30話:S事件―朱野宮静刃
俺は、ある一室に通された。《PP》の中でも《幹部》以上しか入ることが許されていない。そんな部屋に、彼女はいた。GWに、温水プールで出会った女性だ。
「あら、貴方は」
向こうも覚えていたようで、俺に視線を向けてくる。
「《PP》戦略武装軍隊所属。《幹部》クラス所属、漣信也です」
「そう、信也さんね。私は、朱野宮静刃。少し名家の生まれの女子高生です」
やはり朱野宮静刃嬢だったか。しかし、謙遜しすぎだろう。少し名家というだけでは、このような場所には入ることが出来ないはず。
「しばらくの間、私を護衛してくださるのですよね。よろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶をして、深くお辞儀をする彼女。
「いえ、こちらこそ、貴女のご高名は存じております。《響乃四大美女》の朱野宮静刃様」
驚きで目を丸くして頭を上げる。彼女にとっては、自分のことを知っているということが予想外だったのだろう。
「よく、ご存知で」
口から出たのは、そのような短い言葉。予想外すぎて、声が出なかったらしい。
「いえ、自分も《私立響乃学園》の高等部に所属しておりますので。貴女のような美しい方のお噂は、頻繁に耳に入ってきますから」
相手を敬うようにしろと、匡子先輩に散々言われたので、褒めながら、話を進める。
「それで、今日から自分は、どのように警護につけばよいのでしょうか」
まずは日程。それを確認しなくては困る。
「はい。私について二十四時間の警護をお願いしたいのです。場所は、主に、屋敷以外の場所で」
それはまあ、理解できる。二十四時間というのも屋敷以外というのも、身を守るために普通に考えつく答えだろう。
「そういえば、ですけど、同じ学園に通っているならば、私を学園でも警備できると言うことでしょうか」
それは、どういうことだ。意味が分からない。学園でも警備は出来るだろうが、しかし、二十四時間つかなくてはならないので、俺は、俺の教室にいけないけどな。
「まあ、できるでしょう」
「本当ですか。よかったです。今までは、警護をつけて学園に行くのは目立つからと両親にあまり学園に行くなと言われていたのですけれど、信也さんが一緒なら、大丈夫そうですね。本当に、学園にゆっくり行ってみたかったんです」
そういうことか。まあ、両親の考えも分かる。それに外出の時間が増えれば、危険も増す。そう言うことなのだろう。
「まあ、そういうことでしたら。学園でも護衛します」
そう言ってから、彼女に見えないように、匡子先輩に確認のメールをする。すぐに返事が返ってきた。結果は、学園でもきちんと守るようにすれば了承とのことだった。
「では、明日から学園に行くとして、今日はお家に帰りましょうか」
そう言って、彼女は、俺を引っ張って、行くのだった。これは、先が思い遣られる。




