仇である魔王に惚れられました。
私は、リア=ロレット。
小さい田舎町に一人で暮らしている。それもこれも、“魔王”のせい。
魔王はこの国の隣国、“魔国”を治めている邪悪で冷酷で非道な王だ。強大な魔力を持っていて、その配下の魔族の数も計り知れない。この国は、ずっとその魔王や魔国に脅かされてきた。
小さい頃に聞かされる物語では、必ず“勇者”がいて、最後に魔王は倒される。でも、それは“お話”の中だけ。
魔国が建国されて早300年。勇者なんて、一度も見たことがないし、聞いたこともない。
私のお父さんは魔王軍と戦って戦死、お母さんも、たまたま街に出ていた時、魔王軍の襲撃に遭い殺されてしまった。
つまり、私が天涯孤独の身になったのは魔王のせいなのだ。
でも、私みたいな田舎の小娘に魔王を倒せるはずもなくて。
ただただ、両親の供養をして、魔王を呪う、それなりに楽しい日々を送っていた。
*
それは、ある日のことだった。
基本、自給自足生活の私は、いつもの通りに森へ入った。薪やきのこや山菜を獲るためで、毎日のこと。
前日雨の降った森は、慣れているとはいえ足を滑らせそうになる。
……いや、結局私は、足を滑らせた。
つるっとしていた石に足を滑らせ、一瞬、ふっと身体が浮く感覚。やばい、と思った時にはもう手遅れで、頭から転がり落ちそうになった。
そんな私を受け止めてくれたのは、さらさらの黒髪に、金色に輝く切れ長の瞳。180㎝はあろうかという長身の、いわゆる“イケメン”。
はわわ……って、見惚れかけて……はっとする。
見惚れる前に、お礼をしなければ。
慌てて彼の前に立って、頭を下げる。
「あの、ありがとうございまし―――――」
「惚れた」
「た……って、は?」
私の言葉を遮ったのは、聞き間違えだろうか、“惚れた”という、短い言葉。
「あの、えっと―――――」
「惚れた」
「いや、だから―――――」
「惚れた」
「あの、お兄さ――――」
「惚れた」
……なんだろう、この人は。
惚れた、という言葉しか知らないのだろうか。
「あの、すいませ――――」
「君に惚れた。だから――――」
そこで言葉を切り、私を抱きかかえるお兄さん。
この体制は、いわゆる“お姫様抱っこ”。
え、ちょ、何これ。パニックになる私に、お兄さんは一言言った。
「俺の城に連れて帰る」
……はい?
『君に惚れた。だから俺の城に連れて帰る』
……って、どこの我儘息子だそれ。
つーか、それ、誘拐ですから誘拐。
「あの、お兄さ――――」
誘拐ですよ、降ろしてください。
そう言う前に……お兄さんは、私を抱いたまま飛んだ。
一瞬で、私は空の中。いままでいた森が、遙か下に見える。
「えっ、ちょっ、お兄さん!? 何これ何これ、何の冗談!? ねぇ、あなたは何なの何者なの!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ私に、何にも言わないお兄さん。
もしかしてこの人……いや、もしかしなくとも――――――魔族?
……うん、魔族だったら、良かったの。
まだ良かったの。
だって、彼の辿り着いた“俺の城”は、高く聳える黒い城―――――魔王城。
「え……。え、え、えぇぇぇぇぇぇっ!?」
城を見て、思わず叫ぶ私。
それを気にせず、私を抱いたまま城の中へと入るお兄さん――――いや、魔王。
ちょっと待ってよ、これはつまり、私は親の仇に救われたわけで……、
今、その魔王の腕の中にいる?
「いっやぁぁぁぁぁ!」
慌てて降りようとしても、細いけれど筋肉のついている彼の腕からは逃げ出せなかった。
……いや、相手は魔王なんだけど。魔力も武力も兵力もある、恐ろしい相手で、逃げ出せないのは当たり前なんだけど。
そんなわけで、玉座に座る魔王の膝の上で、おろおろしている私。
……って、待ってよ。
これって、今、絶好のチャンスなんじゃないの?
きっと頑張れば、お父さんとお母さんの仇、討てるじゃない。
よし、魔王、覚悟!!
心の中でそう叫んで、彼の腰から短剣を引き抜く。
勢いよく、魔王の心臓めがけて振り下ろし――――たのに、余裕で腕を掴まれた。
うわ、やばい、殺される。
そう、思ったのに――――、
彼の口から出てきたのは、思いもよらない言葉だった。
「君に惚れた。だから、妃になれ」
……“なってくれ”じゃなくて、“なれ”?
命令形? てか、今私、貴方のこと殺そうとしたんですけど。
頭の中には、たくさんのはてなマーク。
でも、良いわ。
妃になってやろうじゃないの。
そんなに私に惚れているなら、丁度良い。
いつかきっと、仇を討ってやる。
昨日の2時頃…? 書いた短編です。
今朝見直して「うわ…」と思ったけど、とりあえず投稿。
うーむ、ベタだ。
リアと魔王コンビの話、ちまちま短編upしてこう…かな?
続編書きました。
勇者、登場です。
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