0話:プロローグ2
そうして、俺は、《PP》に入ったのだ。《PP》、戦略武装軍隊。一般人の募集の極秘裏に扱っていて、俺は、拳銃をくれた男(仁藤と言うらしい)の計らいで、入隊することができた。今年度入隊者は二人。少女と俺の二人きりだ。
《PP》に対する説明をしておこう。手元にある資料によると、戦略武装軍隊であり、主に、軍事的訓練、共闘の大切さ、自衛の方法を学ぶ場所である。三つのクラスに分かれていて、《訓練生》クラス、《指揮官》クラス、《幹部》クラスとなる。最初は、全員が《訓練生》クラスに配属されて、それぞれ、修練を積み、クラスが上がっていく。クラスが上になるごとに、権限が強くなっていき、《幹部》クラスになると、大半のことをできるようになる。《幹部》クラスは、今、三人のみで、《訓練生》から《指揮官》は簡単に上がれるが、《幹部》は滅多になれない。《幹部》昇格者は、ある分野でトップの成績を収めたもののみ。例えば、射撃。例えば、格闘技。例えば、剣術。そういった、逸脱した能力の持ち主が《幹部》になれる。また、大手企業や富豪、政治家などから、護衛の依頼を受けたり、警察では、手に負えない事件を解決したりするのも、《PP》の仕事となる。それこそ、歴史で言えば、比較的最近出来た、この組織が、こんなにもきちんと成り立っている理由であり、今や、欠かせないものとなっている理由と言えるのだろう。
パンフレットを読み終え、暇をしていると、俺を連れてきた女性が、現れた。どうやら、入隊式を行うらしい。
「よし、それじゃあ、入隊式を始めるわ。だけど、その前に自己紹介をしておこうかしら。あたしは、小向匡子よ。クラスは《指揮官》クラス。今年度、貴方たちの面倒を見ることになったわ。以後は、あたしのことは、匡子さんでも、匡子先輩でも好きなように呼んでちょうだい。それじゃあ、今度こそ、式を始めるわよ」
そういうと、式が始まった。匡子という女性は、長い話を始めた。
話の内容は、長く、あまり覚えていない。だが、ある部分だけは、確実に記憶に残っている。
「《PP》で教えることは多々あるけど、代々、この入隊式で教える言葉があるの。それはSi Vis Pacem, Para Bellum。汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ、という意味よ」
この言葉を聴くのは、三度目。だが、深く考えるのは、今回が初めて。仁藤と言う男が、意味を言っていたが、深くは、考えていなかったし、あの時は、もう、他のことで頭がいっぱいだった。
Si Vis Pacem, Para Bellum。「汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ」は、ラテン語であるらしい。詳しい出典は明らかではないらしいが、代々《PP》に伝わり、心に刻み付けているらしい。俺は、この言葉を胸にしまい、修練に励むことを決意する。そう、二度と、平和をなくさないように。
入隊式が終わり、今から、銃の引渡しの儀がある。拳銃は危険なものなので、あくまでも、自分、《PP》、そして、平和のために使うことを誓わせるのだ。
「用意した銃は、《ワルサーP99》《ワルサーPPK》の二丁だけ。好きなほうを選んでね」
「じゃあ」
俺ではなく、もう一人の少女が、《ワルサーP99》と呼ばれる銃を受け取った。しかし、俺は、銃を選ばない。俺は、俺の運命を変えてしまった原因である、あの銃を使うと決めているからだ。
「キミは、この銃になったけど、異論ある?」
「俺は、コイツを使う。それはいらない」
そういって、バッグから、男に渡された銃を出した。
「《ベレッタ》……。仁藤の持っていたやつね。……まぁいっか。しっかし、余ったこっちをどうしようかしら」
「私が」
少女は、女性から、奪い取るように、もう一丁、銃を受け取った。
「え?姫野、二丁も持ってどうする気?」
姫野、それが少女の名前のようだ。漆黒の髪(地毛にしては、黒すぎるほどの黒)に桜色の瞳をしている。髪は後ろで縛り、ポニーテイルのようだ。
「二丁使いこなす。それぐらいできないと、《幹部》にはなれないのでしょ」
すっと透き通った声で、堂々と《幹部》になると告げた。凄い、と俺は純粋に思った。そんな目標を、高らかに宣言する少女に、負けられない。いや、負けたくないと思ったのだ。
銃選びが終わった後、俺と少女は、一つの部屋で、休憩を取らされていた。取っていたではないのは、それが強制であったからだ。だから、暇を持て余していた。仕方がないので、俺は、姫野という少女と話すことに決めたのだ。
「なあ、お前、なんて言う名前なんだ」
「あまり馴れ馴れしく話しかけないで。これからは」
やっぱり、一筋縄ではいかないなぁ、などという感想を抱きながら、根気良く、繰り出そうとした言葉は、少女の言葉に制された。
「第一、名前を聞くのなら、貴方から名乗るのが礼儀ってものでしょう」
礼儀とか言われても、困るのだが、俺が、先に名乗っておくとしよう。でないと、この先、ろくに話もできそうにない。
「分かったよ、俺は、」
そうして、俺は、彼女に名前を名乗った。すると彼女は、軽く笑いながら、失礼極まりない言葉を口にした。
「変な名前ね、面白い」
「な、何だと…。じゃあ、お前は、なんて言うんだよ」
どんな名前だろうと大爆笑してやると、心に決め込んで、少女が名乗るのを待った。
「私の名前、ね。分かったわよ、名乗ってあげるわ」
堂々と、それでいて、恥ずかしそうに、そして、意地っ張り気に少女は言った。
「姫野咲耶よッ!」
姫野、咲耶。俺は、いつの間にか、笑ってやろうと思っていたことすら忘れ、少女に見入る。まるで、名前と姿が、ピッタリ一致したみたいな、少女の姿どおりの名前であった。
「な、何よ、急に黙って。どうせ私には似合わない名前よ」
「いや、そんなことない。綺麗な名前だな」
そう、コレが、俺と、後に《PP》で一、二の成績を争うことになる少女との出会いだった。