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白鴉。  作者: のり
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事情聴取

テリーが現場に辿り着くと、既に巡回班の同僚達は目撃者の証言を取り、交通規制を始めていた。

血のついた地面と遺体のある付近をロープで囲い、立ち入り禁止にしてから、関所に連絡し、不審者発見時の即報と警戒の強化を促す。

折角急いで来たのに、テリーもイサミちゃんも特にやる事が無かった。

イサミちゃんは腰の剣を地面に放り投げ、羽織っただけの制服を畳んで脇に抱えた。

未だサンダル履きで、今更こんな男が国中の警備隊員のトップに立つ男だとは到底思えない。

「あ〜?血じゃねぇか。それにこりゃ死体だな!人間が一個、輪切りの犬が一個。なんだこの事件は?意味不明だな。」

イサミちゃんは現場を見渡し、見たまんまを述べた。

「あ、イサミちゃん、それにテリー。今大体の事件のあらましが分かったんですが聞きますか?」

事情聴取が終わった巡回班の一人が話掛けてきた、どうやら事件を説明してくれるらしいので、二人は聞く事にした。

「発生日時はついさっきです。こちらの飼い主がチワワの散歩をしていたら、犯人が突然チワワを真っ二つにし、切断した頭を藪へ放り込みました。で、こちらの武芸者の男性が問い詰めたところ、犯人が反論。武芸者が先に手をだしたが最後は犯人に斬殺されてます。後、犯人が立ち去ろうとしたところ、目撃者の方々が協力し、こちらのマクマン氏が犯人を足止め、茶店客の一人が街道警備隊員を探しに赴き、我々と接触。で、我々が駆け付けたんですが、犯人に逃げられた後だった。こんな感じです。あ、後、犯人の特徴ですが、年齢は二十歳前半位、黒髪に黒目、病的なほど極端に肌が白く、身長175位、痩せ型、全身白色の東洋風の服装に二本の刀を帯刀しているみたいです。」


「んー、なるほど。よく分かった。だがさっぱり意味が分からねぇ。なんで犯人はチワワを殺したっつーんだよ?動機は何だよ?」

イサミちゃんは難しい顔をして首を傾げた。

それからテリーもやっぱり難しい顔をして首を傾げた。

「それにつきましてはワシが犯人から聞いた話をします。」

そう言って、老父マクマンが横から会話に入り込んできて、例の悪霊犬の話をする事になった。

他の巡回班の者も話を聞く事になり、警備隊員全員でマクマンの話に聞き入り始めた。

マクマンの長い話が終わると、イサミちゃんは喉が渇いたと言って茶店の主人にビールを頼みに行った。

テリーは報告書作成の為と自身の後学の為に、必死になってメモをとっている。

チワワの飼い主とかいう男性は茶店の長椅子に腰掛け、地面を一点に見つめ続けている。

相当ショックだったのか。

この非道く凄惨な現場とは相反して、空は爽やかな快晴であった。

サワサワと優しい風が吹いた。厭味な程優しい風が。

「あ、分かった!分かっちまったよ俺ァ。事件のすべてがな!」

イサミちゃんがジョッキ片手に扇子で首元を扇ぎながら、大きな声を上げた。

鼻の下にビール特有の白い泡を髭みたいにくっつけている。

「犯人の正体はバカだ、犯人はバカだから、常識で理解出来ない事をしたのさ!動機は何となくやってみたかったからとかで、武芸者を殺せたのは犯人がバカだからだな。予測・予想の範疇を遥かに超えるバカ犯人のバカな動きに武芸者が一瞬躊躇した事が命取りになったって事だ。

ちなみにさっきの悪霊犬だっけ?それはもう完全な犯人の妄想だろう。

だが、もしかしたらだがバカじゃなく、麻薬中毒者って線もあるんだがな。

どっちにしろ、正常な精神状態の人間の仕業じゃねぇって事だぜ。」






「そうですかねぇ?」





イサミちゃんのバカ犯人論に異を唱えるテリー。


だがイサミちゃんはそうに決まってるって言い張り、段々収拾がつかなくなってきた。



そこへ巡回班の一人が半ば強引に話し掛けた。





「そう言えばイサミちゃん、被害者の武芸者の顔見ました?一応拝んでおくのはどうですか?」

提案に賛成した二人は、早速死体の側まで歩み寄った。

そろりと顔を覗き込む。

しばらくイサミちゃんの動きが止まった。 「こ、この武芸者・・・って・・・。

金色杖のレッドじゃねぇか!!」




金色杖のレッドと言えば杖術の実力者で、杖術界では有名な男なのだ。



「僕は知らないんですけど有名なんですか?」




テリーが不思議そうな顔で、イサミちゃんに質問する。



「ちょっとした実力を持ってた人だ。

だが・・・いくら相手がバカやジャンキーで油断や隙を突かれたとしても殺される訳なんてない。不可解すぎる。

もしかしたら、こいつぁヤベェ事件なのかもしれねぇぞ・・・。」




イサミちゃんは、じっとりと汗をかいていた。

大して暑くもない、爽やかな筈の夏の午後であったが、イサミちゃんの中でブスブスと燻る不快な何かが、彼をとても嫌な気持ちにさせてくれた。



イサミちゃんはジョッキのビールを残して、剣を拾い、黙りこくった。



ふと、街道から見える街並に目を向ける。

 

イサミちゃんは、犯人が一刻も早く関所で捕らえられますようにと、そう祈らずにはいられなかった。




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