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桜子伝  作者: いかすみ
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第4話 桜子の日常

桜子の日常


桜子さくらこ

昔からの風習というべき形で決められていた名前。

ありきたりの名前だ。

でも歴代の王家の中にあったらしく歴史的には有名な名前だった。

ただ、母方の実家で桜という名前はありふれている。

なにか、昔ものすごく強い人がいたらしい。

それにあやかって付ける。

その子供が桜子という名前は半ば当たり前のこと。

そんな自分の名前に不満があるかといえばそうではない。


両親は魔法など関係ないような生活をしている。

後で知ったのだがあまりに魔法を自然に取り入れていた。

だから、桜子は気づかなかった。

世間では『魔法』と言うのはもっと構えて使うものだ。

子供の遊びに『魔法の打ち合いするようなものではない』と後で知った。

そして使っている魔法が『特殊』というのも知らない。


それと、他の家と大きく違う事があった。

それは踊りを教えられたことだ。

母親が踊りを父親から習っていた。

幽玄といってもいいような踊りだ。

そんな母親を桜子も見ていてあこがれた。

そこで、父親から教わって今では母親に負けないだけ踊れる。

妹と弟も習っていた。

しかし、まだまだ未熟だ。

この踊りが特殊だったというのも家を出るときに教えられる。

そして、母親から『人前では絶対に見せてはいけない』と念を押された。


八歳の身で弟と妹の面倒を見てすでに『所帯じみている』と思う。

妹が四人もいて、弟が一人だ。

オムツの交換なんて四歳のときからさせられている。

そんな桜子なので、年より大人びていた。

時々遊びに行く村では桜子は一目置かれる待遇だ。

桜子の態度だけではない。

父親が村に大きく貢献していたからだ。

村人からは『お嬢様』といって別格待遇にさせられる。

だから、桜子としても面白くない。

子供達も遠慮して遊んでくれないからだ。

それと、村に遊びに行く時は当然化粧をしていく。

そのため、少し不細工にみえるようにしていた。

年上の男の子は村の女の子に夢中で面白くなかった。

もっとも遊んでくれても手を抜いているのか面白くない。

だからいつも妹や弟と森で遊んだ。


森で妹や弟を相手に水魔法の打ち合いをする。

魔法で水玉を作り打ち合う。

魔法の玉は標的や障害物に当たると魔力がはじける。

水は弾けて表面を広がっていった。

もっとも、桜子が打ち合う水玉はかなり硬い。

そのため、当たれば痛みを伴った。

けれども、桜子達の魔法耐性も半端ではない。

そのような玉でも軽い痛み程度だった。

勿論、服も濡れた。

最後は水を固めて回収するので濡れた服も簡単に乾く。

もっともお互いに簡単には当たらないけど。

私は最年長で下の妹を守りながらの防御戦がほとんどだ。

下の妹達は盾を作って襲撃に備える。

五歳と四歳の妹達だ。

盾といってもそんなに大きくない。

魔力展開が不十分だからだ。

そのため、大抵はやられてしまう。


攻撃してくるのは、すぐ下の妹達だ。

桜子より、一つ下の双子だった。

息の合った連携攻撃は盾の隙間を縫うように巧妙に攻めてくる。

そして、6歳になる弟は力任せの攻撃を仕掛けてくる。

2歳の差があっても互角だ。

5歳、4歳の妹達では受けられない。

結局、弟の攻撃を桜子が一人で対応する形になる。

その間に双子の妹が下の妹達を襲う。

最後はいつも下の妹が泣かされるはめになった。

桜子は、結構厳しい攻撃をする。

けれども、いつも軽々とかわされてしまう。

追撃弾でさえかわされるのだ。

もっとも、こちらも当たらないのだが。

下の妹2人はまだ体さばきが不十分。

そのため、結局当たってしまう。

最初に二人がリタイアだった。


守るべき者たちがいなくなれば逆転だ。

桜子の反撃が開始される。

そして、次々と泣かされる羽目になった。

当たっても雪球が当たる程度の衝撃だ。

だから、痛いわけではない。

負けて悔しいから泣いているのだ。

負けず嫌いな妹と弟達だ。

最後は桜子の一人勝ちで終わる。


魔法の打ち合い以外でも、鬼ごっこなどを行う。

女の子でも妹や弟を相手に格闘の練習をやる。

多少の怪我などは自力で治せるぐらいになった。

だから寸止めではなく軽く当てる。

でもお互い怪我をする寸前にかわす。

そのため、治療を使うことはほとんどない。

魔法の打ち合いは森より庭でやるほうが桜子は得意だ。

どちらかと言えば家の庭でやる魔法の打ち合いがスリルがあっていい。

庭で行う時は火を使うからだ。

かわした時の臨場感が違った。

炎が空気との抵抗で音を立てて抜けていくからだ。

水では迫力に欠けた。


庭の練習場には、あちこちに隠れるための石の柱が立ててある。

そしてお互い隠れながら魔法の撃ち合いを行う。

すぐ下の双子、春美と秋奈にはハンデをあげない。

でもその下の智志には誘導弾を使わないというハンデだ。

花梨は智志より一つ下の妹で琴美が一番下の妹だ。

みんな一年づつの年の差だ。

一番下の妹琴美は4歳でまだ早く動けない。

でも魔法の威力はほとんど差が無い。

油断をすれば怪我をしてしまう。

桜子の妹といえ末恐ろしい存在だった。


桜子が、いま相手にしているのは春美と秋奈のコンビだ。

どちらも桜子と同じ速さで魔法を撃ち出してくる。

見つけたら即かわさないと当たる。

音を聞いてからでは遅かった。

常に魔法の軌跡を見ながら動かないと餌食だ。

桜子も誘導弾や追跡弾を撃てる。

けれども、誘導弾や追跡弾を使うと春美に逆誘導されてしまう。

そういうところが天才的だ。

ただ、逆誘導できるのに自分で楽に撃てない弱点があった。

術式構築に時間が掛かるからだ。

秋奈の方は誘導弾が得意だけど逆誘導が出来なかった。


桜子の得意技は、体の動きの速さだ。

同じ速さで撃ち合っても相手はかわせない。

けれども桜子はかわせる。

だから、接近して撃ち合えば桜子の勝ちだ。

二対一で互角の勝負をする所以だった。

二人はお互いをカバーしながら桜子に迫ってくる。

桜子は柱から飛び出す。

案の定、桜子を狙って一人が魔法を撃ってきた。

それも追跡弾だ。

秋奈の得意技だった。

でも甘い。

追跡効果が効くのは回転半径2メートルだ。

だからそれより早くかわせば外れる。

なまじ魔法を撃ったことで位置がわかった。

一気に距離をつめる。

場所を変えたことで春美の位置も見えた。

彼女に向けて6発の火の矢を放つ。

腰の高さに扇状に放つ。

これで彼女は柱の影に入るしかない。

直線しか撃てない春美はこれで封じた。

相手は秋奈一人。

『もらった!』

そう思って、一気に距離を詰めた。

目の前に秋奈。

撃ち合えば勝利はかたい。

『とどめだ!』

そのとき、背中に衝撃を受けた。

『背中に衝撃?』

誘導弾の警戒はしていた。

それだけに驚くばかりだった。


「やったー、初めて姉さんに勝てた!」

「なにをやったの?」

「姉さんに関係ない方向に4発撃って追跡をかけておいたの」

「でも見えなかったわ」

「だって撃ったのは私じゃないもの、それとね一番の成功は私、春美なの」

「え?、誘導弾を撃ったじゃない」


直前の戦闘で目の前の彼女から放たれた矢が追尾型の誘導弾だった。

目の前の妹が秋奈と考えた理由だ。

そして、春美からの直線弾を確認して牽制を放った。

だから、秋奈からの撃ち出しだけを警戒していた。

まさか、位置を確認して柱の影から大回りする誘導弾とは思わなかった。

それも視角に入らないように上に放っていた。

おまけに最終軌道調整は春美が行っていたからだ。


「あれね。事前に撃っておいた矢の軌道にあわせて飛び出して私が打ったよう

 に見せていたの」

「そんな、見事にだまされたわ」

「でももう次は使えないわね」

「見事だったわ。今日は完敗よ」

こうして桜子の模擬戦は終わる。

秋奈の誘導弾を春美が奪うのは承知していたのに・・・

桜子は思い込みと油断が命取りと知った。


場所を空けて妹と弟の戦いを特等席で見る。

弟一人に妹2人が戦う。

縛りとしては誘導弾禁止だ。

3人ともまだ誘導弾や追跡弾を使えないから見ていて面白い。

最後は矢の打ち合いで終わるのだ。

姿を隠し合っての打ち合いだ。

数の妹、正確さの弟だ。

今日は下手な矢も数撃てば当たるの典型で弟が負けた。

次は、秋奈と春美の一騎打ちだ。

どちらもお互いの手の内が知れてる。

結局、秋奈が運良く勝った。

下の妹達はなす統べなく秋奈の攻撃で負けた。

弟と違い速射で勝り正確さで勝っているのだ下の妹達では相手にならない。

今日の優勝は秋奈だった。


こうして、一日の遊び?は終わった。

これ以外にも的当てなどで遊ぶこともあった。

子供に合わせた重い標的が用意されている。

打ち落とすのは結構大変だ。




参考

魔法の玉は4センチ以上は玉という。

しかし、4センチ未満は矢という。

由来は小さい玉は速度が速い、そして残像を残していく。

それが矢のように感じるからという説。

もう一つの説もある。

矢には威力がない。

だから、玉には(ならない矢)という蔑称という説もある。


森の動物はみんなやさしい。

桜子達が近づいても逃げない。

それどころか兎やリスなどは近づいてくる。

野犬などは遠くに見かけると逃げていく。

いつも不思議な感覚だった。

だから、桜子は森が好きだった。

妹達を連れて遊びに来て木の実など一杯とって帰ることもある。

森は姉妹達にとって最高の遊び場だった。

魔法の火や雷も使えるが森では禁止されている。

風や冷気は危ないからこれも禁止されている。

当然だった。

火を使う遊び場は庭に用意されている。

風は魔法化しても見えないから威力は弱くてもかわせない。

冷気は広域魔法になりやすいからやはりかわせない。

だからこの二つは遊びから外されている。

これも後で知ることになったのだが遊びの形をとった訓練だった。



雅雄の指導方針の一番大きな特徴は本人に魔法属性を教えなかったことだ。

普通は自分の家は火が得意とか水が得意など家が引き継いでいる属性がある。

それが、魔法の枠を逆に決めてしまっていた。

しかし、属性を決めるメリットもある。

一芸に秀でることが出来る利点だ。

人の一生は短い、いろいろな魔法を覚える時間が無い。

雅雄は子供達の魔力の高さから全魔法の底上げを考えた。

そして、魔法にイメージを重ねることを教えた。

魔力を込めた石を投げるイメージだ。


子供達は遊びの中で小さい玉に威力を込めていく。

最初から魔法の玉は『そういう物』という意識からだ。

自分が投げ易くて重い玉をイメージしていく。

空気抵抗が少ない方が当たりやすいということは体が覚えた。

威力があっても相手に当たらなければ意味がない。

遊びの中に魔法を取り入れた教育法だ。

それを初めて見た桜の衝撃は・・・

四歳の桜子に初模擬戦で負けた桜だった。



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