第8話 模擬戦終了
決着はついた。
二人の思いは近寄るのか?
模擬戦終了
模擬戦が終わった。
お互い広い場に出てくる。
志郎の火傷は思ったよりひどい。
矢が小さかった。
それで最初の見た目より深いところまで入っていたからだ。
魔法防御を掛けていた。
それなのにこの被害だ。
改めて『彼女の魔法が普通じゃない』と志郎は感じた。
彼女は近づいてきて火傷の上に手を当てる。
手を当てられたところから暖かいものが流れてきた。
なにをしているのか不思議に思う。
治療するなら『薬でも持ってきてくれないか』と思った。
経験は無いが、これぐらいの火傷なら一週間もあれば治る。
現代魔法の技術だ。
もっとひどくても一週間あれば完治する。
そして、ようやく気づいた。
火傷の痛みが引いているのだ。
『痛みが消えていく?』
その意味を理解するのに時間がかかった。
治療だ。
でも今まで経験してきた治療魔法とは根本的に違うものだった。
目の前で傷が消えていく。
不思議な感覚だった。
今までにも治療魔法を受けたことはある。
でもこんなにはっきりと治っていくのは見たことが無かった。
目の前の少女は4種類の魔法を使いこなしていた。
たしか、妹は雷も使うと言っていたからだ。
そして、どれもがはるかに高い水準の魔法だ。。
「ごめんね、つい妹とおんなじ要領で撃ちこんで」
そう謝ると、地面に向かってなにか呟いた。
地面が波打つ。
いきなり、椅子が現れた。
地面に魔力を流し自在に形を形成する魔法だ。
土の魔法だった。
聞いたことはある。
しかし、見たのは初めてだ。
訂正、ここまで大きく変化させる魔法は初めてだった。
そして、そこに座ると手招いた。
目の前にいる娘はもうただの娘なんかではない。
5つの魔法を自在に使いこなしている。
賢者と言われるものは3つの魔法を使いこなすものだ。
それをはるかに上回る娘だった。
父親が無条件で『嫁に欲しい』といった意味がようやく判った。
ただ、父親は『平凡な顔立ちだから期待するな』と言っている。
でも目の前の女の子は過去に見たどの娘より綺麗だった。
この子が本当に嫁にきてくれるのか疑問だ。
「あなたの魔力、本気ならどれぐらいなの」
そう質問してきた。
いままで、魔力計でしか見たことがない。
実際に玉を作って見せて欲しい。
そういわれたのは初めてだった。
玉を手の上に定着させるのは難しい技術だ。
簡単に言うなら動くことで安定させているもの。
それを止めた状態で確認するようなものだ。
だから、魔力を手の間で細かく誘導して安定させる。
なれない術式を詠唱して術を発動させた。
見る見る大きくなっていく玉。
真っ赤な火の色だ。
50センチぐらいになる。
この大きさが魔力値だ。
いつもならもっと大きくなるけど誘導に魔力を使っている。
そこらあたりで力が拡散していくのがわかる。
自分の玉を冷静に見ることに驚いていた。
しかし、そこが限界だった。
「綺麗、真っ赤なんだ」
周りで見ている姉妹たちが覗き込む。
「危ないから離れて」
能力一杯で操作している。
気を抜けば手からとびだしてしまう。
しかし、姉妹と弟は意に介せず覗き込む。
警告するが聞く耳を持たない。
春美が声を掛けてくる。
「触ってもいい?」
なにかとんでもないことを言っている。
止める間もなく手を入れてくる。
確かに炎系の魔術を身に纏っていれば炎は怖くない。
でも目の前の子供達はまるで大きな風船に触る。
そんな感覚で手を出してくる。
「危ない!」
とっさに術を消そうしたが手遅れだった。
そして、気付いた。
目の前の姉妹達はそれをボールでも扱うようにもてあそんでいる。
そう、こちらの手を離れていた。
志郎からボールを取るように魔力の玉を奪った。
そして、傍目に見れば赤いボールで遊んでいる。
当たれば家一軒吹っ飛んでもおかしくないもの・・・のはず?
春美は玉に仕掛けられている誘導の術式を読んだ。
それを、自分用に書き換えた。
そして、姉妹や弟のぎりぎりのところを飛ばして遊ぶ。
触ろうとするとぎりぎりで取り上げるあれだ。
それが志郎の目には手で弾いているように見えた。
そのとき、縁がわの戸が開いた。
娘の母親が出てきた。
とっさに背後の戸を閉める。
「あなた達、それをすぐ消しなさい」
やはり母親だ。
その玉の恐ろしさを良く知っている。
母親の剣幕に驚いた子供達。
目の前でそれがみるみる小さくなっていく。
もう志郎は驚きを越えてあきれていた。
あれだけの力を簡単に吸収・分解してしまう。
子供とはいえその力はあなどれない。
「あなたたち、お姉さんの見合いを邪魔しちゃ駄目でしょう」
姉妹達が姉の見合いを邪魔している所を注意していた。
『突っ込むところはそこなの?』
「さあ、お姉さんの邪魔しないように部屋に戻りなさい」
妹達はしぶしぶ引き上げていく。
「ごめんなさい、子供達が邪魔して」
そう言って母親は娘達の後を追っていく。
『あの炎の玉を見て何にも感じないのか』
志郎は疑問に思う。
「ごめん、妹達が邪魔したみたいで綺麗な玉だったから気に入ったみたい」
さすがに桜子は春美の仕業だと見抜いている。
志郎の術の『邪魔をした』と思って恐縮していた。
志郎は、なにか次元のずれのようなものを感じる。
あれだけの破壊力を持った玉。
それを『危険』と思わない感覚に差を感じた。
「あれで、全力なんだけど」
娘はきょとんとした顔で答えた。
「え?」
やはり、『術の途中』と思っていたようだ。
「あれ以上の玉は出来ない」
「でもあれでは威力なんてないに等しい」
傷つく言葉をさらりという。
「あれでこの家ぐらい軽く吹っ飛ぶけど」
「そうなの、魔力総量が全然足りないけど」
そう言って目の前で手をかざす。
そこに浮かび上がる炎の玉。
志郎の真っ赤と違い青みかかった白色の玉だ。
ただ大きさが2センチほどだ。
周りに漂う魔力は半端ではない。
魔力を勘で読んでみようとする。
測りきれなかった。
そこから感じる魔力総量は測りきれない。
志郎の限界をとっくに超えていた。
縁側の扉が急に開いた。
父親の悟朗が飛び出してくる。
「志郎、大丈夫か?」
完全になにか誤解している。
桜子があわてて炎の矢を消す。
先ほどまであふれかえっていた魔力が急に消失する。
「伯父様、なにをあわてて」
いたずらっ子がいたずらを見つけられたような反応だ。
父親はあたりを見回す。
そして、だれもいないのを確認して安心する。
「すまない、凄い魔力を感じてまた襲われたのかと」
どうやら、桜子の作った玉は父親にもわかるほどのものだ。
それじゃ、志郎の作った玉では父親まで届かなかった。
その力の差に衝撃を感じた志郎だった。