…ゾクリ…~修羅場~
つい、1時間前に彼氏ができた。
現在、何故か私はその彼氏の家のクローゼットに閉じ込められている。
ーー遡ること3時間前。
某マッチングアプリでいい感じになった人と初めて会う事になった。
やり取りをしていても感じていた魅力が、会って尚更増すのが分かった。会ったばかりだというのに、運命を感じてしまうほど。
それは向こうも一緒だったようで、
「付き合ってください」
ご飯後、次どうします・・・?の時間に急な告白。
私の口からは「はい」と、息を吐くように言葉が出ていた。
返事を聞くと彼は嬉しそうに笑い、
「もし良かったら家来る?」
と私の目を見つめる。
…少し早い気もしたけど、運命すら感じてしまっている私には断る選択肢が無かった。
ーーそんな成り行きで彼のお家にお邪魔した訳だけど。
素敵な部屋だね、綺麗にしてるんだね、そんなありきたりな会話を済ませると、
「飲み物持ってくるから座ってて?」
と、彼に促され、いそいそとソファに腰かける。
無意識にベッドへと目がいってしまう自分が何だか恥ずかしかった。
その時ーー、
ガチャガチャと彼の玄関が騒がしくなった。
「ゆうくん、居るんでしょ?ゆうくん!」
玄関の外からは女の人の声。
ドンドンとドアを叩きながら大きな声で彼を呼んでいる。
え・・・?誰…?
そんな事を考えている余裕も隙も与えられずに、
「やばい、隠れて」
そう言って彼は私をクローゼットに押し込んだ。
何?どういう事?
状況が呑み込めずに、私はただただ息を潜める。
そのうちに、ガチャリと外から鍵を開ける音が聞こえ、
「 ゆうくん、また女の人連れ込んでるよね?
さっき見かけたのよ。玄関に女の人の靴もあるし」
と、どうやら合鍵で家の中に女の人が入り込んできて私の靴を見付けて騒いでいるようだった。
こちらからは女の人の姿を確認することは出来ないが声からして彼より年上な様子。
「いや・・・それは・・・・・・」
「もうしないって言ったよね?なのになんで・・・。女の人、 どこに隠してるの?ねぇ、ゆうくん!まさか・・・もう・・・?」
2人のやり取りを聞きながら何故か私は妙に冷静だった。
…合鍵を持ってる時点でもう浮気確定だろうし、 確実に私が浮気相手の方だろう。
見つかるのも時間の問題だし、もう諦めて自分から謝りに出ていこうかと考えていた、その時だった。
「・・・ごめん。母さん」
…え?
お母さん・・・・・・?
「ゆうくん、この前のが最後だって言ってたじゃない。もう、お母さん、無理よ、これ以上は・・・」
そう言って女の人は言葉を詰まらせてどうやら泣いているようだった。
「本当に、これで最後にする。もうしない。約束するから。 ね、母さん」
何・・・?何なの?
なんの話しをしているの・・・?
混乱の中、ふと手先に何かが触れる。
何これ・・・?
それが何なのか目を凝らして居ると、
少しづつ目の前の戸が開いて視界が明るくなるのが分かる。
そして、それと同時に手先の”それ”の正体が、
血がこびりついたナイフだという事が分かった。