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作者: 冬桜

 トントンと、靴先で床を軽く叩く。足に靴をフィットさせて、目の前の扉を開ける。少し重そうな動きで開く扉。起きたばかりだからそう思うのだろうか。眠い目を擦り、学校の鞄を背負いなおして、家を出た。少し暑い日差しが出迎えてくれる。あと一ヶ月もすれば、朝といえど暑い時期だ。せめて今のうちに、完全に夏を迎える前の朝の涼しさを堪能しておこうと思う。

 通いなれた通学路は歩こうと意識しなくても自然と足が前に進む。何度も何度も歩いた道だし、それぐらい不思議でもなんでもない。ぼんやりとした頭で今日の時間割を思い浮かべて、忘れ物がないかどうか再確認する。たぶん、宿題も問題ないはずだ。忘れ物の常連たる自分は、この時点でのチェックはかかせない。

「ま、大丈夫だろう」

 そう言葉を放つ本人は、今確認している事自体が問題だということに気付いていない。

 そのまま、歩き続けて大通りの手前にさしかかる。大通りといっても、学校に面した少し広い通りという意味だ。ここから先は登校している学生も多くなってくる。

 何を考えたのか。通りに出るまで、後少しというところで足を止めた。

 一見、寝てるように見えるほど細められた目からは、内心の動きは読み取れない。

 歩き始めるのかと思いきや、くるっと体を回転させると元来た道を引き返し始めた。


 高台にあるため、この場所は風の通りも良くとても涼しい風が吹く。何気なく足が向く場所というべきだろうか。ふと我に帰ると、ここにいることが多い。行き先を決めていないときは、特に。

 少しだけ長く息を吐く。ため息ともとれるそれは、サボったことへの背徳感や罪悪感からかもしれない。もしくは、気兼ねなく落ち着けることに対する安堵感からくるものかもしれない。

 鞄から教科書をだして、適当に広げる。今日の一時間目は数学だったか。ぱらぱらと目的もなくめくっていく。出てくるのは先人達が築いてきた公式などの数式の羅列。決まってしまったもの。変わることのない不変の法則。

 この教科書に書かれた公式は、何を望んで書かれたものなのか。何を目指してたどり着いた答えなのだろうか。

 こういうことは、あまり考えるべきことではないのかもしれないとも思う。偶然で発見された公式もあれば、純粋な好奇心で導いた公式もあるだろう。必要なのは、なるべくこれらの公式を頭に入れて、問題を解けるようにしテストで良い点をとることだ。将来のことを考えれば、成績は高くしておきたい。そのためには授業を受けて、先生の言われたとおり勉強をしておけば、問題ないのだろう。もし、自分が何も考えずにプログラムで動けるならば、一番効率の良い勉強ができると思う。何も考えることなく、何も思うことなく、何も疑問に思うことなく。飽きることさえ知らずにいられたら、文句なしの優等生だ。

 対して、此処で学校にも行かずに呆けている自分は何がしたいのだろうか。やることがないなら、勉強すればいいのに。ただ怠惰であることは、何の価値もない。

 しかし、だ。プログラムは、所詮プログラムでしかない。命じたとおりに動く。間違った動きでさえプログラムは忠実に再現してしまうのだ。そのプログラムされた将来に、この風を楽しむ気持ちは残っているだろうか。そのとき自分は何になっているのだろう??

 

 朝の冷たさはだいぶ消えてきた。昼になるにつれて、更に気温も上がるはずだ。

 もう一度、意識して息を吐く。出した教科書を鞄に入れて立ち上がる。今からなら、2時間目は出れるだろう。名残惜しそうに風を受けて、学校へと歩き出した。

久しぶりの投稿です。

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