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白鴉。  作者: のり
12/17

ザー・・・ザー・・・ 朝から雨が降っていた。

数日前まではいい天気だったというのに、ここ二日程、生憎の天候が続いている。

「また今日もか。祭りが終わってからずっとだ・・・。」

イサミちゃんが総隊長室の窓から外を眺めて独り零す。

首都グリーンデイの雑多な街並が雨風にさらされている。

いつもの活気は萎え気味で、ただ雨音だけが聞こえている。

製鉄工場はそれでも稼働し続け、高温の蒸気が屋外へ排出された。

ペチ、ペチ。

イサミちゃんは扇子を鳴らしてデスクの書類を手に取った。

数通の文書。ソファに腰掛け、しかと目を通す。

「諸外国からの返信か。思ったよりも早く届いたもんだ。どれどれ。」

以下は諸外国からの返信内容である。

 北東の軍事大国からの返信。

白装束に二本の刀を持った肌の色が白い男は通称カラスと呼ばれた謎の剣客だと思われる。

「カラス」

は我が国で清掃会社に就職したが清掃会社爆破事件後、消息不明である。

その隣の商業国家からの返信。身体的特徴及び外装から察するに、それは

「白鴉」

である可能性が高いでしょう。

「白鴉」

は私共の国で新興宗教を設立しました。

しかし、その裏で政治団体と結束し、多数の狂信的信者を扇動。

大規模な国家転覆未遂事件を引き起こし、それ以降行方を暗ませています。

更に東部の王朝からの返信。問い合わせのあった者は

「白鴉」

であります。

詳細は不明ですが、強姦魔や放火魔、盗人らを次々に殺害して民衆に英雄として祭り上げられました。

その後忽然と姿を消しました。

「・・・・・・・。」

イサミちゃんは三ヶ国からの文書を読み終えて、頭を抱えた。

「あぁぁぁーー・・・分からねぇぇぇ!犯人の人物象が掴めねぇって!マジで。共通してんのは外身と鴉とかってあだ名だけだしなぁ・・・。」

イサミちゃんはブツブツと独り言を言いながら腕を組んだ。

サンダルをペタペタ鳴らしながら部屋中をウロウロして、何かベリィグッな素晴らしい案はないかと模索する。

が、しかし。

一向に、何一つ、ベリィグッな案は浮かんでこない。

ある時は労働者、ある時は宗教家、またある時は庶民の味方・・・。

何を考えているのかわからない一々謎に包まれた行動。

清掃会社爆破テロ事件、宗教団体による国家転覆クーデター未遂事件、悪人連続殺人事件。

そしてこのザフー興国ではチワワ・武芸者殺害事件を起こした。

困ったものである。

イサミちゃんはペタペタと階段を下りて、会議室の扉を開けた。

普段は本部ミーティングとして毎月第二第四水曜日にしか使用されない空間であったが、この度の事件の為に緊急措置として急遽《クリーム町街道沿い茶店前チワワ・武芸者連続殺害事件捜査本部》が、この会議室に設置されたのだった。

イサミちゃんが広い室内へと足を踏み入れる。

と、整然と着席して待っていた捜査員達が皆イサミちゃんに注目し頭を下げた。

イサミちゃんが全捜査員達の真前に直立した。

「おはようみんな。本日も生憎の雨天だ。決して捜査し易い状況じゃあ無いが一つ宜しく頼む。」

イサミちゃんの簡単な挨拶を皮切りに、今日の捜査内容と範囲が調整される件となった。

「本日の捜査内容と範囲だが・・・先ず二つの単語を頭に叩き込んで欲しい。《カラス》と《白鴉》この二つだ。これは俺が、とある情報筋から入手した犯人の通り名だ。よって今日この時間を境に捜査内容を大幅に切り替えることにした!」

外の雨が一定間隔を保ちながら窓を叩く。

「これからの捜査は全て聞き込みだけに絞る。行動は二人一組。通り名が《カラス》もしくは《白鴉》という者の情報を得たら、白装束かどうかの確認を取り次第ここへ即報してくれ。身柄確保は全捜査員立ち会いで行なう。俺は犯人確保の段までは、この部屋から出ないつもりだ。」

各捜査員達はイサミちゃんの指示を黙って聞く。

雨の滴が窓の端っこをドクドクと流れた。

「聞き込み範囲は我が国全域の宿泊所。それに空き家や廃屋等の周辺の近隣住民達だ。いいか、必ず全捜査員が集結するまで待つんだ。絶対に単独では踏み込むなよ!本日の指示は以上だ。尚これからの指示の変更は一切しない。場合によっては非常に危険を伴う。十分注意して欲しい。」


「了解!!」

捜査員達は一斉に立ち上がり、それぞれ二人一組になって会議室を飛び出していった。

イサミちゃんは捜査員達を見送ると外へ目を向けた。

滴る雨滴。

薄暗い外の景色。

国中に雨が煙った。

 

イサミちゃんは、いやぁ雨が降ると洗濯物が乾かなくて嫌だなぁ、と思った。


思ったけどイサミちゃんは家事をしない為、本当は全然憂慮などしてはいなかった。




その頃、当のカラスは、雨だよー超ダリィよーとか思いながら、宿の食堂で酒を飲んでいた。


宿の主人は、この人毎日朝から晩まで四六時中酒飲んで大丈夫なの?と心配していた。




ちなみにオジーの屋敷では愛犬チャッピーの葬儀がしめやかに行なわれたのである。




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