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Si Vis Pacem, Para Bellum  作者: 黒桃姫
学園編
1/73

0話:プロローグ

 昔のことだ。俺は男に、「これだけは、心がけろ。忘れるな、Si Vis Pacem, Para Bellumだ」と言われた。さっぱり意味の分からない言葉。俺は、なぜか、その言葉が今でも忘れられない……。


 それから、数年の月日が経ち、俺は、もうじき、中学生となる。あと、数週間。今は、まだ、桜が咲くか咲かないかの微妙な頃合い。春休みだ。中学生になったら、いろいろと忙しくなるだろう。だから、今、できるだけ遊ぼうと思うのは、普通というものだろう。


 しかし、結果として、それが、悲劇を巻き起こした原因にも等しい。


それは、偶然だった。ただ、公園に、何をして遊ぶか考えながら足を運んだだけだった。なのに、そこには、いつもの公園がなかった。否、すっかり姿を変えてしまっていた。よく遊んでいたブランコは、拉げて、片方は、鎖が千切れて落ちてしまっている。滑り台は、何かが当たり、めり込んだように、何箇所も凹みができている。


 俺は、理解できずに、その場に座り込んでしまう。おそらく腰が抜けたのだろう。足に力が入らず立とうにも立てない。そして、呆然と遊び場を見ていると、そこには、二人の人間がいるのが分かった。一人は、ボサボサの髪の毛に無精髭の目つきの鋭い男。もう一人は、よく分からない。顔は、見えない。ちょうど滑り台で死角になっている。そして、男のほうが動いた。いや、動いたのは両方だったのかも知れない。ともかく、男は、素早い動作で、何かをした。すると、もう一人の方は、後ろに大きく倒れた。そして、一瞬遅れてパァアンという、運動会でよく聞く音に似た音が響く。数刻間を置いて、ようやく理解する。男が出したのは、拳銃。その拳銃で、もう一人を撃ったのだ。


 俺は、その場で、後ずさりをしようとするも、腰が抜けて、下がれない。男が、こちらへ向かってやってくる。恐怖に俺は竦んだ。そして、男は、俺の目の前にしゃがむと、拳銃を向けてきた。

――撃たれる……。

そう思い、恐怖で何も言えなかった。

「おい、坊主。Si Vis Pacem, Para Bellumって言葉を、知ってるか?」

コクコクと小さく頷いた。忘れられない、あの言葉だ。

「知っているのか……。だったらコレをやろう」

そういって、俺に渡してきたのは、一丁の銃だった。先ほど男を撃った拳銃だと思われる。そんなものを渡されても、困る。しかし、俺のそんな様子に対して、男はいたって冷静に、俺を諭すように、言った。

「Si Vis Pacem, Para Bellum。汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ。戦いに備えるには、コレはいるだろう。しっかりしろよ坊主。俺に会った時点で、もう、終わりは始まってんだ」

終わりが始まっている……。意味の分からない台詞に、困惑しながらも、俺は、その銃を受け取った。

「よし坊主。ひとつ言っておこう。もし、力がほしければ、《PP》に行け」

《PP》……?


 俺は、拳銃をバッグにしまい、その場を、ふらつきながら去った。道中、何度も、倒れそうになった。信じられない光景が、目に焼きついて離れない。男が放った弾丸で、もう一人が後ろに倒れる光景が何度も繰り返され、嘔吐感で気分がさらに悪くなる。そして、実際に、人を殺した銃が、バッグの中にあると思うと、さらに気分が悪くなる。


そうして、ようやくたどり着いた。俺の家に。しかし、家はなかった。燃えていた。業火が俺の家を包み、全てを燃やす。周りに家族の姿はない。代わりに、黒い屈強そうな男たちが数人。散るように去っていく。俺は、直感した。あの男たちが、家に火を放ったのだと。

「なん、で。何でだよ、何でだよッ!!」

俺は、思わず激昂した。壁を叩いた。野次馬の何人かが、こっちを見る。しかし、すぐに、燃え盛る家に視線を移す。そして、見ているだけで、何もしない。


 結果として、俺の家は、《不注意によるストーブが火元の火災》ということになった。家にいた人は、助からなかった。俺は、引き取り手のない子供となった。親戚の間で、誰が引き取るのかの口論を聞きながら、いや、聞き流しながら、適当に視線を流していた。遺産の話や俺の話が飛び交う中、一人の女性がドアを蹴破り、入ってきた。

「だ、誰だね、あんたは」

親戚のおじさんの慌てる様子をまったくも気にしないで、俺は、女性に視線を向ける。女性は、俺の方へやってきて、すぐ近くにしゃがむ。

「ねぇ、キミ。《PP》って聞いたことはある?あたしは、そこから来たんだ。仁藤が、キミに《ベレッタ》預けたって聞いてるし。キミ、《PP》に来てみない?」

「そ、そんな勝手が」

「そうだ、その子は、我々の」

「どこの誰だか知らないが」

親戚が口々に言い出す。こんな奴等と一緒にいるのと、よく分からない場所へ行くの、どっちがいいか。そんなの後者に決まっている。さらに、《PP》に行けば、力が手に入ると男が言っていたのだ。だったら、力が欲しい。家族の復讐のために……。俺と同じような目に遭う人が現れないようにするために……。

「俺は、行く。《PP》に」

「そう。……厳しい日々になるだろうけど、がんばりましょう」

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