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桜子伝  作者: いかすみ
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外伝 杏1

殺し屋として桜子の周辺に現れた杏。

だが、好きで殺し屋になったわけじゃない。

杏を殺し屋にしなければならない敵がいたからだ。

そんな杏の物語です。

杏1


「ねえ、忠志ちゃん今度はなにをして遊ぶ?」

「しつこいなー、おままごとを付き合っただろう」

「でも、杏の料理全然食べてくれなかったじゃない」

「中身は、草と砂ばかりじゃないか」

そう言うと立ち上がった。

そこには今にも泣きそうな女の子。

「悪かったよ、でも僕は普通の家庭を持ちたくないんだ」

「どういうものなの?」

「お父さんを見習って、じょうほうの世界に生きるんだ」

「それってなんなの」

「みんなを幸せにする仕事さ」

「私も幸せにしてくれるの?」

「もちろんだ、」

「ふーん」

「それでね、杏」

忠志は真っ赤な顔だ。

「なあに」

「僕と結婚してくれないか」

「え?」

ようやく口にしたせりふ。

朝からずーとチャンスを待っていた。

「みんなを幸せにするとき、隣にいてほしいんだ」

「うーん、いいよ。お嫁さんとして、いてあげる」

「ありがとう、君もきっと幸せにするよ」

「まってるわ」

「それじゃ、今日はお父さんが帰ってくるんだ」

やはり婚約を口にしたのが恥ずかしいのか逃げるように離れていく。

「ばいばーい」

杏が見送る。

忠志は振り返ると

「また明日ね」

杏が幸せだった子供時代の最後だ。

杏が五歳のときだった。

里美は三歳だ。


近くで遊んでいた妹を連れて家に向かう。

金のかかったままごとセットを持っている。

杏の家はそこそこの格式の家だった。

杏が門を通るとき不自然に感じる。

門番がいないからだ。

そして屋敷に向かう。

そこにあったのは魔法の攻撃を受けて扉を破壊された家だった。

中に入ると悲惨状態だ。

両親の二人は折り重なって黒焦げになっていた。

妹はそれを見て倒れる。

先に妹が倒れたので、杏はそれに気を取られた。

そして事態を把握しきれなかった。

食品関係を扱っていた家だ。

狼家と親しく取引してた家だった。

けれども、この日すべてを失う。

手広く黒国で商っていた。

暴動でそれらを略奪されてしまう。

新入荷の予定のものは供給出来なくなった。

それに怒った取引先のものが襲ったのだ。

そして、二日間2人は動こうともしない。

次の日には街中が狂ったように行動していた。

杏の家はその最初の被害者だった。



そして、救世主が降臨した日。

暴れていた人が急におとなしくなる。

街を管理している人が各家の被害状況を確認していく。

そのとき、ようやく発見された二人。

意識不明の状態だった。

近くに親の死体。

二人は孤児院に回される。

運んでいく途中で回復魔法を掛けられた。

意識が戻ったときは孤児院に入る直前だ。

孤児院はあふれた孤児でごった返していた。


それでも、食料はかろうじて配給された。

なんとか食いつないで日を過ごしていく。

寝るだけの空間しか与えられない。

そんな日々が続いた。

街には救世主の噂があふれている。

しかし、杏と里美に救いはこない。

元の屋敷は借金の抵当に消えていた。

親戚達は二人を見限った。

みんな自分が生きるのに必死だ。

あの日から半月過ぎたとき、人々の歓声が上がる。

魔王が滅んだという叫び。

でもそれですぐ元通りになるわけじゃない。

荒らされた農地には何も生えていない。

略奪で根こそぎ持っていかれたからだ。

政府が持っていた種が実るのは早くて半年だ。

その間孤児院はわずかな配給でしのぐ。

篤志家による食料支援があったからだ。

一般の中には餓死するものもいた。

悪夢の一年だった。


金持ちの家はたくわえが豊富で楽々しのいでいた。

そんな中、子供をさらう者がいる。

金持ちの子供をさらって身代金をとる。

味をしめた犯罪者は規模を大きくしていく。

手当たりしだいにさらわれる子供たち。

そして、子供は金持ちの奴隷として売られるようになった。

家に帰っても地獄、そこにいても地獄の救われない子供だ。

その組織は人身売買を主流として瞬く間に全国規模になった。


売るものの無いものからも情報を買い取る。

そんなおかしな団体がいた。

物の無いものには救いのような集団だ。

それが疾風かぜの母体だった。

どこから金が出るのか不思議だった。

しかし、それにより多くのものが救われる。

杏は里美を連れていろいろな情報を入手するため動いた。

それを、情報屋が買ってくれるからだ。

有益な情報なら高い。

特に金持ちの動向は高く買ってくれた。

杏は毎日黒板を見て依頼書を探した。

自分達の力で探せるものを。


そんなある日、周りを囲まれた。

噂の誘拐団だ。

抵抗しようとした。

けれども、雷の魔法で気絶させられる。

車で運ばれる途中、今度は車が襲われた。

そして、助けられる。

それが、杏と疾風の本格的出会いだ。

杏の目から見れば、誘拐されそうな子供を守る集団だった。


杏が十二歳になると孤児院を出される。

妹は『一緒に』と言って付いて来た。

そして、疾風に誘われる。

あの情報屋が疾風の黒国本部だ。

入隊の誓いは信じられないものだった。

1、人々を幸せにする。

2、上位の言うことは逆らってはいけない。

但し書きがあった。

『自分の信念と尊厳に逆らうことはやらなくていい』というのだ。

『なんだこの集団は』と本気で思った。

しかし、崇高な信念で動く仲間。

彼らは生き生きとしていた。

主なものは誘拐された子供の捜索だ。

そんな時、疾風の大幹部が現れた。

そして、1日、講習を受けさせられる。

集められたのは黒国活動メンバーの主だった者だ。

そのわずか1日で情報分析と最低限の魔法(雷)を教えられる。

接触して発動させれば確実に効果のある上位魔法だ。

そのときは『最低これぐらいは』と言われる。

それで『初級の魔法だ』と思っていたぐらいだ。


杏が十三歳の頃から社会は安定してきた。

それと共に誘拐団の活動も落ち着く。

子供の必要性がなくなってきたということだ。

だが、まったく無いわけではない。

好事家が必要とするようになってきた。

より、悪質になったというべきだ。

綺麗な子供が軒並みに狙われた。

逆に言えば普通の子は安全になった。


黒の疾風はそんな子供の救出に多く活動した。

売られた子供の行方を捜し買い戻す。

杏も情報屋に連れられていくこともあった。

子供をあやすのに女の子の方がいいからだ。

そんなとき、子供を帰す代わりに杏を求められた。



金持ちとしてはお金などどうでもよかった。

もし正式に訴えられるとやっかいだ。

勝てるけどうるさいことになる。

ばれた時点で半分あきらめていた。

それなら、『目の前の可愛い娘を抱いて手放せばいい』という感覚だ。


「一度でいい」と言われた。

情報屋は一切催促はしない。

『杏に任せる』という。

でも疾風の資金は苦しい状況だ。

それは、情報屋の日頃の発言を見ていればわかる。

その金で多くのものが救われた。

杏もその一人だ。

杏は男の提案に乗った。



次回、杏が殺し屋になり桜子に助けてもらうまでを書きます。

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