8話:漣の境目
彼女は、もしかしたら、気がついたのかもしれない。だが、違う可能性もある。下手に近づいて、逆に覚られたら、それこそ大変なことになる。
だから、俺は、放課後、毎日、《PP》で、訓練をすることにした。なるべく、人と会うのを避けるように。そうして、数週間を過ごし、もうじき、入学してから一ヶ月になろうとしていた。その間、加奈穂と会うことは一度もなかった。いや、なさ過ぎたと言っても過言ではない。
だから、事件が起きたのだ。しばらくの平穏で勘が鈍っていたのかも知れない。警戒を怠っていたと言う面もある。
その一報が入ったのは、俺が、《PP》で、射撃訓練を終えた頃だ。
「事件が発生した。緊急連絡、《私立響乃学園》で、危険度高の誘拐事件が発生した」
危険度高。それは、特定犯罪組織による、人的影響が出る事件。場合によっては、被害者が出る。
「なお、攫われたのは、《境出加奈穂》」
その名が出たとたん、俺は、出動を決意した。
「緊急時、対応。俺が、出動する」
俺が発言した瞬間、連絡係の《指揮官》クラスの一人が驚く。
「え、幹部が自ら出るのですか」
「ああ《私立響乃学園》は、俺の管轄だ。責任は俺が取る」
そういって、俺は、ベレッタを持ち、現場に向かった。
現場では、犯人は、すでに、警官囲まれていた。犯人が乗っていたと思わしき車は、黒塗りで、曇りガラス。犯人は、加奈穂を人質に、警官をやり過ごそうとしている。
「おい、それ以上近づくと、こいつを撃つぞ!!」
警官は、犯人を刺激しないように、半歩ほど下がって、近づく気が無いことを犯人に伝えた。犯人の使っている銃は、マカロフだと思われる。中国産で、日本へ来ることも多い銃だ。犯人は、今のところ、加奈穂の身代金八千万と海外への安全逃亡を要求している。だが、警察が、そんな要求に応じるわけが無い。おそらく、この状況ならば、犯人の射殺か、人質の射殺が指示されるだろう。それが、確実に損害の無いことだから。
だが、加奈穂を殺すわけにはいかないだろう。それは、俺の私情の問題ではなく、加奈穂の家、《境出》の問題だ。加奈穂に聞いた話では、父は、政治家の仕事をしているといっていた。苗字が同じ、政治家といえば、境出議員しかいない。かなりの有力議員の娘を殺したとなれば、警察にかなりの圧力がかかるだろう。そうなると、犯人の射殺だが、それも、この状況では、難しい。ここは、周りに、建物の少ない、野原のような場所。気づかれずに、射殺するのは、かなり困難。
そして、そんな状況の現場についた俺は、犯人達のいる方へ向かう。
「おい、君!ここは、封鎖中だ。入るな」
「《PP》の《幹部》クラス。漣だ」
俺は、簡潔に名乗り、邪魔くさい警官を退ける。
「ハッ、し、し、失礼いたしました。どうぞ、お先へ」
俺は、現場の地形を見ながら、進む。しばらくするとほとんど、何も無い野原に出る。もう、この時点で、犯人達も見える。だから、俺は、この位置から、相手のマカロフを撃ち、そして、相手の、肩に一発キメることにした。
即時、二発。俺は、相手の気を引き付けるように、叫ぶ。
「行くぜぇ、相棒。真っ赤なお花、ぶち撒けようじゃねぇか!」
相手が、こちらを予想通りに向く。それに当たる軌道に二発の弾丸が飛んでいく。まるで吸い込まれるかのように、マカロフを弾き飛ばし、もう一発が、肩を打ち抜く。犯人は、肩から血を噴出す。が、すぐに弱まり、流れ出す。その横では、加奈穂が膝をついている。どうやら、腰が抜けたようだ。
俺は、取り囲む警官たちの間を縫うように、駆け抜ける。そして、犯人から、弾き飛ばしたマカロフを蹴っ飛ばし、ベレッタを相手に突きつける。
「チェックメイトだ。誘拐犯さん」
「グッ」
俺は、犯人を押さえつけ、警官に引き渡す。犯人は、睨み付けるように、俺を見ていたが、俺は、無視をして、加奈穂の方を見る。
「み、みやくん……」
潤んだ瞳で、俺を見ながら言う。だから、俺は、あえて、否定的に言う。
「俺は漣信也。私立響乃学園一年三組だ。じゃあな」
そして、俺は、その場を去った。




