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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
学園編
3/73

1話:漣 信也

 そうして、三年の月日が流れた。


様々経験、体験、訓練があり、俺は、とうとう昇進することがかなったのだ。

「射撃の成績トップ、ね。まったくもってしてやられたわよ。《幹部》昇進おめでとう」

咲耶が半ば呆れ顔で、一応褒め言葉を贈ってくれた。だが、しかし、同時に昇進した彼女に、悔しさの念まで出される理由が分からない。

「格闘戦の成績トップの君には負けるよ。《幹部》昇格おめでとう」

そうやって、褒めたのに、咲耶はジト目で、俺を見ると、いらつき混じりに、怒鳴る。

「なんで、あんたに言われると、嬉しさよりも、むかつきが来るのかしらねぇ。ねぇ」

良いながら、思いっきり、足を踏みつけられる。


 そんな口論をしていたのだが、ヒートアップして、殴り合いになる寸前のところで邪魔が入った。

「二人とも、そこまでよ。やめなさいって。どうどう」

俺たちは馬かよ。とツッコミたい気持ちを抑えながら、やってきた匡子先輩を見る。

「あ~と、そうか、今日からあんたらも、あたしの上位クラスなんだったっけ」

そう、匡子先輩は、いまだに《指揮官》クラスなのだ。《幹部》クラスも、危険な仕事が多いためか、俺たちの入隊当初の三人に対して、今の《幹部》クラスは、俺たちを含めて三人。つまり二人もいなくなったのだ。いや、正確に言うなら、入隊当初にいた三人は、全員いなくなり、俺たちの二個上の代の人が一人、昇格した。

「まったく、嫌よね。後輩が上司になるなんて。で、あんたらどうすんの?」

どうする、というのは、《幹部》特権を使用するのかということだろう。


 《幹部》クラスには、特権として、いくつかのことが許される。そのひとつが、日常生活を送りながら、好きな時に、訓練に来ることを許されること。

「俺は、使いますね。確か、配属は《私立響乃学園》でした。あそこは、金持ちが多いですから、犯罪率が高いですし、派遣にはもってこいの場所ですから」

日常生活といっても、銃を手放すわけではない。国内の危険地域に配属、そこで、通常の生活を送りながら、警戒をする。そんな名目で派遣されるのだ。まあ、平和大国日本。紛争地、戦争地があるわけでもなければ、テロをもくろむような奴が多いわけでもない。そんな国での危険地域というと、窃盗、誘拐などが起きやすい、金持ちの側となるわけだ。

「私は、ここに残るわ。常に、訓練ができないと不安だし。ついでに、あんたが、外でのんびりしている間に、射撃トップも勝ち取ってやるんだから」

そんな挑発的な発言を受け、俺は口論を再開しようと、向き合った。しかし、そこで、思わぬ邪魔が入ってしまった。

『《幹部》クラスにおける、外部配属生は、管理課指導室に集合してください』

呼び出しだ。

「勝負は、また今度だな。すぐ行かないと怒られるし」

そう言って、俺は大急ぎで、指導室に向かった。


 指導室までの道は、通いなれているため、迷うことなくたどり着ける。何故通いなれているか、というのは、別に、咲耶との口論の末何度も連れてこられた訳ではなく(確かに、何度かあるのだが)、通常学習も指導室で行うからだ。そもそも、武装訓練や格闘訓練しかしていないものが、外部配属などされても対応ができない。そのため、それなりの学習を自らの意思でできるような措置をとっているのだ。俺も、かなり勉強した。ちなみに、咲耶も、数ヶ月は通っていた。しかし、途中で「厭きた」といって止めたのだ。「訓練ができないと不安」と言う理由以外にも、「勉強が面倒」と言う理由があるに違いない。


 そんなことを思っていると、指導係りの人が現れた。

「さて、《私立響乃学園》配属だったな。おい、名前記入欄に何も書いてないが、どうするんだ」

名前。そう、俺は、過去を払拭するために名前を書かなかったのだ。ずっと名前を名乗らないようにしていたので、おそらく、この《PP》内では、匡子先輩と咲耶、俺の部下の三人くらいしか、俺の名前を覚えていないだろう。確か、《幹部》特権で偽名許可があった気がする。

「《漣 信也》」

そう、名前の欄に記入した。それが、俺の新しい名前。もう、あの名前は捨てた。だから、俺は《漣 信也》として、《私立響乃学園》で過ごす。《PP》の《漣 信也》として。

「了承した。今月の11日が入学式。そして、今日は入寮だ。行ってこい」

「はい」


指導室を出て、少しした頃、後ろから不意に声をかけられた。

「あんた、名前変えたんだって」

「最初に変な名前って言ったのはお前だろ。それに、あの名前は、俺の過去だ。もう、棄てるんだよ」

「分かったわ、それなら何も言うことはない。行ってらっしゃい《信也》」

俺は、咲耶に見送られ、《PP》を後にした。

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