶は」

「あ、はい。おいしいですね」

語彙が少なく、平凡なことしか言えないことに後悔したが、それでもお嬢様はバカにすることなく、笑顔だった。


 次の休み時間には、さらに訪れる人が増えていた。廊下を埋め尽くす人だかりの中には、賢斗の姿も見える。他にも知っている顔がちらほら。そして、俺に一番近いところにいたのは、藍だ。

「あら、信也さん。登校なさっていたのですか。教室に来ていないから休みかと思っていましたよ」

「うん?ああ、まあな。高野さんこそ、こんなところで何を?」

「みんな見に来ているそうなので。少し興味本位で」

そう言って、うっすら笑う。

「興味本位、ね」

「ええ、興味本位です。そういう信也さんこそどうして」

「ちょっとな」

そう誤魔化しながら、この時間は、友だちと楽しそうに話すお嬢様を見るだけだった。


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