第39話 救世主の子供
救世主の子供
長老の危篤の連絡を受けた桜子。
桜子は先ほどの面会の部屋に全力で向かう。
もう能力を押さえている余裕はない。
綺麗なドレスをたくし上げて走る桜子は風だった。
桜子は後悔していた。
なぜあの時治療しておかなかったのかと。
長老の手を取ったとき見えた。
心臓の周りの血管異常だ。
それも危ない状態だった。
だが、周りに人の目もあった。
それで、そのままにした。
『後で治せばいい』と考えたからだ。
狼家に入って七年の時間は遊んでいたわけではない。
狼家のしきたりや、風習などを勉強してきた。
そして、治療の技術も向上させている。
それなのに肝心なところで後悔するはめになった。
警備担当の男が桜子を止めようとした。
しかし、桜子の防御結界に跳ね飛ばされる。
壁に叩きつけられた護衛は茫然としていた。
本気の桜子を止められるものはいない。
医者が一生懸命救命していた。
それを無視して胸に手を当てる。
そして、力を注いだ。
周りの者は桜子を止めることもなくただ見ているだけだ。
心臓停止寸前で痙攣していた長老。
すぐに落ち着いた呼吸を取り戻す。
心電図は安定した揺れを取り戻した。
長老は、桜子の強引な治療で助かった。
その奇蹟の技に誰も言葉を発しない。
長老は、桜子にねぎらいの言葉を発する。
その時、桜子は狼家の一族として受け入れられた。
伝説の強者と同じことをしたからだ。
狼家の神話に乗っている治療法。
それは、神話の復活だった。
それ以後、志郎と桜子の結婚に関して誰も不満を言わなくなる。
そして、結婚式。
結局、親子そろってのダブル結婚式になった。
そして、異例の長老の出席。
長老から出される宣言。
「悟朗を当主としたあと、次の当主は桜子とする」
周りの大人はもちろん桜子本人も驚く。
そして、長老が出したものは祖母の絵だった。
「桜子を直系の先祖の者と同格と認める」
そのように宣言したのだ。
一族にとって『血がすべて』と言っていい。
より血の濃い桜子を当主として長老が認めた。
それはある意味長老の勘だ。
その後、悟朗がもう一つの事実を伝えた。
事態の収拾を図るためだ。
『桜子が救世主の娘だ』と伝えた。
その事実に驚く一族。
そして、長老の宣言を厳粛に受け止めた。
こうして桜子は狼家の将来の党首として認められた。
一族以上に驚いたのは桜子と一緒に出席していた子供達だ。
いままで、『英雄達の方が偉大だ』とばかり思っていた。
その意識が逆転したときだ。
そして、悟朗の結婚に参加していた他家の英雄も同じ。
すでに事実上婚約していた三家は胸を撫で下ろした。
これで、一族で反対する者は皆無になるからだ。
残る二家、熊家と蛇家の当主。
二人は桜に子供達の婚約を迫っていく。
兄の暴露に腹を立てた桜。
『婚約は後日改めて』と返事をしてその場を収める。
結婚式のやり取りは桜を通じて雅雄に伝えられた。
悟朗と再会の時の約束。
それは雅雄の『救世主』と言うことの秘密だった。
悟朗が、公表した事に対して雅雄のとった態度。
それは、行方不明だった。
悟朗は桜子の狼家の地位を確保。
その代償として雅雄との接点を失った。
桜子夫婦が実家に遊びに行ってもそこにあるのは空き地だ。
桜子が兄弟姉妹と再会するのは他家の結婚式の場だった。
各家の跡取りは桜の子供を相手として結婚していく。
狼家の公表を信じた結果だ。
残り二人も後日見合いをして正式に婚約となる。
その公表のあと救世主の血の争奪戦を抑えるための手段だ。
これで、六家に均等に分配は行われたことになった。
子供達は互いに連絡を取り合い仲良く過ごす。
しかし、雅雄との接点をなくしてしまう。
ただ、桜だけはきままに子供達の所を回って顔をだす。
その後を尾行したものはことごとくまかれていた。
雅雄が世間に顔を出すことはそれ以後一度もない。
子供でさえ雅雄に会うことは出来なかった。