第2話 対象の登場
《登場人物》
ナオキ・ステッド 記憶消去人
イプシロン 暗殺者
トラヴィス・ペン 脳科学者
クリス・ハーラン 連邦政府情報管理省長官
6月12日――トラヴィスの自宅――深夜2時――
ナオキは、スピーダーバイクで、トラヴィスの自宅に到着し、侵入できるかどうかを暗視ゴーグルで確認するが、どうやら自宅の周りに監視カメラが何台も設置されていて正面からの侵入が難しい。ナオキは、特殊スーツのポケットから、野球ボール型のパルスボムを入り口前に向けて投げる。
《パルスボム――最新型電波妨害手榴弾。スイッチを押し、対象物付近に投げ、5秒後に半径2km、内外関係なく電波を遮断し、監視カメラなどを使用不可にする。効果は約30分》
ナオキは、五秒間待った。すると投げたパルスボムから一瞬、青紫の閃光が起きる。それと同時に淡い青紫のオーラが半径2kmを覆った。
監視カメラの作動が停止したらしく下を向いたままで起動していない。それと同時にトラヴィスの自宅内の電気や照明も消える。
ナオキは、カメラを確認してからトラヴィスの自宅へと入った。自宅は広く宮殿のような広さだったが、前もってトラヴィスの情報を取得しているので、どこにトラヴィスがいるか把握できていた。ゆっくりと進み、トラヴィスの書斎がある2階へと進める。
書斎の前のドアに近づき、書斎のドアノブを引き、書斎に突入した。
書斎にはおびただしい量の書物・辞書がぴったりに並べられており小図書館並みの広さの書斎だった。奥のデスクに人影が見える。
ナオキは、ピストル型のEM銃《=軽量レールガン》を構え、人影に向かって、デスクの前に近づくが、人影がフェイクである事に気づく。
「動かないでもらえるかな? ステッド君……」
ナオキは、トラヴィスに背後を取られ、拳銃の銃口を突き付けられた。
「おっと、銃を下してくれるか? 事は穏便に済ませたいのでね。クリスの奴もこうやって消去人を送ってくるわけだ」
「あらら、背後にいらっしゃったとは、気付きもしませんでしたよ。プロフェッサー・ペン」
「余計な口を叩く暇があったら自分の命の心配をしたらどうだね? 君が来た理由はクリスの依頼を受けて私の記憶《告発する情報》を消しに来たんだろう」
ナオキは、黙り込む。そのままトラヴィスは続ける。
「おや? 図星のようだな。あいにくだが、そうはいかん。残念だが、君はここで消えてもらうよ」
ナオキは、笑いながらトラヴィスを挑発する。
「ふはははっ、断る! 殺せるものならやってみろ!」
「愚か者め……」
トラヴィスは、ナオキに向かって拳銃の引き金を弾こうとした。
すると、ナオキは、EM銃を書斎の天井に向けて高く投げる。EM銃は空高く舞い、トラヴィスは、すぐさまEM銃に向けて拳銃の引き金を2回ひく。二発の弾丸は、EM銃に当たらなかった。
それと同時にナオキは背後にいるトラヴィスに向かって回し蹴りをくらわし持っている拳銃を蹴飛ばした。腹を膝蹴りし、苦しむトラヴィスを書斎の椅子に座らせ、トラヴィスにショックガンを構える。トラヴィスは腹を両手でおさえながら、激痛に我慢しながらナオキに問う。
「本当に私の記憶を消すのか?」
ナオキは、微笑みながら否定する。
「い~や、寝てもらうだけ!」
トラヴィスは、安堵する。
「そうか、君は、まだ事の重大さを分かっていないな」
「何がだ?」
トラヴィスは、白衣の左ポケットから、手帳並みの遠隔映像機をナオキに渡す。そこには、クリス・ハーランが乗る車が映し出され、後ろの車から見覚えのある暗殺者が見えた。
「数十分後に、彼は死ぬ! 君ならどういう事かを理解できるはずだが……」
「どうして、奴を?」
「彼は、記憶という物がどういう物か奴ら官僚は、価値を分かっていない! どういう部分的な記憶でも消去するというのは理解できなかったのだよ。それに、部分的な記憶を消去する事で、チップブレーキングが起きて最終的には、記憶が全面的に吹き飛ぶんだよ……」
ナオキは、トラヴィスの話を止める。
「自分には、ルールがあってね。1、極力、人は殺さない。
2、依頼された仕事は完璧に完遂させる。3、依頼人の命は守る。それが俺の仕事だよ」
「うっ……」
ナオキは、トラヴィスに向けて麻酔ショックを撃ちこみ眠らせ、すぐさまにパルスボムの効果を消し、トラヴィスのプラグをパソコンに接続し、依頼通りに理論の記憶消去を開始する。ナオキは、右腕の電子時計から時間を確認し、記憶が消去できたかどうかなどそっちのけで急いでトラヴィスの自宅を出て、スピーダーバイクに乗り、クリスのもとへと追いかける……
第2話です。
話は続きます。