第2話 悟朗の行動
手紙を読んで思い出す過去。
悟朗の意識は過去に飛ぶ。
悟朗の行動
そして、割と裕福だった悟朗の家。
その家にも暴徒が押し寄せた。
兄が威嚇のため魔法を空に向けて一発放つ。
しかし、それは最悪の扉を開くノックとなった。
直後に襲う無数の魔法弾。
悟朗の兄は最初の一斉攻撃で帰らぬ人になった。
悟朗は多勢に無勢でたちまち追い込められた。
暴徒と化した人から逃げるのが精一杯だ。
そして、対魔法の障壁に優れた資料室隠れた。
そこに甥と姪を連れ込むのがやっとだった。
表の館は蹂躙にあっているのが目に見える。
物が壊れる音が響く。
興奮して叫ぶ人もいる。
もう本来の目的は忘れてただあばれているだけだ。
幸いというのか当然というのか従業員はいない。
前日まとめて暇を取っていたからだ。
今頃、みんな実家に向かっていた。
一応、引きとめたのだ。
しかし、『最後は家族と一緒にいたい』という言葉に負けた。
給料は払っても意味が無い。
政府が崩壊すれば、金など屑だ。
だから、家にある食料や道具を餞別に持たせた。
そして、帰らせたからだ。
暴徒がついに資料室の扉を叩いた。
妹と甥姪を背後に魔力を高める。
侵入者に一矢報いるためだ。
妹、桜も『一緒に戦う』といってくれた。
扉は壊れていく。
甥が背中にしがみつく。
姪は妹の背中にしがみついている。
死を間近に感じた時だ。
そこまでは覚えていた。
はっと目が覚めたように気づく。
目の前に綺麗な顔の男が立っていた。
扉は全開で開いている。
なぜ、暴徒が入ってこないか不思議だった。
そして音が聞こえないことに気付く。
よく見ると止まっていた。
妹も甥も姪も止まっているのだ。
目の前の男は微笑んでいた。
「事情を教えてくれるか?」
聞きたいのはこちらだ。
なのになにかを聞いている。
「なにが知りたいのですか」
悟朗は男からの圧力のようなものを感じた。
思わず、敬語で返事をする。
無意識に相手に媚ていたからだ。
「魔王という言葉をよく聞くのだけど魔王を知っているのか」
目の前の男は『あの放送を聞いていないのか』と考えた。
「黄国の辺境に現れた怪物の事です」
その迫力に知らず知らずに言葉が丁寧になっていく。
「どういうことだ。魔王というのは私のことではないのか?」
「???あなたは、誰ですか」
それが魔王と名乗る不思議な男と悟朗の出会いだった。
それから男のやったことは凄かった。
町中の人間の意識調整を行う。
そして、暴動を一瞬で鎮圧したのだ。
その持っている魔力は計り知れなかった。
最初に接触したときから不思議な縁だった。
男は情報中枢を求めて狼家にきたようだ。
そして、暴徒が押し寄せていた資料室にたどり着いた。
あと少し遅れていればどうなっていたのか。
それを考えると幸運だった。
館はあらされ放題だった。
でも静かに引き上げて行った暴徒達に恨みは無い。
正直に言えば誰を恨んだらいいのかわからないところだ。
兄の命を奪ったのは誰の魔法なのかはわからない。
『魔王に命を奪われる』と信じた群集心理のようなものだ。
強いていうなら魔王が対象だ。
目の前の男は白野雅雄と名乗った。
こちらも狼悟朗と名乗る。
一段落したところで、ちゃっかり桜も名乗りをあげていた。
いつのまにか背後で聞いていたようだ。
桜は甥と姪を寝かしつけるため離れた。
しかし、気になるのかいつの間にか忍んで来ていたからだ。
雅雄は魔王を倒すという。
あの魔力なら可能かもしれない。
しかし、雅雄は信じられないことを言う。
黄国の魔王は『自然現象』というのだ。
人間が引き起こした『自然災害』というのが正しい。
現象事態に『意志は存在しない』という意味だ。
てっきり『魔王が自分の意志で世界を滅ぼす』と思っていた。
だから、驚きだ。
なぜ人間を使役しないのか。
その点が、不思議だったからだ。
一方的に人間を滅ぼすように感じた。
それは間違いではなかった。
魔王との交流が図れないわけだ。
政府が隠した理由もなんとなく判ってきた。
自分達が起こした『災害』だ。
公表できるものではない。
そして、対策がないから隠すしかないのだ。
相手に意志でもあれば交渉の余地がある。
相手が自然現象ではどうしようもなかった。
雅雄は『勝つ自信は無い』という。
あれだけ凄い力を見せながら『勝てない』というのだ。
それは『過去の対戦でわかっている』という。
過去の対戦?
それでは目の前の男は中世から生きている。
そういうことになる。
はなしを聞くと『3日前の爆発時に召喚された』という。
あれほどの爆発を起こす魔法でも魔王は倒せない。
『魔王というのはどれほどのものか』と思った。
魔王の正体が『異次元との穴』といわれた。
破壊力では『逆効果』という。
雅雄はとりあえず人間を落ち着かせる。
だから、『案内して欲しい』という。
それと『魔王と決戦するとき手伝って欲しい』という要請だ。
まず、その要請に答えることにした。
そして、近隣の町を自動車で案内する。
自動車というのは電気を貯めて動く乗り物のことだ。
一部の魔術者の中には自分の魔法で動かすものも居る。
電気は発電所から供給されるものだ。
幸い暴動中でも電気は自動で供給されていた。
一緒に回った結果は悲惨なものだった。
2人で回った街から暴動は次々と鎮圧していく。
やがて、雅雄のことは救世主と呼ばれるようになった。
本人はただ力を使っているだけだ。
それを悪用しようという意識。
それは無いように感じた。
そこに人間の欲のようなものを感じない。
不思議な感覚だった。
まるで、人形を相手にしているような感じだ。
でも人形にしては普段の態度などを見れば判る。
雅雄は、明らかに人間だ。
ちょうど人間から悪い心を取り除いた聖人という印象だった。
その感覚はあとで事実とわかった。
力の強いものを求めて親戚の家に寄る。
親戚の猪家でも暴動の被害にあっていた。
屋敷は破壊されている。
幸い、姫と呼ばれる娘は中央に働きに出ていた。
だから、被害にあわなかった。
きつい性格の美人だ。
一時は兄との関係を噂されていた。
しかし、悟朗の目から見れば判る。
どちらも対象外の存在のようだった。
単に年が似通っていた。
そのため、回りが2人を会わせようとしただけだ。
残っていた親戚に雅雄の要請を彼女に伝えるように頼んでおいた。
『救世主』という噂が広まるにつれて暴動は収まっていく。
政府を含めて民法の放送局が一斉に救世主降臨を伝えていた。
それを聞いた人から希望が生まれる。
『人類は滅びないかもしれない』という希望だ。
でも、放送局がよくそんなあやふやな報道をしたものだ。
悟朗は、そのことに感心した。
結果的に一番早い暴動鎮圧手段だ。
それは確かだった。
雅雄の直接手段より効果的だ。
その手腕に敬意を感じた。
魔王鎮圧のために多くの人が協力を申し出てくれた。
結果的に遠い親戚を含めて知っているものばかりだった。
よくそれだけの大物が動いた物だ。
悟朗では相手もされない存在だった。
兄が居れば間違いなく兄だったけど。
悟朗は、選抜試験を受けてかろうじて6位に入った。
他の五人に比較すれば劣るのは当然だった。
妹は僅差で負けて悔しがった。
その気持ちは悟朗に良く判る。
なにしろ、双子なので能力差は極僅かだったからだ。
選らばれて喜ぶより責任の重さを痛感するぐらいだった。
そして、雅雄よりアイテムを渡される。
渡された瞬間、体内の魔力が跳ね上がった。
体中の感覚が開いた印象だ。
聞いた事がある。
魔法強化の品だ。
ほかのメンバーの中には使ったことがある者も居た。
それでも、『これほどのものは初めて』という。
やはり驚いていた。
それが、先祖から伝わった奥義書とは知らなかった。
それも、能力がまだ開いていない物とは尚更だ。
雅雄はメンバーを選出すると次の指示をだす。
地図を出してポイントを示した。
魔王を中心とした6箇所だ。
現地で探って『最良の場所を見つけてくれ』という。
意味が判らなかった。
けれども、示された場所に行って初めて事情が判る。
すでに、前任者が道を作っていたからだ。
悟朗はその前任者と同じ場所に座るだけだった。
前任者?
それは、雅雄が中世で戦った時の協力者のことだ。
雅雄自身はべつの用事で動くらしい。
桜を案内人につけて自由に任せた。
そして、七日後魔王の近くで落ち合う場所を決めて別れた。